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 東京証券取引所の西室泰三代表取締役社長が、東証の情報システムの実態、昨年から今年にかけて起きたトラブルの総括、東証社内改革の具体策、2009年に予定している新システムのコンセプトまで、東証変革の全貌を語った。

 これは、さる7月19日に開催されたイベント「IT Japan2006」で、西室社長が語った内容である。以下に特別講演の全容を掲載する。


 西室でございます。最近は東京証券取引所の社長をやらせていただいております。ご縁があって、この「IT JAPAN 2006」に参加させていただくということになりました。まことにありがたいことだと思っております。高い所から恐縮でございますけれども、「変革期の経営」と題しまして、これからの日本の経済を担われる皆様がたというか、もう担っておられるかたのほうが多いような気がいたしますけれども、期待を込めまして、21世紀の社会、あるいは変革期における経営について、私のこれまでの経験を基にいたしまして、私なりに感じたこと、あるいは考えることについてお話をさせていただきたいと思っております。

21世紀、三つの潮流

 まず、21世紀に入ったばかりでございますけれども、現状を整理して考えると、今、どのように変化が続いてきているか。20世紀の終わりのころから潮流が明らかになってきております。一つは、グローバル化であります。もう一つがデジタルネットワーク化、そしてもう一つが多様化あるいは地域化と言っていいかと思います。その三つの要素がそれぞれ顕著になり、しかもそれがお互いに影響し合っているということになってきたと思います。

 私は東芝という会社で45年ばかり勤めさせていただきまして、2005年6月、東京証券取引所の社外重役で会長ということになりました。その後、ご承知の東京証券取引所の取引システムの不備が明らかになりまして、2005年11月1日に約3時間、市場を閉めなければいけなくなった。それから、12月8日にはみずほ証券さんによる誤注文があり、システムの不備も相俟って市場において大変な混乱が生じる事態となりました。

 そのような一連の事件がありましたので、当時の社長と中心になる役員2人、合計3人が一斉に辞任するということになりました。会長であった私は、そのあと「社長をやれ」と言われ、このようなことになりました。

 助走期間の社外重役としての会長の立場でじっと眺めていたときと、実際に社長という立場になったとき、相当に違いました。また、東芝と東京証券取引所は全く違っている。しかし、考えてみると、違っているところはすごく多いのだけれども、東芝のころからずっと感じ、しかも経験してきたグローバル化、デジタルネットワーク化、多様化・地域化、そのような流れが東証にも押し寄せてきている。その結果の一つが東証のシステムのトラブルということになったのかと思います。

 ネットワーク革命によって、従来の時間・距離・形、そのようなものを超えたコミュニケーションの手段が発達していく中で、株式の取引量は飛躍的に増大しうる。しかも増大しうると予想しえたにもかかわらず、それに対する対応が残念ながらできていなかった。つまり、社会環境の変化を俊敏に察知することができなかったということが、東京証券取引所として、反省事項であったということであります。

変化を恐れてはならない

 時代というものは常に変化します。いつの時代も、そのような意味では常に変革期であると言っていいと思いますけれども、21世紀を迎えて、その変化のスピードがさらに従来にも増して早くなってきたということは、皆様がたも実感されておられるところだと思います。時代が変わるということが常であるのであれば、そしてそのスピードが速いというのであれば、やはり企業も経営者も、そのスピードを感じながら変化していかなければいけないはずであります。変化を恐れるのではなくて、自分自身が変化しないことのほうが怖い、このことを強く意識しておく必要があるだろうと痛切に感じております。

 昔、オーストリアのシュンペーターさんが著書の中でこう指摘されました。

「経済利潤の真の源泉は、経済均衡を破る革新にこそある」

 これが有名な「創造的破壊」という言葉であります。これについて、改めて皆様がたに解説を申し上げる必要はないだろうと思います。さらに色々なことをシュンペーターが言っています。

「物事に対する洞察力を持たねばならない」

「経営資源の新しい違った使い方というものを身につけていかなければいけない」

「新たなことを行おうとする際の摩擦、抵抗などを克服しなければならない」

「循環的な変化のない経営というものは経営者たりえないのだ」

 こういった彼の指摘は、時代が移った現在においても、まさに示唆に富むものというように思い返しております。