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筆者はユーザー企業からの依頼でRFP(提案依頼書)の作成やソリューションプロバイダの選定、プロジェクト管理などを支援してきた。この連載では、ユーザー企業がどのような視点でソリューションプロバイダの提案書を比較・評価するのかを、筆者の経験を基に具体的に紹介していきたい。

 ソリューションプロバイダ各社は、ユーザー企業からRFPを受ける機会が増えているのではないだろうか。日本情報システム・ユーザー協会(JUAS)が今年3月に公表した「企業IT動向調査2005」によると、RFPをベンダーの手を借りず自社で作成している企業が、2004年には2003年の 16.4%から23.4%に大幅に伸びている。これは、ベンダーとユーザー企業の蜜月時代の終焉が近づいていることを表しているといえる。

 ユーザー企業はソリューションプロバイダとの関係に一層の厳しさ、緊張感を求め始めているのである。これを逆の視点で見ると、今まで特定ソリューションプロバイダにべったりであったユーザー企業向けに、新規参入するチャンスが増えているということでもある。

ソリューションプロバイダとの取引見直しに動く

 では、なぜユーザー企業の意識が変わってきたのだろうか。そこには明確な理由が存在する。その理由とは、(1)ITに関する投資対効果をより厳しい目で見るようになったこと、(2)現在取引のあるソリューションプロバイダとの関係に疑問を持ち始めたこと、(3)経営者や株主への説明責任を果たせるようにすること―などである。

 IT投資に関する指標の1つとして売上高に対するIT投資比率がよく使われる。ITRなどが毎年実施している「国内IT投資動向調査」によると、 2001年度1.3%、2002年度1.5%、2003年度1.9%、2004年度2.1%と着実に伸びている(図1)。しかし、IT予算のうち新規システム構築など戦略的な投資に当てられるのは、売上高の0.9%、IT予算全体の42.8%(2004年度)でしかない。残りは現行システムの保守運用や管理など定常的に発生する費用となっている。

図1●ユーザー企業の売上高に対するIT投資の割合
図1●ユーザー企業の売上高に対するIT投資の割合
売上高に対するIT投資全体の割合の伸びに比べ、戦略投資の割合はあまり伸びていない

 こうした状況の中で、経営者などのIT投資に対する目が厳しくなり、投資対効果を明確にせよとの指示が、頻繁に下りるようになった。IT投資の効果を高めるには、システム導入効果を一層厳しい目で評価し、不要な機能などは削ぎ落とすことで、コストを極小化することである。国内IT投資動向調査でも、ユーザー企業のIT部門における課題について尋ねているが、2003年度、2004年度ともコスト削減がIT部門における課題の第1位であった。

 次に、現在取引のあるソリューションプロバイダとの関係への疑問であるが、システムの定常運用費用が増加の一途をたどっていることが、その根底にある。毎年のように新規システムが稼働すれば、その分の費用が累積されていく。しかも、費用以上の狙った効果が十分に出ているのかどうかが不明であることが多い。

 多くの場合、システムに対する満足度も高くなく、システムを開発した企業や保守運用会社への疑問や不満の声が出る。担当するSEやプログラマ個人についても、人月単価に相当する仕事をしていないといった能力面での不満も多い。ITRのクライアント企業からも愚痴や不満を聞くことがしばしばである。

 株主などへの説明責任が重くなったことも、ソリューションプロバイダに対するユーザー企業の意識が変わった理由である。国内の企業は、売上高経常利益率が3~4%というところが多い。その中で、売上高の2.1%ものIT投資を行っているのである。それだけの投資を実施しているITが効果的に機能し、経営に貢献していることを、経営トップや株主に明確に説明できなくてはならなくなってきている。

 当然、なぜ、そのソリューションプロバイダにその価格で発注したのか、も問われるようになってきた。システム構築の失敗により、ソリューションプロバイダが訴えられる例が増えているが、今後はユーザー企業の経営者がIT投資の失敗の責任を問われることも考えられる。予算を大幅に上回るIT支出や、効果が明確ではないシステム費用、システムの稼働が計画よりも遅れることによる機会損失、システム障害による売り上げや利益減少などがその対象になるだろう。

 このようなことを背景に、ユーザー企業は今まで取引があったソリューションプロバイダとの関係を見直し、確実に効果を生み出すシステムを、妥当な価格で計画通り遅延なく提供できる企業を探すようになった。取引関係が長いソリューションプロバイダはユーザー企業の業務ノウハウを蓄積しているため、同じところに発注した方が効率的な開発ができ、品質面でも安心とされていた。しかし、実態としてソリューションプロバイダが勝手に担当SEを交代させたり、ドキュメントの整備を怠ったりすることもある。必ずしも継続発注することが最適とは言えないことに、ユーザー企業は気づきつつある。

