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システムコンサルティングは組織で実施する。連載の最終回は、システムコンサルティング組織の運営を紹介する。それは、大型SI案件の創出につなげる活動であると同時に、実践を通じて普通のSEを一人前のシステムコンサルタントに育成する場ともなる。

 この連載で紹介してきたシステムコンサルタントの「心」「技」「体」は、SEが“トップ営業”になるために習得すべきことだが、その1つひとつは当たり前の事項である。頭では理解できても、完全に身に付けるのは難しい事柄でもある。内容の理解ができたら、後は実践の場と機会を作り、習得するしかない。

 また、システムコンサルティングは、いくら優秀な横綱級のシステムコンサルタントでも、1人でできるビジネスではない。コンサルティングとは組織で実施するものである。ましてや、大型SI案件などの創出につなげる目的で、システムコンサルティングに乗り出そうというのなら、なおさらのことである。

システムコンサルティング組織を作る

 イメージを持ってもらうために、モデルとなるITサービス会社を想定し、システムコンサルティング事業を開始するための組織を作り、具体的なビジネス創 出を行っていく仕組みについて紹介する(図1)。実際にはシステムコンサルティング室以外に、コンサルティングのサービス品質を確保するための社内横断的 な組織機能や、IT活用動向など基礎的情報を調査・提供する組織機能が必要になる。ただし、今回は話を分かりやすくするために、詳しくは触れない。

図1●モデル組織「システムコンサルティング室」の概要
図1●モデル組織「システムコンサルティング室」の概要
役員1人、室長1人、メンバー3人、スタッフ1人から構成

 図1は、発足したばかりの「システムコンサルティング室」を示している。メンバーはSE経験者だけではなく、担当役員には金融業での法人営業の経験者を外部から採用しアサインしている。これは、コンサルティングにおいては顧客企業の経営者ときちんと会話ができることが技術面より大事だからである。この役員は、システム技術が分からない分、かえって顧客の経営側に立って物事を判断できることにもなる。言い換えれば「技術から顧客を守れる」わけである。

 もちろん組織全体としては、システムの分析や提案ができる必要があるので、室長にはSE経験が豊かで社外の専門家の人脈も豊かな人材が就いている。アサインされたメンバー全員がSEとして業務経験はあるが、営業経験がない。従って、彼らをシステムコンサルタントとして育成するのは、まさにこれからの状況である。室員全体の構成は、顧客企業の経営者、およびシステム現場などの各層への対応、サービス内容を考慮して年齢・経験を勘案した“青・壮・老”のバランスをとったものとなっている。

大手200社への営業でマーケットを知る

 この組織の目的は、単なるコンサルテーションの受託ではない。受託を通じて、さらなるシステムビジネスを創出することにある。そのために、営業活動の中心は既存顧客ではなく、新規顧客の開拓を狙うことになる。目標としては、大手企業200社へのアプローチを実施し、3年後をめどに50社からシステムコンサルテーションを受託する。さらに、その中から1件当たり10億円以上のSIなどシステムビジネスを5件程度受託することを目指す。

 システムビジネスの創出のためには、10社程度のアプローチではなかなか成果が出てこない。コンサルテーションだけで終わる顧客が、当然多数あるからである。ビジネス創出の芽をできるだけ多く見つけるには、できるだけ多くの企業へアプローチを実施し、リレーションを作り、できるだけ多くのコンサルテーションを受託することが必須である。しかし、1人の役員、1人の室長、1つの組織ではおのずとケアできる社数に限度がある。それが200社である。

 この200社は、上場企業クラスの大手が中心である。組織的にきちんとケアできなければ、会社として、システムコンサルタントとして、評判を落としてしまう。200社であれば、幅広い業界を網羅できる。必ず何らかのビジネス創出につながり、しかも組織的に大仕事ではあるが何とかケアできる範囲である。少なくてもダメ、多すぎてもダメで、ちょうどよいのが200社なのである。200社にアプローチし、50社の顧客を得られるようになったら、顧客を図2のように分類できるようになり、マーケットを熟知できるようになる。システムコンサルティングは、その知見を得るための取り組みでもある。

図2●顧客の分類
図2●顧客の分類

手紙を使ってアポをとり顧客の経営者を訪問

 コンサルティング受託のための営業手法は、これまで解説したシステムコンサルタントの「心」「技」「体」を駆使し実践すること、そのものである。

 例えば、既存顧客であっても、新しい提案を行うのであればアプローチ先としてリストアップし、経営層に手紙を書いて、その後、訪問のアポイントを入れる方法をとる。手紙を書くに当たっては、その企業の事業内容、経営上のトピックス、システム事情、CIO略歴などを業界紙やインターネットなどで調査し、先方の琴線に触れるキーワードを必ず盛り込むようにする。

