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北川氏写真

北川 正恭(きたがわ・まさやす)

早稲田大学大学院公共経営研究科教授(前三重県知事)

1944年生まれ。三重県議会議員、衆議院議員を経て1995年、三重県知事当選。「生活者起点」を掲げ、ゼロベースで事業を評価し、改革を進める「事業評価システム」や情報公開を積極的に進め、地方分権の旗手として活動。達成目標、手段、財源を住民に約束する「マニフェスト」を提言。知事を2期務め2003年4月に退任後、早稲田大学大学院公共経営研究科教授(現職)。「新しい日本をつくる国民会議」(21世紀臨調)代表。著書多数。近著は『マニフェスト進化論』(生産性出版)。

■2007年2月1日・2日、東京・経団連会館で「都道府県CIOフォーラム」が開催された。初日の2月1日、早稲田大学大学院公共経営研究科教授(前三重県知事)の北川正恭氏は、「知事が求めるこれからのCIO」をテーマに講演を行った。

 講演にあたり「知事経験者として皆様に期待すること」という演題をいただきましたが、知事は一番頭が固くて古く、専門家とズレがあります。経営資源の代表的なものは「人」「物」「金」「情報」だが、中央官庁や知事などは未だに「人」と「金」だけ。インフラを整備して本当のユビキタスな社会に移行するためには、業務プロセスを全部作り直さないと全体最適になりません。そこで最先端にあるCIOの皆さんには、トップマネジメントを徹底的に変えるという強い決意で臨んでいただきたいと思います。

 私が1995年に三重県知事に就任した際、県職員に対して「今までの中央集権体制から地方分権の考え方に変えてほしい」とお願いしました。その前提には、圧倒的な地方分権時代、そして情報化社会を必ず迎えるということがありました。その時代を前に、それにかなったビジネスプロセスを構築しなければならなのです。

 今年、夕張市で感動的な成人式が行われました。財政が破たんしたことから成人式予算がゼロになり、新成人を迎える女性が立ち上がった。実行委員会が組まれ、全国から善意の寄付が集まり、感動的な成人式が生まれました。この成人式の場合は、夕張市の財政破たんという現象による偶然の要素によって変化が起こりました。皆さんは「必然」として変化を起こしていただきたいと思います。

 県庁などは総務部門が財政や人事を中心に握るがっちりした体制があるので、CIOになっても県庁が動かない、ということもあるでしょう。ですから、CIOの皆さんは「新しいことはリスキーだが、自らがリスクを取って前へ進む」という体制の必要性を、あらゆる機会を通じて知事に伝えていきたい。財政・人事・企画などを中心とした組織体制から、外向きの組織に変えることができる最先端の重要なポストがCIOだと思っています。

■知事を変えること、職員に「知事は本気だ」と思わせること

 まじめな努力としてコストカットは必要ですが、それだけでは変化を起こすことはできません。それどころか、ますます深みにはまっていきます。ITによって主権者とインタラクティブかつリアルタイムに意見交換ができる環境の中から、偶然ではなく必然的に市民が立ち上がる。そうした環境で、民と官との仕事のコラボレーションが出来上がり、価値を生み出すのです。

 このような変化を起こすには何をすべきか。私が知事なら大規模な講習会をやります。全職員に必ず講習を受けさせて「非日常の大改革運動が始まった」と思わせることが必要なのです。そこでまず、知事、三役が中心になって新しいガバナンス、BPRを実現する決意表明をします。その本気度を職員に見せて実行体制を組み、全職員がハッとするような大講習会を開くのです。

 1995年に私が知事に就任したとき、県職員と相談して行政改革運動をすることになりました。そこでサービス、分かりやすさ、やる気、改革の頭文字を取った「さわやか運動」をスタートしました。新年の訓示でも新年度のスピーチでも、私はさわやか運動のことしか話しませんでした。それを見て、当時の県の行革担当者は「知事は本気だ」と感じたと聞いています。

 内向きで進んできた県庁の組織体制を、CIOの皆さんが変えるのは残念ながら無理です。いわゆる組織の風土や文化を変えるのは、トップリーダーである知事の本気度しかありません。つまり、CIOの最も重要な仕事は、知事を本気にさせることです。そして、職員に「知事は本気だ」と思わせることです。

 講習会は、「勉強しない自治体」からチェンジして、本当に新しい価値を作っていく研修が必要になるでしょう。情報こそがお金や人事を上回る経営資源だということを全職員に認識させないと、この“大講習会作戦”は画に描いた餅になります。単に職員一人ひとりをスキルアップするだけでは難しい。

 講習内容は専門家に決めてもらえばいいとして、「変わるまで変える」という気持ちがあったときに、ITは行政効率を上げ民主主義を向上させるツールになると思います。そこから新しい業務プロセスを作っていく。私が考えるテーマは透明性とセキュリティです。この2つを徹底してお願いしたい。

 営利企業より公共自治体の方が内部告発が多いのはどういうことでしょうか。BPRによって組織の透明性を高いものにしなければならないということです。そのためには、予算編成過程から全部見せてしまえばいいんです。予算を組んだらインターネットを通じてすべて情報公開し、情実の予算編成体制からルールによる予算編成に切り替える。予算編成過程から全部議会に見せて、議会で審議いただく。議会が変えるといったら、二元代表制なのですから変えればいいということです。

■リスクを取って前に進む外向きの組織に--まずは決裁事務の改革から

 その次にお話したいのは、決裁事務についてです。公務員の皆さんには、時間とコストの関係、人や物、ファシリティやアセットに対しての感覚が鈍いという構造的な弱点があります。私が知事の時、稟議書のハンコで最も多かったのは57個だった。57個の判をもらうのにどれだけの時間がかかるのか。時間に疎いからこういうことがまかり通っていたんです。これは、総務部門が財政と人事を全部仕切っているという文化を、皆さんの手で変えていかない限りだめだと思います。

 私の場合、三重県庁の財政課をなくしました。「財」の「政」を担うのは知事だからです。そこで部長会議を財政会議に変えて一括会議にした。彼らは各部の代表だが、知事の閣僚の一人として全体最適を考えるため、財政会議に総額配分をしました。60歳の農林部長が40歳の主査に予算を切られて、「私はやりたかったんですが査定で切られましてね」という組織体は、ユビキタスな社会には全く不似合いです。その発想がユビキタスな社会を阻害しているという感覚を持たないと、これからの電子自治体が成功するまでに余計な時間や経費などがかかるでしょう。人事課もなくして、戦略会議という形にしました。農林部なら農林部長が全部考えなさい、ということにしたのです。県庁の中で分権自立するということです。

 県庁などは総務部門が財政や人事を中心に握るがっちりした体制があるので、CIOになっても県庁が動かない、ということもあるでしょう。ですから、CIOの皆さんは「新しいことはリスキーだが、自らがリスクを取って前へ進む」という体制の必要性を、あらゆる機会を通じて知事に伝えていただきたい。財政・人事・企画などを中心とした組織体制から、外向きの組織に変えることができる最先端の重要なポストが、CIOだと思っています。(談)