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David Smith氏  
Gartner社
David Smith氏,
バイスプレジデント兼
ガートナーフェロー
ガートナー リサーチ ソフトウェアグループ ウェブサービス
ポータル担当

前編からの続きです>

新しいハイプ・サイクルを仕掛けるグーグル

ガートナー ジャパンは「Hype Cycle(ハイプ・サイクル)」という考え方を提唱しています。新しいテクノロジーが生まれた後,いくつかのサイクルを通じて,幻滅期,成熟期に至る,という考え方です。株価はハイプ・サイクルの典型例です。インターネットの会社,ヤフーやアマゾン・ドットコムが最初のインターネット革命を起こし,ハイプ・サイクルに突入していきました。そして今また,次のサイクルが始まろうとしています。それがWeb2.0なのです。グーグルは新しいハイプ・サイクルを仕掛けようとしています。

5,6年前,いわゆる「ドットコム・ブーム」が始まってまもなくそれが終わり,幻滅期に至り,社会がインターネットにあまり関心を寄せなかった時代がありました。つまり「インターネットはあって当たり前」という時代です。これこそがどんな技術分野にも見られる典型的な幻滅期なのですが,その間何が起きていたかを思い出してみましょう。ブロードバンドの浸透が始まりました。ハードウエアのコストが下がり始めました。無料のソフトやオープンソースが当たり前になり,労働力がグローバライゼーションの道に入っていきました。こうしたことを背景にネット事業のスタートアップ・コストが下がり,新しい革命が始まったわけです。

また,新しい技術の考え方や環境が用意され,それらが爆発的な威力を持ち始めました。1990年以前,「Webサービス」は存在しませんでした。全く新しい環境が生まれたわけです。こうして第2次インターネット革命が始まろうとしているわけです。

私たちはWeb2.0の詳細をすべて見ていく必要はありません。Web2.0を提唱したのは,ティム・オライリー(Tim O'Reilly)氏です。Webのエバンジェリスト(伝道者)として有名ですが,彼によるWeb2.0の定義を見ていくと明確になるよりも分からなくなるものが多いと思います。それは,Web2.0についてはあまりにもたくさんの情報があることを象徴しています。

Web2.0に対する混乱をなるべく排除するために,Web2.0の要点をまとめてみましょう。3つあります。1つは,テクノロジーと,テクノロジーのアーキテクチャです。RSS,Ajaxはコミュニティやソーシャル・ネットワーキングの領域だけで求められているものではありません。ビジネスでも有用です。ここにSOAが関連してきます。SOAとAjaxを使うと,SOAでつないだ業務システムを,ドラッグ・アンド・ドロップができるリッチな操作画面で提供できます。

オライリー氏は「Web as Platform(ウェブ・アズ・プラットフォーム)」という言葉を使いました。私は「Web as Architecture(ウェブ・アズ・アーキテクチャ)」という言葉の方が好きです。複数のアーキテクチャがWeb上にあるといった方が正しいかもしれません。

Web2.0の2つ目の要点は,コミュニティと社会です。代表的な例がアマゾン・ドットコムです。書籍や電化製品に至る様々なカタログ情報を提供していますが,それだけではありません。ユーザーをアマゾン・ドットコムというコミュニティに集めています。「ある本を買った人はこの本も買うだろう」という情報をコミュニティに提供しています。
 
3つ目の要点は,ビジネスとプロセスです。ビジネス・モデルがそこにあります。企業の中で新しくeビジネスを始めたい,あるいはドットコム・ブームに乗りたいという時代はもう終わりました。今後はオープンソース・ソフトが“サービス”であり,そのサービスに対して有料の課金をしていく形。あるいは,広告がサポートするビジネス・モデルを多くの企業が採用していくことになるでしょう。

