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三城氏写真 筆者紹介 三城 雄児(みしろ・ゆうじ)
ベリングポイント マネージャー

早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。都市銀行、ベンチャー企業、国内系コンサルティングファームを経て現職。特定非営利活動法人日本イーラーニングコンソシアム調査委員会委員長。民間企業や行政組織の人事改革に取り組むかたわら、組織・人事に関わる各種の講演・執筆など積極的な活動を行っている。

 行政改革の目玉として、公務員制度の改革が昨今話題になっている。新たな人事評価の導入に代表される制度改定論にとどまらずに、現場職員の意識や行動の変化にもきちんと目を向けることが必要だ。今後は、効率改善や顧客志向といった時代や世論に即した行動を、職員が自発的に行なえるようにするための方策づくりが重要なテーマとなる。

 この連載では、公務員など行政サービスに携わる現場職員の意識を変えるための苦労(課題)と解決の糸口(具体的施策)を明らかにしたい。そこで、自治体より一足先に民間の経営手法を取り入れ、これらの改善を他の行政組織に先行して試みてきた独立行政法人の組織と人事における改革の実態を概観することで、公務員の組織・人事改革にどのような手法が有効であるかを見ていきたい。

 独立行政法人とは、これまで政府が実施していた事業のうち「必ずしも政府が実施し続ける必要はないが、民間に任せることはできない」と判断された事業を運営する組織である(注1)。独立行政法人では、企業会計原則が適用されるなど、民間の経営手法を取り入れることによる効率性の向上が求められており、その取り組みの成果が注目されている。。

(注1)独立行政法人通則法第2条第1項の条文は「国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地から確実に実施されることが必要な事務及び事業であって、国が自ら主体となって直接に実施する必要のないもののうち、民間の主体にゆだねた場合には必ずしも実施されないおそれがあるもの又は一の主体に独占して行わせることが必要であるものを効率的かつ効果的に行わせることを目的として、この法律及び個別法の定めるところにより設立される法人」となっている。

■現場職員の意識変化が改革の成否を握る

 筆者は、民間企業から行政組織に至るまで様々な法人の組織・人事改革に取り組んできた。それぞれの改革は、表向きには組織体制や人事制度の変更という形で提言されることが多い。だが、筆者の経験から言うと、どのような改革でも、その組織に存在しその制度を利用する現場職員の意識変化が改革の成否を握っている。難しい改革になればなるほど、より多くの時間と労力をこの「職員の意識改革」に費やすこととなる。特に公務員やそれに準じる職員が所属する組織で改革を成功させるためには、この意識改革の部分が非常に重要であると実感している。

 先日、映画『県庁の星』を鑑賞したが、主人公が県議会で次のような発言をしたのが印象的であった。「行政改革は組織や制度を変えることじゃない。そこに生きる人間たちの意識を変えることなのだ」。この発言に頷きつつも「それが一番難しいのだよ……」と呟いた改革に携わる担当者は少なくないはずだ。私もその一人である。

 公務員に対して、効率改善や顧客志向といった行政サービス改善を求める声が叫ばれて久しい。しかし、依然として法令・前例第一主義や予算消化主義がはびこり、抜本的な改善に至っていないのが現状である。

■3つの思考回路が意識改革を阻む

 それでは具体的にどのような点が、意識改革を難しくしてしまうのだろうか。筆者は

  1. 法令・前例第一主義
  2. 予算消化主義
  3. “避・当事者主義”

 この3つの思考回路が、組織とそこで共に働く職員に組み込まれてしまっていることに原因があると考えている。だからこそ、一人ひとりを見れば使命感・正義感に溢れた有能な職員であるのに、いざ組織の中で働き始めると、その能力を発揮しきれないのだ。

 筆者は、これまで取り組んできた独立行政法人の組織・人事改革で、これら3つの思考回路から現場職員の思考を解放し、できる限り民間企業に近い発想で職員が発言・行動できるようにと考えて、様々な施策を展開してきた。これらの取り組みを紹介することは、独立行政法人以外でも、行政組織において組織・人事改革に取り組む方々に非常に有用な情報となることと期待している。第1回目の今回は、この3つの思考回路とそこから脱却するための施策についての概略を説明していきたい。

(1)法令・前例第一主義からの解放

 法令を守ること、前例を参考にすること自体は悪いことではない。しかし、職員にこの意識が強すぎると、それが改革の大きな壁となってしまう。この過度な法令・前例第一主義からの解放は、公務員などの意識改革における最大の課題である。

■「今までに同じような取り組み事例がある?」

 筆者が行政組織の上層部に改革案を提言する際に、必ず聞かれる質問がある。「そのようなやり方は一般的なのか?」「今までに同じような取り組みをした事例はあるのか?」というものである。特に筆者が取り組む組織・人事に関する改革では、指揮命令系統の変更や役職の廃止といったこれまで聖域とされてきた部分にメスを入れるケースが多い。従って、改革にあたって前例がないケースがほとんどである。提言内容が独自の先進的な取り組みであり前例がないことを伝えると、組織によってはそれだけを理由に提案内容が否決されることもある。

 組織上層部の意識が上記のような状況では、現場職員に対して「現場で考えたことを積極的に上層部に提案しなさい」と言っても大きな効果を期待できない。前例や法令に無いことを上層部に提言することがタブー視されているため、斬新なアイデアや顧客志向に基づいた対応策が出てくるケースが少ない。また、このような状況なので、現場職員が良いアイデアを思いついたとしても、提案するインセンティブが少ない。「提言してもむだだ」とか、「提言すれば仕事が増えるだけだ」といった発言を耳にすることも多い。

