PR

米国では、ボストンやフィラデルフィアなどの地方証取まで競争に遅れまいと必死で追撃している。相次いで大手金融機関の出資を受け入れ、その資金を利用して電子取引システムを構築している。東京証券取引所も今年に入って立て続けに、ニューヨーク証取、ロンドン証取との提携を発表した。電子取引時代の到来が好機となるか、乗り遅れて凋落するか――。いよいよ「システム力」が試される。

 ボストン証券取引所傘下のボストン株式取引所や、フィラデルフィア証券取引所は、レギュレーションNMSの規制案が発表された05年4月以降に相次いで大手金融機関からの出資受け入れを発表した。フィラデルフィア証取はシティグループ、モルガン・スタンレーなど大手4社が、ボストン証取はクレディ・スイス、リーマン・ブラザーズなど大手4社がそれぞれ出資。それを元に両証取は電子取引を導入し市場競争に臨む態勢を鮮明にしている。

 フィラデルフィア証取のメイヤー・フルーシャー最高経営責任者(CEO)は、電子取引に加え「全米3位のオプション取引所の基盤を生かし、ニッチ商品で競争力を高める」と強調する。

好機か・乗り遅れか、転機の地方証取

 オプション取引専門のインターナショナル・セキュリティーズ・エクスチェンジ(ISE)も昨年、JPモルガンやドイツ銀行など10社からの出資を受け、NYSEとナスダック上場銘柄の取引への参入の意向を表明。本格的な取引所競争時代への突入を前に、電子取引への切り替えや新商品導入を急いでいる。

 新たな市場ルールが、地方証取に大手と対等に戦う地盤を用意してくれた。ここが、地方証取の取引拡大の好機になりえる。一方、電子化の波に乗り遅れれば「取引停止に追い込まれる」(米金融市場調査セレント)恐れもある。そうなれば、NYSEとナスダックの二大証取による独占状態が強化される。

 地方証取では、大手のアメリカン証券取引所はまさにその危機に直面している。同証取はNYSEと同様に立会場取引が主体だ。売買執行スピードが遅いために売買注文を他の証取に奪われ、取引シェアが急速に低下。かつては売買シェアが市場全体の20%を占め、NYSEに次いで大きな取引所だった同証取は70年代に電子取引で急成長したナスダックにシェアを奪われ、90年代にはシェアは2%弱にまで縮小してしまった。アメリカン証取では現在、急ピッチで電子取引システムの導入を進め、NYSEと同様に立会場と電子取引のハイブリッド取引所の確立を標榜している。時代に乗り遅れた証取というイメージが払拭されるかどうか市場関係者は注目している。

東証、世界競争時代をどう乗り越える

写真●1月末、東京証券取引所はニューヨーク証券取引所(NYSE)との提携を発表した。発表前日にニューヨークのジャパンソサエティで共同講演したNYSE のジョン・セイン最高経営責任者と、東証の西室泰三社長(写真:西崎百江)
写真●1月末、東京証券取引所はニューヨーク証券取引所(NYSE)との提携を発表した。発表前日にニューヨークのジャパンソサエティで共同講演したNYSE のジョン・セイン最高経営責任者と、東証の西室泰三社長(写真:西崎百江)

 NYSEは07年1月、投資家や金融機関と組んでインドのナショナル証券取引所(NSE)の発行済み株式の20%を共同取得したと発表した。NYSEでは日本や中国、インドなどアジア地域の取引所との連携を強化することを表明しており、NSEへの出資はその第一弾といえる。また、すでに北京事務所の設立が中国で許可されており、中国市場への参入の地盤を整えつつある。

 東京証券取引所も時代の波に乗り遅れまいと活動を開始した。1月31日、東証はニューヨークでNYSEとの業務提携を発表。商品の相互上場、システムの共同開発などを実施していくことで正式合意した。東証が株式を上場する予定の2009年をめどに株式の持ち合いなどの資本提携も視野に入れている。

 さらに東証は2月23日、英ロンドン証券取引所(LSE)との包括提携を発表した。NYSE、LSEという米欧の二大取引所との連携は、世界競争に乗り遅れまいとするアピールにほかならない。

 1月31日、西室泰三・東証社長とジョン・セインNYSE最高経営責任者(CEO)は、NYSE内で調印式と共同記者会見を実施した。華々しい提携発表だったが、米市場関係者らの反応はいたって冷ややか。米金融市場調査会社セレントのオクタビオ・マレンツィCEOは「提携は将来、何かについて合意することに合意したにすぎない。実際の資本提携などがない限り、意味はない」と手厳しい。

 しかも、今回の提携は両証取間に独占的なものではないため、NYSEが中国やシンガポールなど他の証取と近い将来もっと実質的な提携にいたる可能性も十分ある。

 西室社長はこうした指摘に対し「他の証取の動きと比較するつもりはない。すでにわれわれは7つ程度作業チームを結成して、具体的な提携内容の検討に入った」と強調する。同時に「明日はシカゴに行って同地最大の取引所と提携で話し合いをする」ことも明らかにした。シカゴ最大の取引所といえばシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)だ。東証も東京市場の国際化に向けて少なくとも形だけは一歩を踏み出しつつある。今後はいかに具体的な提携内容が出てくるかが問題だ。

 「10年後の世界の証取の姿は、一握りの大手が数多くの品揃えを提供する一方で、小規模な証取がニッチを追求するようになる」。NYSEのセインCEOはこう予測する。果たしてこの一握りの大手に東証も含まれるのかどうか、今後数年間にその答えが見えてくるにちがいない。

西崎 百江(ニューヨーク特約記者)
本誌ニューヨーク特約記者。ニューヨークで約20年にわたり経済関係の取材・執筆を続けている。特に金融市場に関する取材経験が多い。