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日本事務器は、ミヨシ石鹸と玉の肌石鹸から販売・生産管理を中心とした基幹業務システムを受注した。使い勝手など顧客の意見を“イメージ化”したデモ画面をすぐに作成してプレゼンテーションに臨むなど、柔軟な営業活動が奏功した。

 ミヨシ油脂のグループ会社であるミヨシ石鹸と玉の肌石鹸は2003年1月に両社で共通の販売・生産管理システムを稼働させました。元々は親会社のシステムを共同活用していましたが、自社の業務に合わない部分が多いため、2001年から石けんの事業では独自のシステム化を検討しました。ミヨシ石鹸と玉の肌石鹸は別会社ですが、製品や業務形態が似ているため、システムも統一化し、共同利用することにしました。

●企業概要
●企業概要

 ミヨシ石鹸と玉の肌石鹸は、社内で検討委員会を設置し、ITベンダーとの交渉を開始しました。この検討メンバーの中心となったのが、ミヨシ石鹸・業務部の吉田義晴統括課長と玉の肌石鹸・総務部の勝田富士秀総務課長です。検討を開始して早い時期に数社のITベンダーからシステムの見積書を取りましたが、各社から出てきた見積書は、3000万~7000万円と大きな開きがありました。ITベンダーの見積書の範囲やサービス内容もまちまちであり、どう評価・選定すべきか分からなかったそうです。自社でシステムに関して明確な仕様と評価基準を作成できないとITベンダーの評価は難しい。しかしIT専門の部門や専 任者を置いている中堅・中小企業はそれほど多くありません。

 最初は社内で検討を進めていましたが、外部のITコンサルティング会社を活用することにしました。2001年4月にコンサルティング会社のバイム(東京都品川区)に支援を依頼。バイムは、ITコーディネータの小田切庸正氏を中心に、約半年かけて業務分析を行いました。これを基に10社近くのITベンダーからソリューションについて情報収集しました。8月にITベンダーの候補先を6社に絞り、提案を依頼しました。この6社はバイムが改めて選定したITベンダーです。

図1●ミヨシ石鹸/玉の肌石鹸の新システム導入までの経緯
図1●ミヨシ石鹸/玉の肌石鹸の新システム導入までの経緯

 新システムの基本方針は、(1)独自のシステム、(2)シンプルで拡張性のあるシステム、(3)業界VANであるプラネットへの接続が可能、の3つに設定しました。基本方針の(1)と(2)は、現状の社内の問題点やニーズから出てきたものです。(3)のプラネットとの接続は、得意先からの要望でした。洗剤・石鹸業界の卸売業はEDI(電子データ交換)が進んでいるからです。

 旧システムでは卸売業からの受注は電話かFAXで受けており、すべて手入力で処理していました。そのため受注処理に膨大な作業工数がかかり、ミスも発生しやすいという問題がありました。卸売業にとってもメーカーとデータ交換できないと、手作業やチェックの作業が増え、データ入力にも手間がかかります。従って、(3)については得意先に対するサービスの向上という目的があります

 さらに今回は、ERP(統合基幹業務システム)ソフトの活用を前提としました。ERPソフトの選定では自社の業種や業務プロセスへの適合性を重視します。社長はシステム化によって経営の状況を可視化し、“有視界飛行”できるように希望していました。いわゆるコックピット経営の実現です。

トップへのアプローチが逆効果

 6社の提案書から第1次選定を行った結果、3社が残ったので、さらにプレゼンテーションを実施してもらいました。プレゼンでは提案書では分からないITベンダーの能力が明らかになってきます。その中の1社は第1回目のプレゼンで業務内容の理解が不十分であることが判明したほか、営業活動のアプローチにも問題がありました。「社長に会わせてほしい」と何度も検討委員会のメンバーに要求し、断ると直接社長にアポイントを取ろうとしたそうです。結局、社長に対する個別のアプローチは実施されませんでしたが、検討メンバーの心証を大きく害したのは事実です。

 商談が不利なときにトップへのアプローチによって逆転受注したケースは数多くあります。中堅・中小企業の経営者の中には提案の内容やシステムの機能、技術的な評価よりも、やる気や意欲など心情に訴える営業を評価する方も多くいます。従って、トップへのアプローチの有効性を否定しませんが、そのためには状況を十分に把握しなければなりません。今回のケースでは、社内の検討メンバーとITコンサルタントが中心に評価を行い、トップに承認を得るという形で導入を進めていました。そこで、こうした強引なアプローチは逆効果となります。検討メンバーは、このような強引なITベンダーを選定したら、プロジェクトを進めにくくなると不安を感じたそうです。

 業務内容の理解不足に加えて、こうした営業手法もあったので、3社のうち1社が落ちました。残った2社に対して最終選考を行うため、再度プレゼンを依頼しました。このとき、日本事務器はERPソフト「CORE Plus」をベースにした提案でした。もう1社も市場で評価の高いERPを提案してきました。

