大規模な社会インフラとしての情報システムを構築・運用してきたNTTデータ。同社の山本修一郎 技術開発本部副本部長 SIアーキテクチャ開発センタ長は、ネットワークですべてが結ばれた今後の社会には、「EA 2.0」が求められると話す。(聞き手は岡本 藍)

「EA 2.0」とはどういったものなのか。

写真●NTTデータの山本修一郎 技術開発本部副本部長 SIアーキテクチャ開発センタ長
写真●NTTデータの山本修一郎 技術開発本部副本部長 SIアーキテクチャ開発センタ長

 一言でいえば、次世代のEA(エンタープライズ・アーキテクチャ)ということになる。現状のEAは、主に業務やシステムの全体最適化に焦点を当てたものだ。この考え方をさらに発展させ、経営戦略そのものの実現に結びつく情報システムを開発・運用できるようにするのがEA 2.0である。

 これまでも経営戦略を立案する際には当然、法制度や社会への影響などを想定してきた。しかし、それはシステム全体の設計方針に反映されたわけではなかった。EA2.0では、こういった要素をシステムの開発や運用にきちんと反映していく。

ゴール指向要求工学も重要に

 もちろん、これまでと同じ方法でEA2.0を策定するのは簡単ではない。今、我々が重要だと考えているのは、ゴール指向要求工学の考え方だ。ゴール指向要求工学を用いることで、どのような「思い」を持って情報システムやソフトウエアを開発するのかを論理的に説明し、さらにその思いと実際の機能が適合しているのかどうかを確かめる指標ができると考えている。

 これが可能になれば、信頼性や安全性など非機能要件についても、かなりの程度まで定量化していけるようになる。目的の部分を定量化できれば、どういった点を重視してシステムを開発すればよいのか、どこを改善すべきなのかを明確にできる。目的が定量化できれば、なかなか実現が難しかったシステムの投資対効果の測定も可能になる。

現行のEAですらきちんと策定できている企業は多くない。ましてやEA 2.0を実現は簡単ではないはずだ。

 我々は、実際にシステムを開発する際に使う4種類のフレームワークを提供して、EA2.0の実践の敷居を下げたいと考えている。具体的には以下のものになる。

 一つは、経営戦略だけでなく、社会制度まで含めて要件を分析するフレームワーク。二つ目は、システムの品質や性能要件などを定量化して管理するもの。三つ目は、セキュリティなどのリスク管理指標を管理するもの。もう一つが、実際に情報システムが完成して運用段階に入ってから、当初の目的を実現できているかを測定するものだ。2007年末には、当社としてフレームワークを含めた開発方法論を公表したい。

ITが社会に融合する時代に備える

なぜEA2.0が必要にだと考えたのか。

 これから10年、あるいは20年先を考えると、ITは今以上に社会に融合していく。この時代のITは、特定の業務やプロセスを自動化したり効率化したりするためのITとは異なる。融合しているのだから、ITが社会そのもののあり方に直結することになる。これまでITの世界で使われてきた「信頼性」や「安全性」という言葉も、定義が変わってくる。こういった社会が求めるITを考えた結果、EA2.0に行き着いた。

既存の情報システムでも、信頼性は重要な要素だったのではないか。

 その通りだ。ただ、これまで重視されてきたのは、突き詰めればシステムの稼働率の問題や障害復旧時間の話。この二つだけでは、社会と融合するシステムの要件としては不十分なのだ。社会制度を意識してアーキテクチャを設計した上で、信頼性のような非機能要件も明確に数値化しなければならない。

 ITと融合した社会では、生活やビジネスのいたるところでソフトウエアが動作することになる。ソフトは規模が大きくなればなるほど、バグが増え、信頼性が低下しやすくなる。一つのバグによって発生する影響は、これまでよりも広範囲になり、甚大な被害が生じる可能性がある。現状の開発の仕方では、こうした社会に対応したソフトや情報システムを開発するのは難しい。

 一方で、ソフトウエアによる自動化を徹底すれば、人間のミスを減らすことができる。ITを使って社会の信頼性を高めることも可能だ。将来のITを考える際には、この両面を考える必要がある。

 すでに現在、ITと社会の融合は進み始めている。工場における制御システムがそうだ。一昔前、工場で利用していたソフトウエアは最大でも700万ステップといわれていた。それが今や、その10倍、20倍の規模のソフトを使っている。ITなしに“ものづくり”は不可能であり、今や製造業はソフトウエア産業といっても過言ではない。

 今後は、あらゆる分野で工場と同様のことが起こってくる。その対象もビジネスの世界だけではない。日常生活にもITが大きくかかわることになる。最近では、日常生活を支援するロボットが話題に上るようになった。こうしたロボットを動かすにはITが不可欠だ。