PR

三城氏写真 筆者紹介 三城 雄児(みしろ・ゆうじ)
ベリングポイント マネージャー

早稲田大学政治経済学部経済学科卒業。都市銀行、ベンチャー企業、国内系コンサルティングファームを経て現職。特定非営利活動法人日本イーラーニングコンソシアム調査委員会委員長。民間企業や行政組織の人事改革に取り組むかたわら、組織・人事に関わる各種の講演・執筆など積極的な活動を行っている。

 民間企業も行政機関もどちらも1つの組織であり、1つの経営体である点において変わりはない。1人ではできないことを複数の人間が集まって実行しているのが、組織であり経営体である。複数の人間が集まる際に重要になるのが、コミュニケーションである。4回目では、公務員型組織における組織内コミュニケーションの重要性とその強化策について述べたい。

コミュニケーションギャップが浮き彫りに

 2006年にベリングポイントが実施した独立行政法人の人事担当者を対象としたアンケート調査によると、各種人事施策について、未実施の団体が多く、かつ「今後取り組みたい」としている施策としては「資格等級制度」「多面評価制度」「職員満足度調査」の3項目が目立っている。いずれも「今までに取り組んだ、または取り組み中の施策」としては下位にあり、必要性を感じているものの、実際の着手が遅れていることが分かる(図1)

 なお「多面評価制度」とは、上司だけではなく部下や同僚など複数の人物から評価を受ける人事制度上の仕組みのこと。これまでは、管理職層に対する指導ツールとして活用されてきた。最近、この多面評価の結果を基に管理職の任免や処遇の決定をする民間企業が増えてきている。

■図1 人事施策の取組み状況
人事施策の取組み状況
出典:2006年「独立行政法人における人事施策の調査」ベリングポイント株式会社

 図1で突出した特徴を示した3項目のうち、資格等級制度については、前回第3回で述べた通り、一人ひとりの職務に応じた人事制度を求めた結果であり、「今後取り組みたい」という団体が多いことは想定していた通りであった。しかし、多面評価制度と職員満足度調査を求める声が大きいことは、意外な結果であった。

 そこで、このアンケート結果を基に、いくつかの独立行政法人の人事担当者10人程に実際に会ってインタビューを行った。その結果、トップから現場、現場からトップへのコミュニケーションのギャップが浮き彫りとなった。次の人事施策上の課題といえるだろう。

 例えば、多面評価制度を導入したい理由としては、「『(人事評価を行なう)直属の上司に対する不満が大きい』『現場の声が上位層の指示や命令に反映されていない』という現場の声がある以上、それに配慮したい」という内容の意見が多かった。

 一方、職員満足度調査実施を求める理由としては、「部長以上と部長未満の階層の人たちで情報の断絶があり、機構の組織運営に対する知識と意識の差が大きい」、「理事長が改革の旗振りをして理想を掲げても、現場には伝わっていない」といった問題認識を抱く人事担当者が多く、「その原因を調査するためにも、職員に対して経営層・上司のマネジメントや職場内コミュニケーションに関する満足度調査を実施したい」という発言が聞かれた。

 国家公務員もこれから本格的な人事評価システムを導入しようとしているが、その際には、おそらく上下のコミュニケーションギャップの問題が浮き彫りになるはずである。改革をスムーズに進めるためにも、ギャップを生じさせないような対策が必要になるだろう。

トップから現場に与える情報の量と質を共に高める

 コミュニケーションギャップを解消するためには、「1.トップから現場に与える情報の量と質を共に高めること」、「2.現場職員の持つ問題認識を効果的に収集し組織運営に活かすこと」の2点が重要である。

 そこでまず初めに、「1.トップから現場に与える情報の量と質を高める」ための具体策として(1)人材のコアバリューの明示と徹底、(2)トップによるスモールミーティングの開催の2つを紹介したい。

(1)人材のコアバリューの明示と徹底
 人材のコアバリュー(中核的な価値観)とは、その組織が行なう事業に合った「あるべき人材像」を具体的に表したものである。例えば、筆者の所属するベリングポイントでは、コアバリューとして、“Commitment to Client's Success”(顧客の成功へのコミットメント)、“Commitment to Each Other's Success”(お互いの成功へのコミットメント)、“Speed with Purpose”(目的を持って速く)など8項目が定義されている。CEOからのメッセージ、新入社員教育、人事評価など、組織の方針を明示する機会があるたびに積極的に引用されている。

 コアバリューは、すべての職員が共感できるものでなければならない。そのため、コアバリューを設定する際には、現場職員と経営層が一体となって議論を進めることが有効である。そして、一度コアバリューを決めたら、経営層は繰り返しこの言葉を使い続けることが重要だ。公務員組織においても、コアバリューを決めて活用することは有効だ。「我々は何を目指して行動しているのか」を多くの職員に改めて考えさせ、文章化して明示することで、行政サービスの改善を加速させられるはずだ。

(2)トップによるスモールミーティングの開催
 組織・人事の改革を進める際に、トップによる発言は重要だ。しかし、職員に伝わらなければ意味がない。公務員組織では、1人1人の業務があらかじめ細分化されて、法律で定義されていることが多い。そのため、目の前の業務遂行に没入しがちで、トップの発言が自らの業務に与える影響について無関心になりがちである。

 そのようなときは、トップ自らが改革のねらいや各職員に実行して欲しいと考えている具体的な業務を、末端の職員まで直接伝えていくことが必要だ。これを実現するために、3~10人規模のスモールミーティングを行なうことを、筆者は推奨している。時間はかかるが、トップによるボトム(現場)へのダイレクトなコミュニケーションが、組織全体に与える影響は大きい。組織の末端が変われば、中間層も変わらなければならなくなるからだ。

この記事は会員登録で続きをご覧いただけます

日経クロステック登録会員になると…

新着が分かるメールマガジンが届く
キーワード登録、連載フォローが便利

さらに、有料会員に申し込むとすべての記事が読み放題に!
日経電子版セット今なら2カ月無料