PR

■お客様に提案書の内容を説明したり、セミナーで講演したりするなど、プレゼンテーションの機会は多いもの。プレゼンにおいて大切なことは何かについて、ファシリテーションの視点で何回かに分けて解説します。

(吉岡 英幸=ナレッジサイン代表取締役)


 このコラムもちょうど連載1周年となった。これからも独自の切り口でコミュニケーションに関する、すぐに使えるテクニックを紹介したいと思う。

 さて、今回からはプレゼン編。商談やコンペで提案書を基に、提案内容をお客様に説明する。あるいは、セミナーの講演で自社の製品について解説するなど、プレゼンテーションをする場面は皆さんも多いことだろう。

“洪水プレゼン”で伝わるのはせいぜい10%

 私は以前、オタクのようにITベンダーが主催するセミナーに出かけていたことがある。それも年間50本ぐらい。そのとき気づいたことは、「なぜこうもプレゼンテーターは多くのことをしゃべろうとするのか」ということだった。

 自分たちの製品やソリューションについて少しでも理解してもらおうという気持ちはよく分かる。しかし、製品仕様書に書いてあることをすべて理解してもらいたい一心からか、あらゆる情報を詰め込んだ“洪水プレゼン”になっていることが多い。まるで期末試験前の補修授業のように。

 そう、ちょっと学生時代に戻って試験勉強のことを思い出していただきたい。歴史など暗記ものの試験でよい点を取ろうと、学校や予備校の授業を食い入るようにしっかりと聴いたとする。それで、あとは勉強しないで試験で100点とれるかと言えば、そんなことはない。

 試験に出てくる問題はすべて授業で出てきた情報だったとしてもダメ。授業をしっかり聴いているだけでは不十分で、必ず家で復習し、暗記しなければならない。

 つまり、どんなに聞き漏らすまいと耳を傾けて聴いた情報であっても、その情報を100%記憶していることなどあり得ないのだ。せいぜい10%程度だろうか。

 試験前の授業ですらそうなのだから、昼寝半分で聞いているセミナーのプレゼン内容を、来場者はいったいどれだけ記憶してくれているだろうか。

絞り込んだキーワードに感情を刻印する

 人は情報を感情とともに脳に記憶する。「すごい」「おもしろい」「くだらない」「頭にくる」「感動した」など。

 映画を観て感動すると、感動したシーンに関しては、その情景が鮮やかにまぶたに刻まれ、セリフが頭の中でこだまする。しかし、その他のシーンはぼんやりしていたりする。

 ゆえに、感情のない暗記ものの試験勉強は苦痛なのだ。歴史より地理の勉強の方が暗記が難しいのは感情の付随するドラマがないからだ。

 もし、あなたがセミナーやコンペでプレゼンをする場合、トークの内容を発表資料に従って考えるのではなく、まず最も重要な、忘れてもらっては困るキーワードを3つぐらいに絞り込もう。

 製品について、たとえば「安くて」「工期が早くて」「運用の手間がかからない」ことが重要なキーワードならば、プレゼンではこの3つのキーワードをとにかく頭に刻み込んでもらうことを目的とする。そして、そのキーワードにどのような感情を持ってもらうかを考えるのだ。

 「意外だ」「こりゃすごい」「ひゃー、ラクだなあ」などなんでもいい。とにかく、感情的に強いインパクトを与えることを考えて、そのためのストーリーを組み立てていくのだ。

 こうすると、ラストシーンで「意外だ」「こりゃすごい」「ひゃー、ラクだなあ」と来場者に思わせる、3つの感動ストーリーができあがる。

 これがプレゼンのシナリオになる。理解させたい情報の断片を洪水のように提供しても、暗記がしんどい試験勉強と同じだ。教科書を何度も読ませるよりも「その時歴史が動いた」を1回観せる方がはるかに効果的なのだ。


著者プロフィール
1986年、神戸大学経営学部卒業。株式会社リクルートを経て2003年ナレッジサイン設立。プロの仕切り屋(ファシリテーター)として、議論をしながらナレッジを共有する独自の手法、ナレッジワークショップを開発。IT業界を中心に、この手法を活用した販促セミナーの企画・運営やコミュニケーションスキルの研修などを提供している。著書に「会議でヒーローになれる人、バカに見られる人」(技術評論社刊)、「人見知りは案外うまくいく」(技術評論社刊)。ITコーディネータ。