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Kathy Harris氏_1  
Gartner社
Kathy Harris氏,
vice president and distinguished analyst

コミュニティーという概念には、人類と同じくらいの歴史があるが、なぜ今、コミュニティーがあらためて話題になっているのだろうか。それは、情報システムを考える上で、その存在が大きな意味をもつようになったからである。

企業の従業員や顧客は、仮想的なコミュニティーの存在を積極的に受け入れ、そのコミュニティーとのコラボレーションを築くようになった。

現在、平均的な知識労働者は、10の仮想的なコミュニティーに参加し、その30%のコミュニティーには、組織外の人も参加している。そして10年以内には、あなたの会社の従業員が行う仕事の80%は、個人単独ではなく、コミュニティーを含めたコラボレーションによるものになるだろう。

連載の第3回において、10代の娘の話が出てきたが、こういう若い力がやがて、あなたの会社の従業員、あるいは顧客となるのである。若者たちは、コミュニティーとのコラボレーションを重視する。彼らにとって、コミュニティーは人生そのものといえる。この事実に目を向け、重大な変化が起こっていることを認識していただきたい。

米国では大学生のほぼ100%が、「MySpace」「Friendster」といったオンライン・コミュニティーを毎日訪れている。高校生は、宿題をこなすため、日常的にコミュニティーとコラボレーションを行っている。私の知り合いによれば、「自分の娘は一人で宿題をしたことがない」そうだ。彼女は、友達を集め、各自の分担範囲を決めて宿題をこなし、持ち寄った結果を1つにまとめるのだ。

あなたの家庭に10代の若者がいたら、彼または彼女はおそらく社交的なネットワーキング・コミュニティに参加していることだろう。それなのに私たち社会人は、企業組織という枠組みの中で、コミュニティーとのコラボレーションから生まれるテクノロジーを、必要な投資だと認識していない。つまり、コミュニティーとのコラボレーションを仕事に生かすために、適切なサポートを得ていない人が大勢いるわけである。

若者は日常的にコミュニティーと
コラボレーションしている。なのに社会人は…

David氏:誰もが変化に気づいているのに、それを考慮に入れた企業の体制が出来上がっていないということか。2006年には、何かが変わるのだろうか。

Kathy氏:一年で劇的な変化が起きるというわけではない。しかし、明らかに大きな転換点に差し掛かっていると思う。これまで、コミュニティーとのコラボレーションは、人々の頭の端の方に置かれていた。いわば2次的な存在だと思われていた。しかしこれからは、コミュニティーの生むテクノロジーが、IT投資に優先順位を付ける上で最優先事項になり得る。「Web 2.0」「SOA」「マッシュアップ」、呼び方はどうであれ、これら最新のインターネット・テクノロジーは、コミュニティーとのコラボレーション範囲や規模をさらに拡張するだろう。

人々が変化を実感するのは、新たに追加された面白い機能や道具としてというケースがほとんどだが、今回インターネットにおきているテクノロジーの進化はそれ以上のものである。コラボレーションによるソフト開発やコンシューマ用の使いやすい技術を、企業のコンピュータ環境へ統合するのに役立つだろう。

コラボレーションとコミュニティーは技術革新の手段

大きな変化の一つは、個人の「エンパワーメント(影響力向上)」だ。個人の環境は革新的に変化している。コラボレーションとコミュニティーは技術革新の手段となる。影響力の向上した一般の人々が、コラボレーションとコミュニティーを使って、新しい社会規範を確立し、テクノロジーの方向性を変えていく。身近な例では、私たちが通常、他者と対話をする方法も大きく変わってきた。Webと共に育った人々(いわば、Webネーティブの人々)は、日常的にチャットルームに出入りし、インスタント・メッセージや電子メールで、同時に複数の人と会話をしている。いまや当たり前のことだが、ほんの一世代前までは、極めて無礼な行動だと認識されていた。

オープンソースの台頭は、テクノロジーの方向性を決定的に変えた。自らの意志でオープンソースに参加している人々が、報酬を得られる訳でもないのに、これらのプロジェクトに多大なる個人的リソースを費やすことも珍しくない。つまり、コミュニティーに参加すること自体を個人的なメリットと感じているのが明らかだ。

10年足らずの間に、オープンソースのコラボレーションによって、基盤ソフトウエアのほとんどが実現された。次の5年間で、アプリケーション・ソフトウエアの分野へも、オープンソース開発の影響が及ぶことだろう。