 アプローチ先については、各室員ごとに10社ずつアサインし、計50社の企業担当者を決める。常時50社にアプローチし、その結果を踏まえて200社の中での入れ替えを行っていく。業界ごとではなく、1人が複数の業界に当たるように割り当てる。手紙は室長の作成した手紙を参考に各人が自身で作成する。投函する前に室長がメンバー全員の内容をチェックし、不具合があればアドバイスして修正させる。

 投函してから約1週間後に、各アプローチ先へ電話でアポイントを依頼するが、この活動が大事である。経営レベルへのアポイントは、システムコンサルティング室の女性スタッフから先方の秘書経由で行う。通常、手紙で面談を依頼した場合、8割くらいの顧客とのアポイントが可能である。訪問する際は、役員あるいは室長のどちらかがメンバーに同行することを原則とするが、場合によっては育成を意識してメンバー単独でも訪問させる。役員、室長の担当会社については、役員と室長2人で訪問するようにする。

 毎週金曜日の夕方、営業会議で訪問結果をその企業の担当のメンバーに説明させる。今後のアプローチの仕方については、役員、室長から企業担当者に指示を出す。誰がどの企業の誰に会い、どんな話をしたか、それに対して先方はどのように反応したかなど、営業会議では全員が情報を共有できていなければならない。

システムコンサルタントは会議の場で育成する

 会議の場は、メンバーを育成するための大切な場である。報告の仕方や先方とのやりとりについて、改善点などが徹底的に教育され磨かれる。ビジネスマンとしてのイロハ、ビジネスマナーの訓練はここで実施される。社内会議であっても、顧客の経営者に対する報告会であるかのような緊張感を求めた運営をする。具体的な顧客、具体的な事例、具体的な場面でしか育成ができないからである。

 「顧客の言った通りをそのまま報告しろ。自分の感想は入れるな」「その場合の答え方は間違っている。このように誘導すべきであった」「次回はこういうことをぶつけてみろ」「顧客と懇親の場を設けよ」などの指導を徹底して行う。叱責も日常茶飯である。システム技術論ではない。ビジネス創出のための激論を戦わせる。生のマーケット情報が飛び交う場であり、提言のための切り口を発想する場であり、鍛錬の場でもある。

 毎日1人が数社以上を訪問し、毎週5人で50社を繰り返す。これを続けるうちにマーケットの方向が見えてきて、個別企業の問題の本質も見えてくる。そしてビジネスが見えてくるわけである。見えてくるまで徹底して繰り返すこと。メンバーは実践の場で鍛えられ、3カ月も立てばSEからトップ営業、つまりシステムコンサルタントに変身を遂げ始める。自分が担当する企業のビジネス像が見えてきたら、もう一人前のシステムコンサルタントである。

 コンサルティングのテーマは、基本的には顧客ごとに固有である。しかし、各社ともほとんどの場合、経営者がシステムに深い関心がある。そのため、テーマ本来の対象が現場の課題であっても、必ず経営から見た視点を付け加えて、経営者向けの報告会を実施するように工夫をする。「経営とシステム」について具体的で固有の課題を題材に、経営層とシステムの現場が参加し、その両者をつなぐ役割を果たすように留意した報告会にするべきである。

 この機会を一度でも設けておけば、受託したコンサルテーション課題が完了しても、引き続き経営者とその他のシステム課題、あるいは将来のシステムビジョンについて意見交換できる場を作ることができる。あたかもホームドクターのようにシステムの相談を受けたり、提案したりする関係を構築できる。同時にそれは、育成したいシステムコンサルタントの卵にも多くの鍛錬の場と機会を提供することにもなる。

 結局のところ、システムコンサルタントを育成するには、普通のSEを実践の場で繰り返し鍛錬させ、ビジネス創出のための自らの役割、立場を会得させることに尽きる。このことを会得できた者のみがシステムコンサルタントに変身できるのである。

黒岩 暎一
テクノロジストコンサルティング代表取締役社長
元・野村総合研究所常務システムコンサルティング本部長。約200社・団体のシステムコンサルティングを経験。2005年にテクノロジストコンサルティングを設立。CIOやITサービス業向けコンサルティング、システムコンサルタント育成サービスを提供。