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■東欧バルト三国の一角であるエストニア共和国では、ICチップを搭載した国民IDカードが広く普及している「電子政府先進国」だ。人口約135万人に対して、これまで100万枚以上のIDカードが発行された。免許証や保険証の代替利用ができるほか、公共交通機関のチケットやEU内でのパスポートとして使うこともできる。(内田 道久=次世代電子商取引推進協議会(ECOM)主席研究員、前田 陽二=次世代電子商取引推進協議会(ECOM)主席研究員)

※ このコンテンツは『日経BPガバメントテクノロジー』第15号(2007年4月1日発行)に掲載された記事を再構成したものです。


エストニア共和国

 世界で初めて国家レベルのインターネット電子投票を実施するなど、近年ITの分野で注目を浴びている「バルト三国」のひとつであるエストニア共和国(以下、エストニア)。日本の住基カードのような位置づけの接触型ICカード「国民IDカード(以下、IDカード)」が広く普及していることでも注目すべき存在だ。

 このIDカードは、国民や国内に居住する15歳以上の在留外国人を識別するためのもので、物理的な身分証明書であるだけでなく、オンラインサービスに関連した安全な認証および法的な拘束力のある署名をするための電子的機能を備えている。2002年1月1日のカード発行開始以来、順調に発行枚数は増え続け、人口約135万人のエストニアで、2006年末までに累計100万枚以上のIDカードが発行されている(表1、図1)

■表1 エストニアの国民IDカードの概要
発行対象者:15歳以上の国民と在留外国人
製造業者:TRÜB Switzerland
初発行:2002年1月1日
総発行枚数:103万316枚(2006年末時点・人口約135万人)
関連情報:http://www.pass.ee/(IDカード関連)
http://www.sk.ee/(PKIと認証局)

■図1 IDカード券面(表面と裏面)
表面の記載データ 裏面の記載データ
■表面の記載データ
IDカードの表側には顔写真とサインとともに、以下の項目が印字されている。
  • カード所有者の氏名
  • カード所有者の国民ID番号
  • カード所有者の生年月日
  • カード所有者の性別
  • カード所有者の市民権
  • カード番号
  • カードの有効期限
■裏面の記載データ
カードの裏側には、以下の項目が印字されている。
  • カード所有者の出生地
  • カード発効日
  • その他、居住許可に関する項目等
■ICチップのデータ
2種の電子証明書(署名用には氏名と国民ID番号を、認証用には公的メールアドレスを格納)
*表と裏に記された文字は、機械で読み取り可能なフォーマットで印字されている。
*住所は印字されていない。

 IDカードは、法律で所持を義務付けられているとはいえ、罰則規定はないため、強制的に付与されるものではない。それでもここまで広く普及した理由の第一は免許証や国民健康保険証の代替として、さらに公共交通機関のプリペイドチケットとしても使えるなど、住民にとっての利便性の高さにあるといえるだろう。

 もう一つの普及の理由は、IDカードの多重活用の前提となる、国民の個人情報の統合データベースの安全性に関する取り組みにある。エストニアにおけるIDカードおよびデータ保護に対する一般的見地は、カードに含める個人データをできるだけ少なくすべきであるというものである。代わりに、データは関連機関に存在するデータベースに保持されており、個人はIDカードを鍵(認証方法)として使用してデータベース内の自分のデータにアクセスできる。

 エストニアでは、X-roadと呼ばれる市民データ集中管理基盤(詳しくは後述)を通じて各種個人情報のやり取りを行っている。国民は自分のデータへのアクセスについて、誰が何の目的で利用したかを、クレジットの利用明細に類似した形で手軽に確認ができ、不正使用については訴えることができるようになっている。この仕組みがあるからこそ、安心感をもって国民はIDカードを使うことができるというわけだ。