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エンパワー・ネットワーク
プリンシパル
池田 輝久

この春も多くの学生が新社会人へと旅立つ。期待と不安が入り混じった気持ちで,飛び込んだ社会人の世界。そこに無限の可能性があることは間違いない。大きな夢に向かって進んでほしい。夢を実現するために,新入社員,彼らを迎える先輩社員,経営陣の方々にそれぞれ提言をしたい。



 新入社員を会社の屋台骨に育てあげるのは,新入社員,上司,経営層みんなの共同作業である。今までもすべての会社が必死で取り組んできたにもかかわらず,一度たりとも満足感を抱いたことのないテーマでもある。今年こそは,3者それぞれの努力により“やった”と言えるものに仕上げてほしい。

新入社員への提言

 私はビジネスパーソンになったばかりの若い人たちと話をすることが多い。彼らは異口同音に,「ベンチャー・ビジネスの経営者になりたい」,「コンサルタントになりたい」などと将来の目標を語る。

 驚かされるのは,彼らはできるだけ早く,できれば今すぐそうなりたいと言う。「イチロー」,「中田」,「タイガーウッズ」といった若いスーパースターのようにビジネスの世界で活躍したいという夢は素晴らしいし,間違いなくその可能性はある。

 しかし,スーパースターがその座を勝ち取るためにたどってきた日々にも思いをはせていただきたい。イチローであってもすべてのことを先輩から学び,吸収していったに違いない。バッティング,守備,走塁といった専門の前に,見づくろい,挨拶,掃除,用具の手入れ,応援といった基本を先輩から吸収していったはずだ。

 もう一つ,新人がまずマスターしなければならないのはその社会のルールである。私は以前,担当していた部門の営業・SE全員(新人からベテランまで)に相撲部屋を見学に行かせたことがある。彼らは朝7時に集合して相撲部屋を訪ねていき,チャンコをご馳走になって帰ってきた。

 戻ってきた彼らに私は尋ねた。「最初に部屋に出てきたのはだれだ」。「新弟子です」。「当社で最初に会社に来るのはだれだ」。「マネージャです」。「おかしいと思わないか」。「思います」。

 「その新弟子は最初に来て何をしていた」。「土俵の掃除です」。「君たちは朝,オフィスの中や机の上を掃除したことはあるか」。「ありません」。「おかしいと思わないか」。「思います」。

 こんなやり取りをしたことを思い出す。将来は横綱になるという大望を抱いた新弟子は,厳しい基本から教わっていく。相撲,野球,サッカー,どのスポーツの世界も全く同じだ。

学ぶ相手を選ぶ

 会社の中で学ぶべき先輩を発見するのはスポーツの世界ほど簡単ではない。新人にとっては,すべての先輩の活動内容を見ることができないし,活動の評価もはっきりしていない。しかも,やっかいなことに,配属された部門の先輩社員はだれもがすばらしい,大活躍しているスーパースターに見えるものだ。先輩たちもそのように振る舞うことが多い。

 しかし,ちょっと考えてみよう。野球チームの中にすばらしい選手は数少ないのと同様,会社の中でもすべての先輩がすばらしいビジネスパーソンというわけではない。ビジネスパーソンとしての成功要因の一つは,最初についた上司・先輩だと言われている。新しい環境に入ってきた新人はすべてのことを配属先の上司・先輩から学び取るからだ。

 そこで,次にご紹介する方法で,学ぶべき,模範とすべき先輩を自分の力で発見していただきたい。配属の運・不運に身を任せてしまってはいけない。

●話題に上る人

 会社という社会は情報のこう水だ。仕事に関する情報だけではなく,人に関する情報もあふれている。特に,社内の人に関する情報の量には際限がないと思えるほどだ。ミーティング,昼食や休憩時間,飲み会などの場で,皆さんはいろいろな社内の人の情報に接する。堅い話,やわらかい話,噂話もあるだろう。それらに耳を傾けていれば,活躍しているスーパースターを発見することができるはずだ。やっかみ半分の話も出てくるだろうから,あなたの目でよく判断してほしい。

●社内報・社外報に登場する人

 どの会社でも,社内報や社外報に登場させる人の人選には大変な気を使っている。なぜなら,いい会社という宣伝をしたいから。だから,そこに登場している人たちは,仕事内容と人柄の両面においてあなたの模範となる。あなたも頑張って掲載されるようになっていただきたい。

●年齢以上に大きな責任を持った人

 会社は基本的には年齢順の責任体制になっている。年功序列と言っているのではない。実力主義ではあっても,その実力は経験年数によるところが大きいからだ。その中で,他の同職位の人と比べて極めて若い年齢の人が存在する。その人も間違いなくスーパースターと考えていいだろう。多くのお客や社員(仲間)に信頼されている証でもある。

●経営層が勧める人

 最も分かりやすい方法を紹介しよう。それは,経営層の人たちに直接聞いてみることだ。新入社員のころは社長や役員と接する機会が結構多い。入社式や研修の終了式,新入社員との懇親会もあるだろう。経営層の人たちは,「今年の新人はどうだろう」と会社の将来を担うことになる新人とのコミュニケーションを強く求めており,社内ですれ違ったときでも声をかけてくれる。そのようなチャンスに,「私たちが模範とすべき人を教えてください」と尋ねてみるといい。

