PR

 小泉純一郎首相が郵政民営化と情報システムについて発言した件については、2004年9月15 日付の日経ビジネスExpress(現・日経ビジネスオンライン)に書いた。公開当時の題名は「首相が情報システムに関して指示、郵政民営化論議の歴史的意義」であった。そのコラムを再掲する。文中の企業名・肩書きは当時のままとした。

◇      ◇     ◇

 「信頼のおける情報システム会社に入ってもらい、分社に伴うシステム開発にどのくらいかかるものか、第三者的に見てもらってはどうか」。2004年9月7日、小泉純一郎首相は日本郵政公社の生田正治総裁にこう提案し、「郵政公社を2007年4月に分社する」という案を強引に通した。我が国の首相が政治の重要局面で情報システムについて言及したのは初めてではなかろうか。

 首相や生田総裁にとどまらず、郵政民営化の議論の場となった経済財政諮問会議においても、議員の間で情報システムの問題がたびたび取り沙汰された。この一点だけで、筆者は今回の郵政民営化論議には意味があったと考える。日本の問題の1つは、企業経営者など組織のリーダーが情報システムに関心を持たないことだと思うからである。

 9月10日に閣議決定された「郵政民営化の基本方針」に関しては、批判する声の方がはるかに大きい。自民党は了承していないし、郵政公社は一貫して2007年4月の分社が難しいとしている。一方、民間企業やメディアは「改革案として手ぬるい。持ち株会社方式では何も変わらない」と基本方針を相次いで批判している。

 本稿においては郵政民営化の基本方針そのものについての評価は差し控え、情報システムに関連する点だけを考えてみたい。

錚々たる委員が情報システムを巡って議論

 今回の議論の発端は、郵政公社の生田総裁が「分社の案は検討に値するものの、2007年4月の民営化段階で分社することは無理。会社ごとに新しいシステムを構築しなければならず最低でも数年かかる」といった趣旨の発言を経済財政諮問会議やメディアに向けてしたことにある。

 ちなみに経済財政諮問会議の議員は次の通りである。

  • 細田博之(内閣官房長官)
  • 竹中平蔵(経済財政政策担当大臣)
  • 麻生太郎(総務大臣)
  • 谷垣禎一(財務大臣)
  • 中川昭一(経済産業大臣)
  • 福井俊彦(日本銀行総裁)
  • 牛尾治朗(ウシオ電機会長)
  • 奥田碩(トヨタ自動車会長)
  • 本間正明(大阪大学大学院経済学研究科教授)
  • 吉川洋(東京大学大学院経済学研究科教授)

 議長は小泉首相である。錚々たるリーダーたちであるが、情報システムについては詳しいわけではない。そのため「情報システムが準備できず2007年4月分社は不可能」という主張に首をひねった委員はいたものの、表立った反論は当初出なかった。

 しかし民間企業に所属する議員らが自社に戻って情報システム担当者らに尋ねたところ、「3年もかかることはない」という回答を得た。このため次の会議で「2007年4月に間に合わせることは可能ではないか」と意見が相次いで出た。

 こうした中、麻生総務大臣が最後まで反対した。そこで小泉首相が生田総裁を呼び、自ら説得した。生田総裁は「情報システムの準備ができない」という主張を繰り返したため、首相は冒頭の条件を持ち出し、何とか分社案を押し通した。

 閣議決定された基本方針を見ると「移行期における組織形態」のくだりに、「設立時期は2007年4月とする。情報システムの観点からそれが可能かどうかについては、専門家による検討の場を郵政民営化準備室に設置し、年内に結論を得る」と記載されている。閣議決定した文書に「情報システム」「専門家」という文言が登場したこともまた歴史的と言えよう。