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 前回、『CEOにもっとも必要とされる「情報責任」』と題し、「今日のCEOにもっとも必要とされるものが情報責任である」というピーター・ドラッカー氏の指摘を紹介した。この指摘を含む「コンピュータ・リテラシーから情報リテラシーへ」という論文は、2002年に出版された『ネクスト・ソサエティ』(上田惇生訳、ダイヤモンド社刊)に収録されている。

 再度ドラッカー氏の主張を紹介すると、情報責任とは、「どのような情報がいつ、どのような形で必要か。それを誰から得るか。自分はどんな情報を出すべきか」を考えることという。あくまでも情報の話であって、その情報を入手したり、作り出したりするコンピュータやネットワークの話ではない。
 情報は、「敵情報知」の間の二文字をとって作られた単語であり、もともとは軍事用語である。つまり、敵という外部の存在の状況を把握することを指す。ところが現状の情報システムに入っているのは、企業の内部の情報が大半であり、したがって意思決定の役に立たない。ドラッカー氏はこう喝破した。
 IT(情報技術)業界において、ビジネス・インテリジェンスという言葉がある。情報を蓄積し分析するソフトウエア製品とその利用を指す言葉だが、日本人にはあまりぴんとこない。インテリジェンスと聞くと「インテリ」を連想してしまうのではないか。ここでいうインテリジェンスはそうではなく、諜報という意味である。CIAのIは、後者を意味する。
 企業経営を戦争や諜報活動に例えるのがよいかどうかは分からないが、軍事や諜報活動はもっともクリティカルな組織活動であり、他の組織にとって参考になる点が多い。企業はもっともっと敵情を報知する仕組み作りに力を入れる必要がある。
 もちろん、企業は敵情をそれなりにつかんでいる。営業担当者、アフターサービス担当者など、社外に出て活動する社員は、顧客や見込み顧客と接することにより、顧客の状態はもちろん、競合会社の状況を察知している。優れた担当者は、敵情をうまく関係者に報知し、成果を挙げる。優れた企業は、個々の担当者だのみにせず、敵情を組織的に吸い上げ、関係者で共有し、企業全体として成果を挙げていく。
 敵情を報知する仕組みを作るにあたっては、必ずしもコンピュータやネットワークを使う必要はない。昔ながらの顧客情報カードや顧客台帳でも、かなりのことができる。卓越した顧客情報システムを持つことでしられたある流通業は、コンピュータを導入する以前から、紙のカードを使って詳細な顧客情報を蓄積し、それを事業に利用する仕組みを確立していた。コンピュータを入れた際は、今までのやり方を機械化するだけで済んだという。
 こうした仕組みは、コンピュータの専門家だけで考えるものではない。ドラッカー氏がいうようにCEOの仕事である。さらに言えば、事業担当役員、中間管理職、現場社員まで、事業にかかわる全員の仕事である。
 CEOつまり経営トップが「こういう会社にしたい」「こういう事業をしたい」「したがってこういう情報が欲しい」と表明する。それを受けて、事業担当役員、中間管理職、現場社員が、それぞれ必要な情報を考えてこそ、企業全体で情報を活用する仕組みが確立できる。

(文・ドラッカーのIT経営論研究グループ)


ドラッカーのIT経営論研究グループ:社会生態学者、ピーター・ドラッカー氏の情報およびITに関する論考を読み解くことを目的とした有志の集まり。主要メンバーは、ドラッカー学会に所属するIT産業関係者である。

注)本稿は以前、ITProにおいて発表されたコラムに加筆したものです。