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岩城:今回は富士通の高橋さんに対談のパートナーをお願いしました。高橋さん、こんにちは。さっそくですが、高橋さんは富士通のWebマスターとして、オフィシャルサイトの運営に携わっていらっしゃいます。かなり幅広くご活躍なので、読者の皆さんに自己紹介を兼ねてお仕事の内容を教えていただけますか。

高橋 宏祐
高橋 宏祐

高橋:現在、私のプロジェクトでは、主に富士通のオフィシャルサイトの運営と、富士通全体のウェブの制度策定、ドメインの管理を行っています。オフィシャルサイトは日本だけでなく、世界35カ国・地域もすべて管理・運営しています。

 私自身が主体的に関わっているのは、コンテンツのガイドラインや各種ルールの整備などの統制業務と、Webのインフラサービス運営といった企業サイトの土台となる部分を手がけています。

 また、実際には日々社内でウェブに関して起こる事象や案件に関してすべて対応しています。企業規模が大きいだけに日本だけでなく、世界中のグループ会社から毎日多くの新規案件や相談が寄せられます。これらを適切に処理するのに結構、時間を費やしています。

岩城:なるほど、富士通はグローバル企業ですから海外子会社のサイトの運営にも深くかかわっているわけですね。Webは世界共通のプロトコルで、しかも企業自身が自由に発信できるメディアとしてグローバルコミュニケーションには欠かせない仕組みなわけですが、そうは言っても多くの海外サイトを運営・管理するのはたいへんな事と推測します。高橋さんのお立場からこれまで一番苦労されたことは何ですか。

高橋:ひと言で言うと、「異文化コミュニケーション」ということになります。Webは特に決まりの無いものなので、誰でも自由に意見を言えます。そのため、日本の中だけでも、規約・ルールを作る際に意見を集約し、まとめるのは大変ですが、これを企業グループ全体でグローバルに実現するのは、本当に大変な労力と作戦が必要となります。富士通では、2000年に世界全体でウェブサイトを統一するプロジェクトを開始しました。

 海外と仕事をしたのは、そのときが初めてで、最初に壁にぶち当たったのは、合意形成のプロセスについてです。Webのデザインですから国による趣味・嗜好の違いもあり、なかなか意見が合わない。我々、日本人は自分の好みで主観的にいろいろ言うわけですが、欧米からは、しっかりしたガイドラインが最初から出てきて、基準とルールを提示され、極めてロジカルな議論をされるわけです。

 完全にやられたと思いました。「基準をあらかじめ決めて、基準について議論する」という仕事のやり方は、極めて合理的で納得性も高いということで、欧米からは非常に多くのことを学びました。

岩城:グローバル企業のサイト運営の苦労が偲ばれるお話ですね。確かにグローバルサイトを同じ品質レベルで揃えようとすると、「異文化」の中で起こるいろいろな事をコントロールするための約束事が必要になってきますね。

 私も企業でサイト運営に携わっていたときに、海外子会社のサイトでとんでもない著作権侵害を発見し、たいへんあせりました(苦笑)。

 その結果、必要最低限のルールを作って、各国語に翻訳して各地に徹底する必要が生じて大変だった記憶があります。そういうルール作りがあって、それを実現するために高橋さんが標榜するアクセシビリティやユーザビリティに行き着くんでしょうね。

 アクセシビリティやユーザビリティを課題とした背景は理解しました。それを具体的にWebサイトに落とし込んでいくのは大変だったと思いますし、企業として対応する際のプロセスにすごく興味があります。

高橋:富士通では、2000年にグローバルブランドプロジェクトの一環として、ウェブサイトを再構築しました。まずはブランドイメージの統一を図るために、デザインの統一から着手しました。その次の段階でブランドとしての品質を高めるために、「お客様への使いやすさ」を実現することを目標とし、ユーザビリティ/アクセシビリティの向上に取り組みました。

岩城:なるほど、やっと分かって!「お客様への使いやすさ」というのは企業ポリシーだと思いますが、それを実現するためにユーザビリティ/アクセシビリティを向上させようという経緯ですね。

 それにしても興味深いのは、そういうことをシステム化してビジネスに結び付けていった点だと思いますが、それは、富士通のようなIT企業としては当然の帰結なのですか?それとも高橋さんの信念ですか?

高橋:私は、富士通の企業ミッションを実行しただけに過ぎません。結果としてビジネスに結びつきましたが、元々の目的は「国際社会・地域社会との共存共栄」です。富士通は、自社サイトの価値を高めるためにアクセシビリティ実装に取り組みました。そこで得られたノウハウ・手法をネットワーク社会の発展のために、社会に還元しただけに過ぎません。ただ、考えを実際の行動に移すのは強い思いがないと出来ません。アクセシビリティという新しい価値・市場を社会に根付かせたかったのは私の強い意志です。

岩城: ここでも、「国際社会・地域社会との共存共栄」という企業ポリシーを実務に反映したことになりますね。また、高橋さんは、JAAのWeb広告研究会が毎年実施している、「Webクリエーション・アウォード Web人発見!」の第4回の受賞者ですが、やはり、新しいことを動かしていくのは「人」だということを実感しますね!