 以上のようなやり方で,模範とすべき先輩社員が発見できたら,その人に直接会ってみていただきたい。電子メールや電話でコンタクトし,訪ねていこう。その人の姿形,物腰,会話の内容はあなたに大変な刺激を与えてくれるだろうし,そのことであなたはすばらしいビジネスパーソンを目指すというコミットをしたことになる。

 あなたは,これから長く続くビジネスライフのスタートラインで模範とすべき先輩に会えた。現場の上司・先輩以外にも先生を持ったことになる。現場で納得できない,悩むような出来事があったら彼のところへ行けば解決してくれるだろう。

新人の基本形を身に付ける

 筆者は,新入社員教育の一環としてのビジネススキル研修で新入社員と接する機会が多い。だが,ビジネスパーソンとしての基本がおざなりになっていることに驚かされてしまう。彼らはまるで流行を身体にまとっているかのようだ。茶髪,バサバサにはねあげた髪,異常に大きなネクタイの結び目,ファッション雑誌から抜け出したような角張った靴。彼らの世代としては当然なのかもしれないが,次のことも考えてほしいものだ。

 周りの人から認めてほしいものは奇抜な姿形ではなく,仕事の内容や成果である。これが原則だ。仕事では,同世代を相手にすることはそう多くない。ほとんどの場合,目上の人たちを相手に仕事をする。そして,まだ新人であり,周りから教えてもらう立場である。こう考えれば,おのずとどのような姿形をすればいいか分かるだろう。

 スタートを切ったばかりのビジネスパーソンの一番の目標はできるだけ早く一人前になることである。仕事に必要な知識や技術を身に付け,報酬に見合うだけの成果を上げ,食べさせてもらう存在から自分で賄える存在に成長しなければならない。基本的な姿形,基本的な習慣を早く身に付けよう。

ネイチャー・スキルを鍛えよう

 私は,「40のビジネススキル」を強めることを提唱している(40のスキルについては本誌2002年2月25日号192ページを参照)。新入社員諸君は,それらの中の「10のネイチャー・スキル」に焦点を絞って鍛錬してほしい。少年野球を思い出しながら,それらの大切さを確認してみたい。

(1)「誠実さ」 監督,コーチ,応援をしてくれる人たちのアドバイスに感謝しながら,率直に実行してみる気持ちが大事だ。新人の間,批判精神はしまいこんで素直に吸収することに努めなければならない。

(2)「熱意」 練習や試合のときには起こされなくても早く目が覚めるものだ。しかも,実際にやっている間ずっと,その熱さが弱まることはない。

(3)「勤勉さ」 練習を休みがちでは試合で活躍することは望めない。毎日練習を続ける。しかも,集合時間に遅れてはいけない。練習前後の清掃もするし,道具の手入れも怠らないものだ。

(4)「忍耐強さ」 打撃練習,守備練習,ランニングにしても,楽にこなせる量ではない。つらいときを乗り越えて頑張ったときに力が付いている。

(5)「積極性」 好球必打,厳しい打球に飛びつく,一つでも先の塁に進もうとする。挑戦する選手にしか,すばらしい結果は訪れない。

(6)「自信」 打てると信じて打席に入らなければいい結果は望めない。まだ技術面,実績では不十分だとしても,自分を信じることを忘れてはいけない。

(7)「勇気」 強い相手に立ち向かう。監督に意見を言う。自分の間違いを認める。どんなときでも勇気がなければ前に進むことはできない。

(8)「信頼」 仲間の守備を信頼できないで,独り相撲を演じる投手を見たことがあるだろう。仲間に信頼されたいし,仲間を信頼したいものだ。

(9)「冷静さ」 人間は感情の動物だ。人の注目を浴びたり,自分が失敗したり,もしくは周りが失敗すると冷静さを失いがちだ。

(10)「健康」 身体が健康でなければ練習や試合に参加することはできない。参加したとしても良い結果は望めない。心が健康でないと気疲れしてしまうし,仲間とのチームワークも壊れてしまう。

 以上の10点は,どんなスポーツの世界でも異論を唱える人などいない常識であり,みなさんも同意されるであろう。しかし,ビジネスの世界では様相が異なる。どの会社でも新入社員を早く一人前に育て,現場に出すことに一生懸命だ。仕事に必要な知識を短期間で習得させ,名刺の出し方,お辞儀の仕方,電話のかけ方といったビジネス・マナーを教えて現場に送り出す。

 そのため,研修でも現場でも,ビジネススキルの中で最も大切なネイチャー・スキルはあまり鍛えてくれない。すべての会社,経営者は皆さんのネイチャー・スキルを強くしていくことの必要性は分かっているのだが,厳しくてあわただしい経営環境からついつい忘れがちになってしまっているのが現状だ。

 政治,経済,芸術,スポーツあらゆる分野でリーダーと呼ばれる人たちはすべて極めて高いレベルでネイチャー・スキルを身に付けている。つまり,すばらしいビジネスパーソンになりたければ,ネイチャー・スキルを鍛えることである。

 新入社員の皆さんが自分の大好きな趣味やスポーツに対して高いネイチャー・スキルを持っていることは知っている。しかし,仕事に対してはあまり発揮しないことも知っている。是非,仕事を,みなさんの好きな趣味と同じくらい大事なものに加えていただきたい。