 候補のITベンダーを2~3社に絞るまでは比較的容易ですが、最終決定はなかなか難しいケースが多い。今回は、システム化の対象が販売管理と生産管理と非常に広範囲なため、2段階で選定しました。11月13日には製造拠点の神戸工場で生産管理を対象にプレゼンを実施してもらい、11月21日と11月26日には再度、それぞれ個別にプレゼンを行ってもらいました。提案内容やERPについて、バイムが比較評価しました。

 自社の基幹業務を完全にERPソフトに合わせることは困難です。特に石けんの製造は、温度によって比重を変えるなど環境や状況に合わせてフレキシブルな対応が必要となるため、ERPの固定的な機能だけでは対応しにくい。要件に基づいてカスタマイズ項目を設定し、見積り金額についても比較しました。ただし今回は、各社ともほとんど差が見られませんでした。

 12月末には最終的にITベンダーを日本事務器に決定しました。決定した要因は、日本事務器の提案内容に競合のITベンダーより柔軟性があったことです。今回のケースで言えば、ERPソフトそのものの柔軟性と営業対応の柔軟性の2つの側面があります。

 今回、システム化の方針の1つにシンプルで拡張性のあるシステムを挙げており、マネジメントに有効なデータの分析や加工が簡単であることを条件にしていました。そうした機能では、日本事務器のCORE Plusが高い評価を得ました。

図2●日本事務器が今回、使用した提案書(一部抜粋)
図2●今回、大興電子通信が使った提案書
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「パッケージありき」では不安に

 デモのときは、単にCORE Plusの入力画面を見せるのではなく、事前にヒアリングしていた意見を“イメージ化”した簡単な入力画面を用意して、使い勝手を強調しました。こうした工夫により、実際の操作性やユーザーインタフェースに近いものをアピールできたため、安心感につながりました。

 基幹業務システムは、毎日多くの量のデータを入力処理しますので、操作性が悪いと業務の停滞や入力処理時間の遅れ、不十分なデータ活用などの問題を引き起こします。またエンドユーザーのストレスもたまり、システムの満足度も低くなります。使い勝手を心配していただけに、ミヨシ石鹸と玉の肌石鹸は特に営業の仕様頻度の高い販売管理の入力画面の比較を重視していたそうです。「簡単な画面ショットでシステムのプロトタイプを作るといったほど手間のかかる作業ではありません。ちょっとした工夫ですが、実際の状況に近くなるため、具体的な話がしやすくなりました」(日本事務器の営業企画グループの岩崎彰吾リーダー)。

 こうした画面を設計すると日本事務器にとっては、営業活動としてやや工数はかかりますが、顧客に合わせた画面でアプローチすることで他社との差異化を図ることができ、商談を獲得するケースが多いということです。顧客からするとITベンダーから“お仕着せ”の窮屈なERPソフトを押し付けられたと感じることが多いものですが、今回のケースではニーズや課題をうまく取り込んで提案につなげています。さらに今回のプレゼンでは、競合製品の弱みを知り、そこを意識的に強調してCORE Plusの機能を訴えたこともポイントになったようです。

図3●今回の商談獲得のポイント
図3●今回の商談獲得のポイント

 日本事務器の営業部員の対応も顧客の要望やニーズをよく聞き、対応に柔軟性がありました。ERPソフトを販売するとき、「パッケージありき」でぐいぐい攻めるITベンダーも多いと思います。しかし顧客にとってシステム導入はITベンダーと長い付き合いになるため、営業姿勢は気になるところです。

 実際、もう1社の競合のERPソフトも最後まで残っただけあって非常に優れたものでした。ただし営業姿勢を顧客の側から見ると、業務をERPソフトに合わせるべきというアプローチが前面に出すぎており、やや柔軟性に欠けるという印象を受けたようです。

 今回のケースでは、顧客のシステム化要件への適合度と柔軟性がポイントとなりました。柔軟性とは顧客の不安を取り除くものです。顧客はシステムの設計段階で確定できなかった部分を後から見直したり、場合によっては組織や業務改革によってシステムの機能やプロセスまで大幅に修正する必要も出てきます。顧客にとっては、システムそのものに柔軟性や拡張性があるかは大きな要因です。

 そしてITベンダーの対応の姿勢が最終的に重要な決定要因となりました。社内のプロジェクトメンバーを飛び越えて強引にトップセールスで押し切ろうとするベンダーや基本のパッケージ機能を前面に出した営業アプローチでは顧客の不安を取り除くことができなかったのです。

林 誠
戦略経営システム研究所代表
戦略経営システム研究所代表。中小企業診断士、ITコーディネータ。ITを徹底活用し、中堅中小企業のビジネスモデル構築、経営改革の支援に携わる。