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 ドラッカー氏は自らを「社会生態学者」と定義している。個々の産業や企業について論じるより、社会の変化を見極めることが重要と見ているからである。ただし、『ネクスト・ソサエティ』(上田惇生訳、ダイヤモンド社)の中に収められているインタビュー記事を読むと、ドラッカー氏は個別企業についても面白い意見をあれこれ述べている。今回は米マイクロソフトに関する下りを紹介する。IT経営とはさほど関係がない番外編となるが、マイクロソフトはITを考える上で欠かせない企業である。

 まずドラッカー氏は反トラスト法(独占禁止法)について次のように喝破する。

 「反トラスト法はアメリカの法律家の妄想の産物である。そもそも独占は新規参入者に味方し、新規参入者を支援するだけのものである。しかもあらゆる独占が、放っておいても崩壊する」。

 コンピュータ産業の歴史をひもとき、米IBMのことを思い起こすと、ドラッカー氏の指摘は的を射ている。大型コンピュータ(メインフレーム)市場を独占したIBMは盤石の体制を築いたように見えたが、IBMの独占は、「新規参入者に味方し」、多くの新規参入者が成功を収めた。
 パソコン市場を切り開いたマイクロソフトとインテル、大型コンピュータに換わる高性能コンピュータの市場を創ったサン・マイクロシステムズやオラクルといった企業である。こうしてIBMの独占は「放っておいても崩壊」した。新規参入者に市場を食われたことが一因だが、むしろIBMが自壊した感が強い。
 IBMに次ぐ新規参入者の中で、独占に近い地位を得たのは、マイクロソフトである。今日、パソコンの基本ソフトおよびオフィス関連アプリケーション市場はマイクロソフトが占有している。さらに高性能なサーバーと呼ばれるコンピュータにおいても、基本ソフトやデータベース管理ソフトで大きな市場を獲得している。
 今後はどうなるか。ドラッカー氏の指摘を言い換えれば、「マイクロソフトの独占は新規参入者に味方し、新規参入者を支援するだけのものである。しかもマイクロソフトの独占は、放っておいても崩壊する」となる。
 独占の崩壊は、利益の低下につながる。崩壊を避けるにはどうしたらよいか。ドラッカー氏は、「独占体にとって最善の事態は分割を強要されることだ」と言い切っている。IBMは、古いパンチカード事業を分離してしまえば、もっと早くコンピュータ事業に参入できたという。となると、マイクロソフトは自社をいくつかの企業に分割し、そのかわり新しい事業領域に思い切って参入したほうがよいということになる。
 だがIBMが徹底して独禁法訴訟と闘い、企業分割に反対したように、マイクロソフトも徹底抗戦している。となるとマイクロソフトはIBMと同じ道をたどるのだろうか。話はそう単純ではない。IBMとマイクロソフトには明確な違いが一つあるからだ。
 コンピュータ・メーカーとしてのIBMを“創業”したのは、2代目のトーマス・ワトソン・ジュニアであった。彼はCEOを務めた後、あっさり引退してしまい、それ以降IBMの経営にまったくと言ってよいほど口を出さなかった。ワトソン・ジュニアが引退した後、IBMのCEOは数代にわたって交代した。
 これに対し、マイクロソフトはCEOこそビル・ゲイツからスティーブ・バルマーに代わったが、二人ともマイクロソフトに残っている。つまり創業以来、経営者は交代していない。これがマイクロソフトにとって吉とでるか凶とでるか、筆者は判断できない。ただし、インターネット関連戦略を巡って行われた、劇的と言える事業方針の変更ぶりを見ていると、今のところは吉とでている。

(ドラッカーのIT経営論研究グループ)


ドラッカーのIT経営論研究グループ:社会生態学者、ピーター・ドラッカー氏の情報およびITに関する論考を読み解くことを目的とした有志の集まり。主要メンバーは、ドラッカー学会に所属するIT産業関係者である。

注)本稿は以前、ITProにおいて発表されたコラムに加筆したものです。