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ゲアリー・ライナー氏
ゲアリー・ライナー氏(写真撮影:丸本 孝彦)

 ゼネラル・エレクトリック(GE)はコングロマリットなので、「全社CIO(全社的な情報戦略統括役員)」と「ビジネスCIO(事業部ごとのCIO)」が存在する。

 2006年6月の事業再編成でGEは11事業部制から6事業部制になった。6人のビジネスCIOは事業上の案件を直属の「ビジネスCEO(最高経営責任者)」にリポートし、IT(情報技術)に関する機能上の案件を全社CIOである私にリポートする仕組みだ。


ITを「ベストプラクティス」などに3分類

 全社CIOの代表的な役割は、まずITに関する社内的な標準を作ることだ。どの技術をGEの標準として採用し、どれは採用しないかを決める。標準技術は確実に全社に普及させ、なるべく一元管理する。

 標準化の具体例は、ITの3分類だ。GEでは「ベストプラクティス」「強い推奨」「標準」に分けている。まず「ベストプラクティス」は、社内の一部や社外でその技術が効果的に使われており、各事業ユニットに対して「その技術を試行し、自分たちで評価してみてください」と勧めるもの。

 これに対し「強い推奨」は、特別な理由がない限り、「この技術を使ってください」と勧めるもので、別の技術をどうしても採用する場合は、私の許可が必要になる。

 「標準」は例外なしの採用だ。例えば「強い推奨」には、UNIXのOSを搭載した米サン・マイクロシステムズ製のサーバー、「標準」には米デル製のパソコンが該当する。

 「ベストプラクティス」は新技術が登場すれば変更される。しかし、「強い推奨」が変わるのはまれで、「標準」はほとんど変わらない。

IT投資の回収期間は2年以内が大原則

 IT投資の管理も重要な仕事だ。投資は、投資額の回収期間によって、厳格に管理する。IT投資はそれによって成長が加速するか、またはコストが削減されなくてはならない。これらの金額によって、投資額を回収する。回収期間は2年以内が大原則だ。

 コスト削減は比較的簡単だが、難しいのは成長による回収だ。ただし、これはIT投資を開発期間の短縮に上手に活用できれば実現できる。その分、成長が速まるからだ。最近の事例では、あるデザインソフトを使って、航空機エンジンとガスタービンの開発スピードが上がった。また、ある営業関連ソフトを使うことによって、営業スタッフの顧客対応スピードが上がった。

 コングロマリットであるGEには、IT投資の成功例もあれば失敗例だってある。成功するのは、事業側が導入するITを必要として、そのITの使用に対し、事業部側が人を割いてプロジェクトチームなどを作り、現場への導入や運用を促し、さらに事業上の成果をしっかりコミットした場合だ。そうでなく、単に新技術を導入しただけの場合は成功しない。

CIOが果たす役割は人事面でも大きい

 全社CIOの役割は、人事面でも大きい。最も優秀なCIOを各ビジネスユニットに配置し、彼らの下に、最優秀のITスタッフをそろえなければならない。

 CIOの資質は次のようなものになる。ITのバックグラウンドを持っていることは必要条件だが、まず第1に、事業部内のほかのファンクションと効果的に仕事ができること。第2に、優秀なITスタッフを採用し、かつ彼らを社内に雇い続けられること。第3に、仕事のプロセスを十分に理解し、その改善を考えられることだ。

 そのプロセスとは具体的には3つある。1つは営業のプロセスだ。顧客が当社の製品・サービスに興味を示し、実際に注文するまでに、どのデータが必要になり、どうすればそのデータをスピーディーかつ正確に活用できるかを考えられなくてはならない。

 2つ目は研究開発・事業開発の工程、すなわちイノベーションのプロセスである。

 3つ目はサービスのプロセス、つまり注文が来てから、その注文を執行するまでの工程だ。

 これら3つはいずれも成長をドライブする重要なプロセスだ。さらに財務報告のプロセス管理、ITセキュリティーの管理も見落としてはならない。セキュリティー管理は、業務のIT依存度が高まるにつれ、最近重要性が増している。

トヨタ自動車のケンタッキー工場を見学

 私はビジネスCIOは経験せずに、1996年に初代の全社CIOになった。CIOになる直前の95年からシックスシグマによる品質向上活動を全社的に展開する役割も担っていた。実は、品質向上活動とCIO職は仕事のプロセスを改善するという点で共通する。

 98年までの第1期シックスシグマ活動は主に「欠陥の追放」が目的だった。2003年からの第2期活動は「時間短縮」が目的なので、プロセス改善の仕事とさらに相性がいい。

 第2期シックスシグマを始めるにあたって、私たちはトヨタ自動車のケンタッキー工場を見学した。彼らは製造工程のスピードアップ、無駄な時間の排除に突出して優れている。そして様々な知恵を授けてくれた。今も進行中の第2期の活動はトヨタのリーン生産方式の洞察が加わっているので、社内では「リーン・シックスシグマ」と名付けている。

 CIOはしばしばチェンジ・エージェント(変革の代理人)、チェンジ・アドボケイト(変革の主導者)などと呼ばれる。なぜならCIOは仕事のプロセスを熟知し、ほかの上級幹部とは異なるユニークな視点―どの業務がうまく進み、どれは進まないか、どうすれば業務を改善できるかの視点―を持っているべきだからだ。GEの6ユニットの事業内容はそれぞれ異なるが、ITの予算と資産に責任を持つ点で、6人のビジネスCIOの役割は共通している。

 現在、米国産業界では企業のIT活動についてのガバナンスを高めるべきだとの議論が出始めている。これは、企業のIT活動がビジネスの本流に近づいているのと同時に、取締役会、さらに投資家に対して、よりアカウンタブルにならなければならないことを示している。GEでは年10回取締役会を開いているが、そのうち3回はIT活動についての報告だ。かなりの頻度で説明しているといえるだろう。

 GE入社前は経営コンサルタントだったが、そこでの仕事も、クライアントのビジネスプロセスを改善することだった。私は理系ではないし、ITベンダーに勤務したこともないが、テクノロジーを愛している。プロセス志向とテクノロジー好き。この2点によって、CIO職に情熱を傾けられているのだと思っている。

ゲアリー・ライナー氏
1976年にハーバード大学経済学部を卒業。80年にハーバード・ビジネススクールでMBAを取得した後、ボストン・コンサルティンググループのパートナーを経て、91年にコーポレート事業開発担当副社長としてゼネラル・エレクトリックに入社。96年に同社初の全社CIOに就任、現在に至る。