 高橋さんの「Web人」振りは、こちらからご覧ください。

 それでは、その結果できあがったシステムや仕組みについて教えていただけますか。

高橋:まず、富士通のウェブサイトにおけるアクセシビリティ実装の具体的なノウハウをまとめ、「富士通ウェブ・アクセシビリティ指針」として2002年に一般公開しました。また、同時に企業サイトのグローバルナビゲーションに「アクセシビリティ」のメニューを組み入れましたが、おそらく世界的に見ても初めてのことだったと思います。

 2003年には、社内用に開発したアクセシビリティのチェックツールである「富士通アクセシビリティ・アシスタンス」を無償公開しました。富士通アクセシビリティ・アシスタンスは次の3つのツールで構成されています。

WebInspector(ウェブインスペクター):HTMLのソースをチェックし、ウェブサイトが高齢者や視覚に障害のある方にも読みやすいかを診断
ColorSelector(カラーセレクター):背景色と文字色の組み合わせが、アクセシビリティ的に適切かどうかを検証
ColorDoctor(カラードクター):ウェブサイトだけでなく、Flash等の動画、パワーポイント等のプレゼンテーション資料も含め、画面に見えるもの色のアクセシビリティが適切かどうかを検証

 これらの取り組みすべてを、アクセシビリティJISX8341-3が2004年6月に発行される前に行っています。おかげさまで、富士通アクセシビリティ・アシスタンスは公開以来、累計で約20万本ダウンロードされており、日本ではアクセシビリティのスタンダードツールと言えるかと思います。

岩城:いろいろな仕組みがあるんですね。確かにほかのコミュニケーション手段に比べて、Webには機能があるので使いやすさやアクセスのし易さは重要で、最近は凝ったインターフェースやフラッシュを使ったナビゲーションなども多く見られますが、中にはとても使いにくくて途中でいやになるものもあります。

 せっかくのユーザーとの接触の機会を失い、しかも結果的にその企業のサイトにあまり良いイメージを持ってはもらえないでしょうから、2重の損失ですね。Webマスターや制作者は心していなければいけない部分だと思います。ところで、高橋さんが開発したアプリケーションを使ってよい結果や効果を生んだサイトをいくつか紹介していただけますか。

高橋:実は具体的にというと把握していません。無償で自由にダウンロードできることと、私自身はウェブマスターでビジネスする立場でないためです。

 ただ、当社のツールを使用したいと個別にお問い合わせいただいたのは、大塚商会さん、キユーピーさんです。両社ともに無駄な装飾はあまりなく、シンプルで文字が適切な大きさで読みやすいですね。また、アクセシビリティに準拠するということはSEOの効果が期待できることと、最近では、Windows Vista/IE7でもメリットがあると思います。いくつかの企業サイトでは、IE7の拡大機能でレイアウトが崩れるなどの現象が見受けられますが、この両社についてはそれがありません。基本に基づき、しっかり制作されているからだと思います。

岩城:うん、うん、なるほど。そういう効果もあるんですね。一方で、こういうアプリケーションの宿命として、統一化の側面があって、どうしても表現に制約があるように受けとられることが多いのではないかと懸念する人もいます。その点についてはどうお考えですか。

 私はもともとデザイナー(今でもそのつもりですが・・)なので、どうしても人と違うことをしたいという人たちの気持ちも理解できるのですが。

高橋:まず、ウェブの世界でも「デザインする」という領域のモノと、企業サイトのようにコスト/品質/スケジュールをバランスよくコントロールしなければならない世界は別物です。

 企業サイトに限れば、アクセシビリティ等の決められた基準に従うと、デザインが制約されるというのは誤解だと思います。「創意工夫」と「好きなことをやる」のは違いますのでアクセシビリティを実現してデザイン性も優れたことは可能だと思います。実際、富士通のサイトは2003年度のグッドデザイン賞を受賞しています。

岩城:それは、そうですね。いくら楽しくてきれいなサイトでも、使いにくかったり見づらかったりしては台無しです。

 やんちゃなクリエーター諸君(自分も含めてですが・・)に良く伝えておきます(笑)。これからも、仕組みやシステムも進化し、それを使いこなす人も進歩するわけですから、使いやすく楽しく、美しいサイトがどんどん現われてくることを期待したいと思います。

高橋さん、ありがとうございました。

高橋 宏祐 <takahashikosuke@jp.fujitsu.com>
富士通(株) コーポレートブランド室 担当部長

富士通株式会社にて、1998年からWebマスターとして富士通のWeb戦略を企画・実行。2002年、富士通ウェブ・アクセシビリティ指針を一般公開し、日本におけるアクセシビリティ普及への先導を果たす。現在、富士通グループ全体のWebサイト統括を遂行。

受賞
2004~2006日経パソコン 企業サイトユーザビリティランキング3年連続1位
第4回Webクリエーション・アウォード「Web人賞」
アックゼロヨンアワード2006 厚生労働大臣賞
2003年度グッドデザイン賞
資格
米国PMI(R)認定 プロジェクトマネジメント・プロフェッショナル
英国商務局ITIL(R) Foundation