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本記事は日経コンピュータの連載をほぼそのまま再掲したものです。初出から数年が経過しており現在とは状況が異なりますが、この記事で焦点を当てたITマネジメントの本質は今でも変わりません。

これから3週にわたって,大手製造業系のシステム・インテグレータA社が実施した「プロジェクトの進め方を革新するプロジェクト」の内容を紹介する。A社の狙いは,開発の生産性向上やスピードアップ,さらに開発要員のローテーションを実現すること。プロジェクト・メンバーとなったA社の中堅社員が検討会や過去のプロジェクトの実態調査を通じて,自社の問題点を抽出。これを受けて改革案をまとめるという試みである。

林 衛(はやし まもる)
アイ・ティ・イノベーション 代表取締役

 「また相談に乗ってほしいことがあるんだ。実は2~3年先に株式を上場する事業計画を立てている。その時までにもう少し,全社の利益率を上げておきたい。今までかなりの努力をしてきたつもりだが,どうしても開発プロジェクトごとの利益にバラツキが出る。もう一段,会社の生産性を上げる手はないだろうか」。

 「御社は個別プロジェクトの生産性を向上させる工夫については相当やっておられますからね。これ以上,ぞうきんを絞るとすれば,プロジェクト・マネジメント全体の改革ではないでしょうか」。

 「おかげさまでデータ・モデリングも開発方法論もそれなりに定着してきました。ただ,それでもまだ実際のプロジェクトは必ずどたばたします。経営方針とプロジェクトをどう関係づけるかといった点も課題ですし。現場全体がプロジェクトにもう少し強くなるようにする手はないでしょうか」。

 「即効薬はないけど,漢方薬ならありますよ。プロジェクト革新のためのプロジェクトをやることです。ただし,過去のプロジェクトの洗い直しもやりますから,結構苦い薬になるかもしれません。現場がやる覚悟があれば手伝いますよ」。

 冒頭の会話は,大手製造業系システム・インテグレータA社の役員と筆者,そしてA社の担当部長と筆者の間で,およそ1年くらい前にあったやりとりである。偶然にも,いやおそらく必然だったのであろう,経営者も現場幹部も,問題意識はプロジェクト・マネジメントに集中していた(図1)。

 筆者とのやりとりがあって数日後に現場の担当部長から電話があった。「やってみようという有志を集めました。予算もなんとかやりくりできそうですので,よろしくお願いします」。こうしてA社の「プロジェクト革新プロジェクト」を始めることにした。

図1●システム・インテグレータA社のプロジェクトに関する問題意識
図1●システム・インテグレータA社のプロジェクトに関する問題意識

システム子会社の自立を狙う

 A社は名前を言えばだれでも知っている名門製造業のシステム子会社である。A社は親会社の基幹系システムの開発・運用はもちろん,積極的に親会社以外の仕事も獲得している。しかし,今回の不景気で製造業の常として親会社の業績は厳しい。

 システム経費をなんとか抑えたい親会社の意向は,「子会社のA社はプロのインテグレータとして,もっと生産性を上げてほしい。そして,上場に取り組んで親から自立してほしい」というものだった。多くのユーザー系システム・インテグレータは現在,同様の立場に置かれているのではないか。

 筆者は,A社が開発方法論を導入された時にお手伝いをさせていただいたことがあり,その時からの付き合いである。筆者の見るところ,システム開発会社としてA社は相当にできる。名門企業の子会社だけにあって,優秀な社員が多い。にもかかわらず,データ・モデリングとか開発方法論といった地道な取り組みをまじめに進めるA社に対し,筆者は非常な好感を抱いていた。

 「にもかかわらず」といったのは,一流企業で頭のいい人がたくさんいるシステム部門などに限って,あれやこれやと理屈ばかりが達者で,モデリングとか方法論を敬遠していることが多いからである。A社の社長が上場に向けて社内を前向きに変えていこうと努力されている点にも好感を持った。

 何度も「好感」などというと,「お前は客を選り好みできるほど偉い先生なのか」としかられるかもしれない。しかし,前回述べたように,筆者は企業がプロジェクトをきちんとやり遂げられるかどうかは,企業体質によるところが非常に大である,と確信している。

 身のほど知らずのことを言わせてもらえれば,あまりお近づきになりたくない社風の企業と仕事をして,いくらこちらが努力してみても,やはりそれなりの結果しか得られない。その点,A社はこちらからお願いして一緒に仕事がしたくなる企業だった。