コラボレーションとコミュニティーには学習ツールという側面もある。人々はコミュニティーを発見し、これに参加し、影響を及ぼし、場合によってはコミュニティーを操作することを学習する。また、もっとうまく、速く、効果的にWeb技術を利用する方法も学習する。そして新しい集合的な知能が生まれる――例えば、「Wikipedia」は今、10種類の言語で発行され、英語だけでも100万単語以上の説明が記載されている。個人がエンパワーメントをもったことの好例といえる。

コラボレーションとコミュニティーにより、学習し革新を実践してきた若者たちは、組織に対する期待値を変えることになる。
これが二つめの大きな変化だ。
彼らはまず、Webにおける社交的なネットワーク環境と同等の、自然な作業スタイルとアクセスの容易さを、雇用主やプロバイダが実現することを期待し、要求するようになる。そして、彼らは、これまでの世代に比べ、ウェブや技術に対するスキルに自信を持っている。だからこそ、より高度なアプリケーションに対してより意欲的に取り組み、限界に挑み、そのテクノロジーを意図された以上の目的に活用することだろう。さらに、コミュニティーの集合的な知恵を生かすことで、彼らは組織にとらわれず決定を下したり、行動したりするかもしれない。もはや従業員や顧客は、雇用主はプロバイダのことを「場を仕切っている人」と認める必要がなくなるわけだ。

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ぜひ、気づいて欲しいのは、個人がコミュニティーの持つ力を意識するようになったこと、そして彼らは、2度と後戻りしないということだ。まだ、コミュニティーの力に気づいていない皆さんも、いずれその力を目の当たりにすることだろう。最初は、従業員や顧客たちが、チャット・ルームやブログなどで、苦情を書き込んでいるのを知り、マイナスと感じるかもしれない。しかし、先進的な企業は既に、コミュニティーがもつプラス面に気づいている。顧客の要望を取り入れる手段と捉えたり、苦情に対してオープンな姿勢で臨むことなどによって、コミュニティーを積極活用するケースも増えてきた。

コミュニティーとコラボレーションは、あなたの組織に対する脅威にもチャンスにもなりうる。組織は今後、三つの不確定要素に直面してく。

まず、コミュニティーとのコラボレーションやソーシャル・ネットワーキングをサポートする環境を構築することが、Webネイティブの従業員や顧客(つまり無くてはならない人々)を引きつけるために不可欠となる。したがって、コラボレーションとコミュニティーのテクノロジーへの投資は、3年以内に、フォーチュン500企業にとって必要不可欠になると予想される。

次に、コミュニティーがビジネスモデルを再定義するにつれて、企業は、それを制御できなくなる。

最後に、コミュニティーとのコラボレーションによって、ウェブは自己細分型の市場となっていく。したがって、市場をいかに定義し、区分けし、分析して、進出するかについての従来の考え方は、今後5年間で過去のものになるだろう。


David氏:最後に、今までの話をおさらいしよう。

コモディティ化によって、力のバランスが消費者に移りつつある。消費者は新しいテクノロジーに飛びつき、インフラにかかる負荷をケタ違いに増大させている。もし、すべてを管理する方法を確立すれば、企業はこのコモディティ・ハードウエアを利用したサービスを提供できるだろう。そのためには、より大規模なニーズにフレキシブルに対応できるように、仮想化技術を利用し、テラアーキテクチャを採る必要がある。

ソフトウエアのデリバリー・モデルも変わろうとしている。インフラの構築方法は、多額の固定費を要する複雑なシステムから、コストが利用によって決まる俊敏性のあるデリバリー戦略へとシフトする。

そして、コミュニティーとの好循環を生み出すことによって、既存のソフトウエア開発そのものが消滅する可能性さえある。

最後に、これからはコミュニティーがビジネスモデルを再定義することになる。次の一歩を正しく踏み出すために、これからは「テクノロジー」と「ビジネス」「社会」を考慮に入れなければならない。それが今後のITにとって、最も重要なことになる。

Kathy Harris 氏
Kathy Harris 氏はGartner社vice president and distinguished analyst として、アプリケーション戦略、ノレッジや知的資産管理、技術革新やコラボレーションそしてビジネスに対するIT の価値の管理についてのリサーチを統括するスペシャリストである。

本記事は2006年5月に、米国サンフランシスコにて米Gartner社が開催したシンポジウム(Gartner Symposium/ITxpo 2006) における講演内容を抜粋したものである。