PR

 2007年4月に山口県美祢(みね)市に新設された刑務所「美祢社会復帰促進センター(以下、促進センター)」。ここでは、無線LANタグを使った位置検知システムで、所内の警備を効率的かつ確実にする。

 無線LANを使って位置情報を検知する手法は、3種類を併用した。今回のシステムでは、保安区域を三つのエリアに分けている。一つは「二次元検知エリア」で、グラウンドやテラスなど広がりのある場所。二つ目は「一次元検知エリア」で、廊下や通路の直線的なスペース。最後が作業場などの部屋で、「信号強度検知エリア」と呼ぶ。促進センターのシステムでは、それぞれのエリアの特性に応じて手法を使い分けた。

 二次元検知エリアでは、無線LANアンテナを6カ所程度設置し、三辺測量により平面上の位置を特定する。これに対して、一次元検知エリアには直線上に二つの無線LANアンテナを設置する。直線の廊下などでは幅方向の情報にはあまり意味がないため、長さ方向の位置だけを検知する仕組みである。一方、作業場などの閉じた空間では、その中の個人の位置まで特定する必要がないと判断した。「その部屋にいる」ことが分かれば保安上の要件を満たせるため、一つの無線LANアンテナを使って信号強度により「いる」か「いない」かを把握する。

 検知した位置情報は、中央警備室の監視端末の画面に表示して把握する。二次元検知エリアと一次元検知エリアについては、無線LANタグの位置を画面の地図上に点として表示する。測定誤差はおよそ1~3m程度である。信号強度検知エリアでは無線LANタグの情報を基に、その室内にいる人をリスト表示する。検知の時間間隔は2秒。ほぼリアルタイムに1000人以上の位置情報を収集し、監視端末に表示する仕組みである。

 非常時には、中央警備室に警報が上がる。一つは「検知不能」で、エリア内で急に無線LANタグを検知できなくなった場合である。無線LANタグが壊されたり金属で包まれたりした際に検知不能の警報が上がる。外部との接点で軌跡が消えた場合には、「逃亡」と判断する。立ち入り禁止区域に入り込んだ際も警報が上がる。

 現在の位置情報だけでなく、移動の軌跡も確認できる。例えばけんかや逃亡などの事故があった場合に、移動軌跡を見ることでその場にいた目撃者を捜すといった使い方である。軌跡データは法務省の要求水準により1カ月間保管することになっており、過去にさかのぼって位置を特定することも可能だ。

バッテリが数日間持つようにタグを新設計

 無線LANタグは、充電池で稼働する。日立によれば、「体積と重量のほとんどがバッテリ。現行製品よりも軽く薄くなるように新設計した」という。フル充電で、数日~1週間程度の利用が可能と想定している。受刑者が独房に戻ったら、無線LANタグをクレードルに載せて毎日充電する。1日程度充電を忘れても稼働には問題がないが、充電しない日が続きバッテリ残量が減ってくると、中央警備室に警告が表示される。この警告が出たら刑務官が受刑者に充電を促し、不意な電池切れにより位置を検知できなくなる事態を防ぐ。

 一つのシステムは、1000人程度の無線LANタグを検知できる設計になっている。受刑者は、男女が交じって行動することはない。そのため、男子用と女子用に二つのシステムを用意し、約1300個のタグに対して合計で2000人程度を検知できるシステム容量を確保した。飛び交う情報は無線LANタグの識別情報だけとはいえ、2秒間隔で数百人の情報を取得して位置情報を検出するシステムの負荷は大きく、余裕を持った設計にした。

指静脈認証を併用し本人確認

 今回の位置情報把握システムを使えば、受刑者や関係者の位置をリアルタイムで特定できる。しかし厳密には、個別の無線LANタグの位置を測定しているにすぎず、服を交換するだけで別人になりすますことも可能だ。こうした誤認リスクを減らすために促進センターでは、指静脈を使った生体認証方式を併用した。指紋よりも認識率が高い指静脈認証を使い、本人がそこにいることを確実にする。

 受刑者は60人が一つのユニットとなって行動する。それぞれのユニットは作業場で矯正教育や技能訓練などを行い、作業場で過ごす時間はカギをかけて出入りを禁じている。作業開始時や休憩時間の終了時に、作業場の指静脈認証装置に指をかざして本人認証をする仕組みである。ある作業場にいるはずの受刑者は無線LANタグで把握しているため、その全員を指静脈で認証できれば問題が起きていないと判断する運用である。



本記事は日経RFIDテクノロジ2006年12月号の記事を基に再編集したものです。コメントを掲載している方の所属や肩書きは掲載当時のものです