5年前,ガートナーは,イーベイ,アマゾン,ヤフーのようなスケーラビリティーの大きなウェブサイトと,一般的な企業が構築したサイトはどう違うのか調査しました。イーベイやアマゾンのような「グローバル・クラス」のサイトは,消費者向けの技術を使って構築しています。一方,一般的な企業のような「エンタープライズ・クラス」のサイトは,社内で使う技術を使っていて,それらの結合が非常に密です。エンタープライズ・クラスのサイトはファイアウォールを使ってセキュリティの環境をきっちり作り込んでいます。

Webサービスの意味合いが非常に大きくなってまいります。Webサービスはシンプルで利用が簡単で,当初はグローバル・クラスのサイトに適用しやすいものと言われていました。しかし,今やWebサービスは独自の力を持ち始めました。今はエンタープライズ・クラスにも適用できるように,だんだんと形を変えています。

Webプラットフォームは非常に重要なコンセプトで,Web2.0の中心的な存在と言えます。Webサービスへのアクセス,APIを介して,いろいろな機能を提供していきます。

企業はコンシューマライゼーションをうまく取り入れよ

企業は,コンシューマライゼーションの動きにどう対処していけばいいのでしょうか。また,第2次インターネット革命をどう生かすべきでしょうか。

Webアプリケーションはいったん作られて終わり,というものではありません。常に形を変えていく,いつでも未完成な存在です。そしていつでも法的なリスクやコンプライアンスが課題になります。しかし,それらの課題で進化が止まるものではありません。コンプライアンス,法的なリスクは適切に管理する必要があります。一定以上のセキュリティ・レベルを保たなくてはなりません。しかし,それらにしばられてはいけません。自分たちの業務が適切に行われることが優先される必要があるわけです。

では,どのようにセキュリティを担保するのでしょうか。一般的なエンタープライズ・システムには,インターネット,イントラネットがあり,パソコンがあります。これらのリソースはファイアウォールで明確に外と内に区別され,管理されています。しかし業務の状況を考えると,外部の委託業者や顧客,一時的な協力者が社内のリソースにアクセスする必要があります。社外で仕事している社員や自宅で仕事をしている社員もいます。つまり,どうしても外から接続できる環境が必要なわけです。しかし外部にはウイルスがあります。「トロイの木馬」などのトラップがあります。さまざまなサイバー攻撃があります。

ほとんどの企業はこれらの課題を何らかの方法を使って解決しようとしています。参考になるのが,ヤフーやグーグルといったグローバル・クラスの環境を持つ企業の考え方です。ヤフーやグーグルは次のような考え方でシステムを設計しています。「誰もが外部の人であり,誰もが脅威になり得る」。

いま先進的な技術企業は,社員のパソコンは会社が提供するのではなく,社員個人に所有させようとしています。昔,営業担当者を抱える会社は,営業担当者に車を買い与えていました。いまはそうではありません。企業は社員に月々の車両手当と推奨車のスペックを渡します。そして社員はそのスペックに沿った車を自分で選び,手当を使って車を買うわけです。パソコンについても同じような方法に移りつつあります。

パソコンのサポートも変わりました。パソコンのサポートは会社が引き受けるのではなく,個別にメーカーに問い合わせる。または,「最初の数回は会社のサポート・センターに問い合わせても良いが,その回数を超えると料金を徴収する」といったルールにする。もちろん家族がサポート・センターに電話をした時は,直ちに課金する。こういったモデルの方が,いまの時代に合っていると思いますし,このモデルが増えていくと思います。そもそも,企業向けのハードより,消費者向けのハードを買うほうが安く済みます。

企業が消費者向けのITを取り入れる際に,注意するべき点があります。まず,システムに冗長性を持たせなければなりません。各種の消費者向けITを統合して使うためのコストが増えますし,それに連動して開発コストも増えます。また,間接コストの増加も見逃せません。例えばユーザーが自分のパソコンにトラブルが発生した場合,ユーザーがヘルプデスクに電話をすれば,ヘルプデスクの人はそれで評価されてコストに換算できますが,隣の机に座っている人に聞いたら,その人が答えたとしても,それは仕事には見なされません。