PR

 2005年6月から社長になって改めて気付いた点があります。それは「経営手法やそれを支えるIT(情報技術)はいずれも経営戦略を推進する手段である」ということです。社長としては、あくまでも経営戦略の推進に関心が向く。ところが、手段であるはずのITや手法が、ともすれば目的になってしまう危険がつきまとうのです。

 副社長時代からCIO(最高情報責任者)を兼務していて、当時から注意していましたが、情報システムを開発したり、運用する段階になると、そのこと自体が目的になってしまいがちです。「とにかく動かせ」というのは悪い状況です。本来の目的がおろそかになってしまうからです。

 「動かせばいいのだろう」という雰囲気が社内に広がってきたら、経営トップが意識して社内を変えていかねばなりません。情報システムの構築が目的になることに歯止めをかけるには、情報システムというものが経営にどれだけ貢献しているかどうかをきっちりと評価することでしょう。CIOになった時から取り組んできましたが、社長になってからも改めてシステムの評価に力を入れています。

 手段が目的になってしまう危険は「バランス・スコアカード(BSC)」のような経営手法にも当てはまることです。当社は2003年度から、全社にBSCを導入し、社員全員がスコアカードを意識して活動できるようにしました。

 BSCは、「顧客」、「財務」、「業務プロセス」、「学習と成長」という四つの視点についてそれぞれ「業績評価指標(キー・パフォーマンス・インディケーター、KPI)」を設け、四分野のバランスをとりながら、マネジメントしていく手法です。KPIとして、顧客の視点については「店頭鮮度不良率」、財務の視点については「損益分岐点比率」、業務プロセスについては「製品不良品率」、学習と成長については「提案件数実施率」などをそれぞれ採用しています。鮮度と高品質は、経営理念で掲げている事柄です。

 当社は、営業地域別、商品別に全部で52のビジネスユニットがあり、マネジャー一人ひとりが、複数の業績評価指標の関係をまとめた「戦略マップ」を作っています。さらに社長の私が全社の戦略マップを、カンパニーの責任者がカンパニーの戦略マップを、それぞれ作ります。一連の業績評価指標に関して、数値目標を定め、それを達成すべくさまざまな活動を進めていく。目標の達成度合いは、業績評価(賞与評価)に結びつけます。

 マネジャーや社員は、評価指標がよくなるような改善活動を考え、継続して取り組むことになります。ここで大事なのは、業績評価指標を週次で測定でき、それらを社員全員が共有することです。週単位で仕事の出来栄えがチェックされるから、次のアクションも週次で考えられ、継続的に進化していけるわけです。

 指標の状況を共有し、現場で自分自身をナビゲートしていける情報システムを用意しました。運転席に座って「計器盤」をながめる感じで、業績評価指標を確認できるようになっています。計器盤というからには、一目で分からないといけない。そこで指標の状況を全部グラフにして、しかもまとめて表示しました。要するに、目的としている指標のグラフを全部作り込み、それだけしか見せないようにしたわけです。

 経営の意思決定に役立つ情報システムの構想は大昔からありましたが、今、当社が使っているシステムは、道具としては一つの完成形になっていると自負しています。従来は、トップ・マネジメントのための情報システムを作ろうとしてなかなかうまくいかなかった。そこで発想を180度変え、全社員で指標を共有する、現場のマネジメントラインを支援をしていくシステムに切り替えたのです。現場主義にしたことが重要であったと考えています。

カギは“人間系”にあり

 バランス・スコアカード(BSC)の導入について、ある程度の手応えは得ていますが、まだまだ気は抜けません。BSC導入それ自体が目的になってしまう危険がつきまとっているからです。BSCやKPIやITによる可視化・見える化は、すべて仕組みに過ぎません。仕組みは重要ですが、仕組みだけでは駄目で、“人間系”が重要であると思うのです。

 仕組みと、仕組みを使いこなす人間の両方について考えておかないと、どれほど先進的な仕組みを取り込んでも機能しません。「仕組みを使う意欲が社員にない」とか、「そもそも使うニーズがない」といった状況は、人への配慮が足りないから起こるのです。

 人間系の部分、つまり仕組みが根付くように、社員の意識を変えることは、我々経営陣やリーダーの役目です。基本的には社員とのコミュニケーションをしっかりととることに尽きます。米GEのCEOを長く務めたジャック・ウェルチ氏は自叙伝で、「基本的に自分(経営トップ)の仕事は、部下との面談だ。部下とのコミュニケーションに相当の時間を費やす」と書いていました。「社長の仕事はコミュニケーション」ということを忘れずに、行動しようと自分に言い聞かせています。