 そこで、ある独立行政法人の組織・人事改革で、この過度な法令・前例第一主義に一石を投じることにした。経営幹部も含めた管理職全員の成果責任を明らかにして、それを実現するために、申請の受託件数や不良品の発生件数などの管理会計上の指標や業務運営上の問題点抽出と解決策の立案、職員の能力に見合った人員配置などマネジメント面で求められる行動の2点をそれぞれ再定義させたのだ。

 例えば、外部機関から出向してきた新任課長のA氏は就任したその日のうちに、上司から自らの担当課に求められる成果責任の一覧を渡され、それらの管理会計上の現状の数値を示され、それら指標を改善するために必要な行動は何かを理解させられる。目指すべき方向性と求められる行動を具体的に示されることで、Aさんは就任日の当日から頭をフル回転させて、施策を考えるようになる。このように成果責任を明示することで、前任者からの引継ぎに取り組む姿勢が真剣になるなど、効果が目に見えて明らかになった。

 ここで定義した内容は、昇格に関する判断を含む人事評価に用いられるので、管理職の意識は着実に変わった。これまでは、規則に違反するという理由で誰も取り組まなかった課題であっても、成果責任を全うするために取り組む必要があると判断すれば、新しく規則を作ってでも実施する、といった積極的な行動を、管理職含む現場職員に促すことができるようになった。

(2)予算消化主義からの脱却

 第二は予算消化主義からの脱却である。予算が余っても、次の投資に備えて貯蓄するという発想が存在しないことはよく指摘される。だが、それ以上に問題なのは、大切な資金を活用する現場職員の一部が、施策の内容や成果にこだわりを持たないことである。手続き通りに業者を選定し、手続き通りの指示をして、手続き通りの検収をすればそれで任務完了という考え方だ。

■内容・成果ではなく実行プロセスばかりを気にする

 独立行政法人は、主務大臣が中期目標として指示した内容に基づいて中期計画を設定し、その取り組み状況を独立行政法人評価委員会が評価する仕組みをとっている。評価委員会では人件費生産性の評価、つまり限られた人員数(人件費)のもとでどれだけの付加価値をもたらしたのかも議論されている。

 当初目標の妥当性検証が不十分であったり、事業環境に応じた柔軟な人員配置がしづらかったりといった、制度運用上の未成熟な面もまだあるが、評価を導入したことは生産性を無視した予算消化主義に一石を投じたため、無駄な事業投資や無意味なポストの減少など一定の成果をあげている。しかし現場職員レベルでは、まだまだ施策の内容や成果へのこだわりが薄い職員が多いのが事実である。

 これは施策の内容・成果ではなく、施策の立案・実行プロセスの正しさを優先してしまう考え方とも言える。プロセスの正しさに注目すること自体は悪いことではない。法律に基づいて働き、議会の決定に基づいて行動することが求められるという原則は、公務員になった時に上司から強く言われる事項の一つだろう。しかし、現場職員がこの考え方のみを原則に行動してしまうために、施策の内容や成果に目がいかなくなってしまうのであれば、問題視しなければならない。

 筆者の関わったある独立行政法人では、現場職員の意識を変革するために、個人別の業績目標管理、職種別人事評価といった現場の意識改革を促す新制度の導入や、ITを用いたトップダウンコミュニケーションの強化、部下指導スキルの強化、研修による改善志向の徹底などに取り組み始めている。

(3)“避・当事者主義”の排除

 最後に指摘したいのが、“避・当事者主義”である。一般的に行政組織には、真面目で優秀な職員が多い。また、行政サービスに携わる職員は、ゼネラリストとして育てられることが多く、仕事に対して器用であるため、どのような業務であってもたいていはそつなくこなす。そして、責任感も高いため、実際に当事者となれば一定の成果を出すことはできる。

■仕事はするが責任は取りたくない“避・当事者主義”

 しかし、当事者となりたがらない“避・当事者主義”とでもいうべき意識・行動を持った職員の割合が民間と比べて多いのも、行政サービスに携わる職員の特徴である。感覚的ではあるが、ベテランになればなるほどこの傾向が強まっているように思える。新人の頃は使命感や正義感に燃えていた職員が、5年、10年と勤続を続けているうちに当初の思いをすっかり忘れ、「いかに自分の仕事を減らすか」、「いかにして責任者とならずに済ませるか」といったことに長けた職員へと成長(?)してしまうのである。

 これを、個人の性格・素養の問題として片付けてはならない。公務員制度改革でも問題点としてよく指摘されている通り、職員のキャリアパスが欠如していること、業績や業務内容に基づく処遇の差が存在しないこと、といった人事制度上の欠陥も大きく影響しているからだ。

 この点に関しても、ある独立行政法人では様々な改革を試みてきた。人事制度全般の改革、若手職員を中心としたリーダーシップ教育、職種別のキャリアパスの設計、部門横断タスクフォースの設置など、取り組んだテーマは多岐にわたる。

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 以上、第1回では公務員改革にたちはだかる3つの思考回路を紹介した。次回からはこれら3つの思考回路をどう変えていくのか、独立行政法人で取り組んだ具体的な事例を紹介しながら、公務員の組織・人事と現場職員の意識改革の方法を探っていきたい。