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 今回の富士通と米サン・マイクロシステムズの新UNIXサーバーには「肩すかし」を食らった。4月17日にニューヨークで発表された SPARC/Solarisサーバー「SPARC Enterprise(開発コード名APL)」が、日本では記者会見なしでリリースされたからだ。富士通やサンのサーバーも扱う大手システムインテグレータの幹部は、事情通らしく、「競合激しいサーバー市場で1年も出荷が遅れたAPL(Advanced Product Line)は、結局、富士通にもサンにも“A Poor Line”に変質してしまった」と、日本で発表イベントを避けた理由を明かす。「APLが予定通りに出荷され、しかもRockの開発が若干遅れたなら、 APLは双方にとってもっと意義あるものとなった」(SIer幹部)。

 富士通の事情はチップ開発にある。富士通には今回の2コアで2.4ギガHzのSPARC64 VI(開発コード名Olympus)と08年の4コアで2.7ギガHzと見られる同VII(Jupiter)の先のロードマップがない。「それを会見で記者から追求されたら答えに窮してしまう」(同)。富士通はサンのCPU開発力を甘く見ていた節があり、16コアで、1コア当たり16あるいは32スレッドとされるRockの開発がうまくいかないだろうと踏んでいた。仮にそうなれば富士通製 SPARC64が長く続くから、もっと先のロードマップを描けたはずである。

 しかし、Rockはサンの開発者たちが「罰としてのネクタイを締めずに済んだ」。つまり予定通り06年12月にテープアウト(設計完了)し、08年後半からサンのサーバーに搭載される見込みである。サンは富士通との提携直前に、05年出荷予定だったUltraSPARC Vの開発を中止し、富士通のSPARC64に任せ、開発リソースをRockにつぎ込んできた。Rockはサンの現行最上位である「UltraSPARC IV+」の16倍という桁外れの性能が見込まれるため、仮に富士通SPARC64 VIIIや同IXがあったとしても敵わない。APL(SPARC Enterprise)は、Rock登場後数年を待たずに命運が尽きる。Jupiter後の富士通は、APL提携時の約束に従いRockを売ることになるはずである。

 一方、UltraSPARC Vを中止し、08年後半のRockにつなぐまでの4年間のブランクを富士通SPARC64に委ねたサンは、06年半ばの出荷予定だったAPLに期待をかけていた。UNIX市場でIBMやHP(ヒューレット・パッカード)に対し劣勢だったからだ。しかし、富士通がAPL用チップセットの開発でつまずいたため、サンは06年1月に遅延を明らかにした。サンは富士通に提携破棄を迫ったとも言われる。

 そのためサンは05年に出したUltraSPARC IV+の再強化を図り、今回のAPL発表の2週間前に2.1ギガHz版を発表した。サンのパートナーによると、UltraSPARC IV+が予想外に日米で売れており、2.1ギガHzが加わった今では、2.4ギガHzのAPLの存在は薄い。UltraSPARC IV+から来年のRockへ直接行けるという。

 高信頼・高性能を武器にPRIMEPOWERで米サン市場に食い込んだ富士通だったが、今回のAPLで米市場から事実上締め出される。同じマシンでの競合は土地勘で不利だからだ。1年遅れたツケは大きく、仲間が敵に変わった。しかも今回のサーバー本体は「販売する地域に近い工場から出荷する」ため、富士通が米市場で販売するSPARC64搭載のAPLはサン(オレゴン工場)から買わねばならない。富士通シーメンスが欧州で売るマシンもサン(英リンリスゴー工場)からだ。逆に日本でサンは富士通の売り上げに貢献することになる。

 米IBMの工場でCPU開発に携わった元日本IBMの技術者は、「戦略をこねる前に、富士通はしっかりサーバーを開発しろ」と苦言を呈する。「IBMにも名が通った唯一のシステムアーキテクトを子会社に出す愚を犯すようでは、トップにサーバー開発のなんたるかが見えていない」と手厳しい。今、富士通の営業は昨年「PRIMEQUESTで行く」と固まった体制の朝令暮改となる「開発費を回収しろ(APLを売れ)」の発動を恐れている。本来は「高い授業料だった」と次の手をめぐらすべきである。