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「自立」あるのみ

 そこであえて個別対策には触れず、処方箋のキーワードだけ挙げておく。それは「自立」である。ソフトウエア会社も、管理者も、技術者も、それぞれの立場で甘えの構造から脱却して、自立しなければならない。ソフトウエア会社にとって、自立とは、技術の自立と経営の自立である。

 プロジェクトを請け負って自らの責任で顧客が望むものを作り上げる、これが技術の自立である。これには、ソフトウエアエンジニアリング力に加えて、スケジュール、品質、コストをダイナミックに制御するプロジェクトマネジメント力を磨かねばならない。それを促進するのが改善活動である。

 経営の自立は技術の自立が基礎になる。プロジェクトから利益をあげる力が付けば、その一部を改善や教育投資に回し、さらに経営効率を上げられる。

 かつて筆者は、派遣技術者だけで出発したソフトウエア専門の開発会社の設立にかかわった。筆者が在籍していた企業が、同社に派遣されていた技術者を集めた子会社を作り、筆者は子会社に転籍したのである。最初の仕事は、親会社のプロジェクトにばらばらに組み込まれていた技術者をチームとしてまとめて、契約は派遣でも、自立した仕事ができるようにすることであった。システムからサブシステムを切り出し、自ら責任範囲を決め、それが果たせるようになると、親会社に執拗しつようにお願いして順次、請負契約に切り替えた。

 ところが派遣指向の会社はその逆をやっている。顧客が請負を要請しても、派遣を続けて欲しいと懇願しているのを知って驚いた。経営の自立は、個人の自立を促す。自らの意思で、必要な技術を身につけようとする。それが企業風土になれば、自立した企業と言える。

 政府、ユーザー、業界は、ソフトウエア企業の自立を促す必要がある。特に影響が大きいのは、大規模プロジェクトを発注する政府と大ユーザーである。彼らがソフトウエア会社に派遣を要求し続けるなら、この国のITに未来はない。

 彼らもソフトウエアエンジニアリングを適用して、大きな塊でなく、切り分けのよいサブシステムに分割して発注することを学ばねばならない。そうすれば、中小のソフトウエア開発会社の請負リスクは減るし、チームワークに秀でた日本の強みを生かせる。

 個人の自立とは、プロフェッショナル化であり、無理な要求に「ノー」と言える人を増やすことである。ベンダー、ユーザーが対等に近い立場で要求について議論できるようになれば、ソフトウエア産業は健全になっていく。そうなる日が来ることを切に期待する。



筆者紹介

松原友夫(まつばらともお)
1956年、日立製作所に入社、亀有工場(機械)、神奈川工場(コンピューター)、ソフトウェア工場を経て、70年日立ソフトウェアエンジニアリングに転属。数多くの大規模プロジェクトを担当。91年末に同社を定年退職、コンサルタントとなる。IEEE Software の副編集長、編集委員、Soapboxコラムエディター、および産業諮問委員会委員を歴任。海外の学会や雑誌に多数の論文を発表。これらの活動を通して海外の知己が多い。ソフトウエアエンジニアリング関連の翻訳書多数。


【参考文献 】
  1. Ed Yourdon, Decline and Fall of the American Programmer (ソフトウェア管理の落とし穴 , トッパン、1993)
  2. CompetITiveness of the U.S. Software Industry, Hearing Before theCommITtee on Commerce, Science, and Transportation U.S. Senate, 102Congress, Nov. 13, 1991.
  3. Ed Yourdon, Rise and Resurrection of the American Programmer (プログラマーの復権、トッパン、1997)
  4. Michael A. Cusumano, Japan's Software Factories (日本のソフトウェア戦略、三田出版会、1993)
  5. 松原友夫、ソフトウェア産業にもデフレがやってくる、情報処理、2003. 4月号


本記事は、日経ビズテックNo.9に掲載された「停滞産業復興計画 IT 技術、経営、個人の「自立」あるのみ」を再掲したものです。