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クレディ・スイス証券株式調査部ヴァイスプレジデント 福川 勲 氏 福川 勲 氏

クレディ・スイス証券株式調査部ヴァイスプレジデント
アンダーセンコンサルティング(現アクセンチュア),大和総研を経て現職。現在,ITサービスセクターの株式調査を担当。

 好況下にもかかわらずITサービスセクターの株価が低迷している。当社が算出している「クレディ・スイス情報サービス株価指数」は,昨年10月中旬をピークに下落傾向に転じた。中間決算シーズン以降の低迷は顕著で,本稿執筆時点(3月12日)での2006年4月からの騰落率は,東証株価指数(TOPIX)の+1.9%に対して,情報サービス株価指数は-6.0%とTOPIXを8ポイント近く下回る結果となった。

 各種マスコミでSE不足の深刻さが報じられているように,金融業を中心としたユーザー企業の情報化投資は活発である。ITサービス業の上場各社の足元業績も極めて好調に推移しており,2006年度の通期業績は過去5年間で最も良好な決算になるだろう。中期的な株価推移を決めるのは企業収益だと考えると,この株価低迷は企業収益を反映しておらず,株式市場のミスプライシングと見るべきなのだろうか。

 IXIの破綻などに象徴される「会計不信」による投資家心理の悪化の影響もあるが,ITサービスセクターの株価低迷は,基本的には2007年度以降に予想される市場減速と,業界の構造問題に起因する株式市場の期待成長率低下というファンダメンタルズを反映した動きだと,筆者は考えている。このうち,2007年度以降の市場減速については本誌12月15日号で論じたので,本稿では構造問題に起因する期待成長率低下に関する我々の見解を述べたい。

 ITサービスセクターが直面する最大の構造問題は,ITサービス各社が「価格決定力」を失っている点であると我々は考えている。日本銀行が月次で公表している「企業向けサービス価格指数」によると,ITサービス業界のサービス価格はITバブル崩壊以降一貫して低下してきた。

 2006年夏以降,SE不足を反映してサービス価格は上昇に転じ始めているが,依然として前年同月比で1%程度の緩やかな上昇にとどまっている。報じられているような「SE不足」の深刻さを勘案すると,需給バランスを反映してサービス価格はもっと上昇するべきである。しかし現実にはそうなっておらず,その点がITサービス各社の「価格決定力」の弱さを示す証左だといえる。

 我々は国内ITサービス会社が価格決定力を失ったのは,(1)技術革新の停滞,(2)オフショア開発やパッケージソフトとの競合激化,(3)省力化という視点での情報システム需要の一巡,という環境変化が原因と見ている。いずれも短期的に反転が見込めないトレンドであり,ITサービス会社が「価格決定力」を取り戻すためにはこれらの変化への対応が必須となる。

 具体的な対応としては,新たな付加価値の源泉の創出と業界再編の二つのアプローチがあるだろう。新たな付加価値の源泉の創出は,従来の「SEの労働力提供」に加え,IT活用を通じた業務効率化や差異化など独自のノウハウを提供することで,顧客に提供する付加価値を増大させるという考え方だ。業界再編は,プレーヤーの数を減らすことで競争圧力を和らげるという考え方である。

 日本企業のIT活用度は他の先進国との比較で劣後しており,ITサービス市場の成長機会は依然残されている。ITサービス業界がこの潜在需要を顕在化させ,再び「成長産業」へと回帰するには構造改革は避けられない課題である。