 多少のロスがあろうとも、取引先を変える方が正しい選択であるかもしれないと考え、RFPを活用して現在取引のあるソリューションプロバイダにも競争をさせることによって、より好条件を引き出そうとしているのである。ソリューションプロバイダが提案書をユーザー企業に提出する際には、そのことを十分に認識しておかなければならない。

不十分な提案書はユーザー企業に迷惑

 筆者は数多くの提案書を評価してきたが、こうしたユーザー企業の課題や思いを理解していない提案書が非常に多い。JUASの調査でも、ソリューションプロバイダの企画提案力の不足を訴える企業が最も多く、全体の82.0%に達する(図2)。提案書作成費を支払うユーザー企業もあるが、それでも提案書の内容が単なる製品やサービスの説明になっているものがある。製品体系に○○ソリューションと銘打たれていても何のソリューションも提示していないのである。

図2●ユーザー企業161社に聞いたソリューションプロバイダに対する不満(複数回答)
図2●ユーザー企業161社に聞いたソリューションプロバイダに対する不満(複数回答)

 そもそもソリューションは「課題解決」という意味であって、ユーザー企業が抱えている課題の本質をつかみ、それを解決する手段の提案でなければならない。場合によっては、新規システムの構築ではなく、現行システムの改訂が最良のソリューションであることもあり得る。また、ソリューションは複数のソリューションの組み合わせで実現することもある。

 ベスト・オブ・ブリード(最適な製品の組み合わせ)という言葉があるが、よほどのITベンダーでない限り、自社製品だけでベスト・オブ・ブリードを実現できない。にもかかわらず、自社の製品やサービスだけで提案してくるケースが散見される。確かに自社製品だけで構築したほうが製品知識や保守面で安心だが、他社製品を知ろうとしないようでは、ソリューションプロバイダとは言えないのではないだろうか。

 このほか、ユーザー企業の業務や現行システムの課題に対して分析不足と思える提案書も多い。新規システムの場合、要件を明確にRFPに記載しているユーザー企業は、極めてまれであろう。RFPの多くは、ソリューションプロバイダにとって不十分な内容のまま送られてくる。これを、ソリューションプロバイダがどう処理するかで大きな差が出るのである。

 ソリューションプロバイダは、RFPを受け提案書を作成し、プレゼンテーションするまでを1つのプロジェクトと考えるべきであろう。ユーザー企業に採用される提案を行うという目的を再認識し、採用されるための条件を洗い出し、目標回答レベルを決め、作業分担と作成スケジュールなどを明確にする必要がある。

 筆者が評価した提案書の中に、10の要件に対して6しか答えていないものがあった。このソリューションプロバイダは、そのユーザー企業との間に取引関係があり、不十分な提案書の理由として時間がなかったことを挙げていた。しかし、提案というプロジェクトすら満足に完了できない企業に、それよりもはるかに大きく重要なプロジェクトを任せられるだろうか。こうした場合には、提案を降りるべきであろう。

 どんなに不十分な提案書にせよ、ユーザー企業には評価するための時間がかかってしまう。ソリューションプロバイダから見て不十分なRFPであればあるほど、多くの質問を投げ、場合によっては業務現場を見学し、現行システムを見せてもらうということまで行うべきであろう。そうしなければ、ユーザー企業が期待する提案書などは書けないはずである。

 今回は提案書の全般的な問題点を指摘したが、要は、自分たちがユーザー企業であったなら、どのような提案書であれば採用することを検討するのか、を考えることである。ユーザー企業は課題を低コストで素早く解決したいのである。従って、ソリューションプロバイダはまず、ユーザー企業の課題を十分理解し体系化して、どのように解決するのかを漏れなく提案しなければならない。見積もりにおいては、重要課題とそうでないものを見分け、重要でないものはオプションとして提案するなどの工夫も必要である。

 次回以降、ユーザー企業がどのようなプロセス、視点でソリューションプロバイダを選定しているのかについて、具体的に解説していきたい。

広川 智理
アイ・ティ・アール 取締役 シニア・アナリスト
1977年にNEC入社、グループ内のシステム企画、開発、運用に携わる。2001年にアイ・ティ・アールに入社、翌年に取締役。オフショアアウトソーシングを含むベンダーマネジメント領域を得意とし、ユーザー企業の見積書妥当性評価などを支援