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日本情報システム・ユーザー協会 IT匠フォーラム

<前号のあらすじ> 中堅機械メーカーJUSA産業のシステム企画部で課長補佐を務める角川千秋は、レガシー化する現行システムの刷新をことあるごとに進言する。だが部長の金山や課長の永山は聞く耳を持たない。角川のいらいらは募るばかりだ。



 「永山君、社長に呼ばれているから一緒に来てくれないか」。朝から雨が降り続く月曜日の午後のことだ。システム企画部長の金山は、課長の永山に声をかけた。「今の時期、なんですかね」。永山は怪訝そうな顔をする。「俺もよくわからん」。そうしたやり取りをしながら社長室に向かう。

 1時間後、二人は真っ青な顔で戻ってくるなり、打ち合わせ室に角川を呼び出した。机の上には、かなり分厚い企画書が置かれている。

 「角川君、大至急これを読んで、評価結果をまとめてくれ」。金山はぶぜんとした表情で角川に指示する。

 角川が企画書をめくってみると、オープン系サーバーとパッケージを全面的に使った製販統合システムのかなり詳細な企画書だった。

 「急いでいるんだ。メモでもよいから、明日の午後までに頼む。永山君にも手伝わせるから」。

 「わかりました。それにしても急な話ですね」。

 「その企画書は我が社の次期システムのものだよ。社長室が我々を差し置いて社長のところに持ち込んだんだ」。金山の答えに、角川は飛び上がった。

 二人は社長からひどく叱責されたという。「『君たちからの提案を待っていたが、いつまでたっても出てこない。しびれを切らして社長室長の木下くんに頼んで作ってもらった』と言われたよ」。金山の表情は苦悶と怒りでゆがんでいた。

イラスト:今竹 智

素人受けする企画書

 「無用な混乱は避けたいから、他の部員には、黙っているように。この部屋は自由に使ってよいから」。こう命じて金山は打ち合わせ室を出て行った。角川はやりかけの仕事を中断して、企画書を読み始めた。

 企画書は良くできていた。今のレガシー・システムがカバーしていない業務にまで、適用範囲を広げた意欲的な提案だ。これまで製造部門や販売部門が要望しても、「システムの構造上、できません」と断り続けてきた機能が各所に埋め込まれている。システム運用コストの削減もうたっている。いかにも素人受けする。

 しかし後が悪い。工期と予算がでたらめである。企画書には「工期2年、予算14億円」とある。いくらオープンでハードが安いといっても、この予算では無理だ。部門間の意見調整や、同時に実施すべき業務改革の期間を考えると、開発期間も短すぎる。

 しかも細部の詰めはまったくなされていない。「ネットワークは?」、「バックアップは?」、「全社マスターの移行は?」。考えれば考えるほど、角川は頭がクラクラしてきた。

 「これはベンダーが客を釣るための企画書ですよ」。角川の意見に永山も同意した。「社長室にITに強い者はほとんどいない。どこかのベンダーに企画書を作らせたのは見え見えだ」。二人は顔を見合わせた。