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 情報通信に関する話題として、数年おきに繰り返されるテーマに、通信ネットワークの活用がある。要するに、ネットワークが速くなり、太くなり、かつ安価になって、大容量のデータ転送が可能になる、その結果、素晴らしい世界が開ける、という話である。
 ざっと振り返ってみると、ニューメディア、マルチメディア、ブロードバンドといった惹句が使われてきた。最近は、NGN(次世代ネットーワーク)という言い方がされている。名称はともかくとして、ネットワークが速く・太く・安くなること自体は結構だが、その結果、どのような素晴らしい世界が開けるのか。こうした利用者にとっての利点となると、昔からはっきりしない。
 以下に再掲するのは、2003年4月21日に、日経ビジネスEXPRESSに公開した『ブロードバンドを何に使うのか』というコラムである。3年前に開催された勉強会の報告を兼ねて執筆したものだが、「何に使うか」という問題を考える素材として再掲する次第である。


 ブロードバンド(高速大容量)という言葉が一般的に使われるようになって久しい。ネットワークが太く、速くなるという話であるから、これ自体は歓迎すべきことである。しかし、「一体何を送信するのか」という大問題が残っている。
 2003年4月17日、グローバル情報社会研究所が「ブロードバンド時代の経営・教育・遊び革新」と題したフォーラムを開いた。産官学のキーパーソンが集まって、「ブロードバンドを何に使うか」を議論した。興味深い催しであったので、以下にフォーラムの概要を紹介する。
 ブロードバンドの御利益として必ず出てくるのが、「2時間のビデオを数分でダウンロードできます」といった話である。しかし、これはほぼ幻想である。技術的には可能かもしれないが、ビジネスとして現実的ではない。
 既存のテレビ放送ネットワークを使って、デジタルコンテンツを配信する技術を開発したベンチャー企業、米ドットキャスト(Dotcast)のレオ・ホーティ創業者兼CTO(最高技術責任者)はこう指摘する。「コンテンツを持つ映画会社、ビデオ会社、音楽会社は皆、インターネットに否定的だ。だからコンテンツを出さない」。
 そもそもレンタルビデオ店に行けば借りられるものをわざわざダウンロードするか、という問題もある。ビデオ店に行かなくて済むといっても、レンタルビデオより高額であったら、消費者は利用しないだろう。といってレンタルビデオより安くしたら、事業者のほうが儲からない。「消費者にとってもっと便利な形を提供する必要がある」(ホーティ氏)。
 ではブロードバンドを使ったゲームはどうか。オンライン対戦ゲームは、ネットワークを使わないとできない。ところがセガの幹部によると、「ビジネスとして成立させることはなかなか難しい。システムを維持するだけで相当なコストがかかってしまう」と言う。

突破口は企業、NPO、大学などの利用

 つまり個人向けのブロードバンドコンテンツ提供サービスを事業として成立させるのはなかなか難しいわけだ。となると突破口は企業である。グローバル情報社会研究所の藤枝純教社長は、フォーラムに登壇した人たちの意見を基に、「eラーニング、e会議、eマネジメントプロセスに可能性がある」と総括した。
 eラーニングといっても、単に教材を提供するだけでは使われない。「ビジネスプロセスと連動する形で提供する必要がある」(日本イーラーニングコンソシアムの小松秀圀会長)。これは、企業の業務処理をネットワークに載せ、業務に必要な知識や情報も提供するようにすることを意味している。これも長年の懸案であるが、在宅勤務やモバイル勤務を推進するためにも、ブロードバンドは役立つ、との指摘が出ていた。
 個人向けについては、企業の営利事業というより、NPO(非営利組織)の諸活動を支援する形でブロードバンドは使われそうだ。世界の子供をコミュニケートする活動をしているNPO、ワールドスクールネットワークの大前純一事務局長は、「コミュニティー作りやコミュニケーション支援の分野にはブロードバンド利用の可能性がある。子供の手紙を翻訳してくださるのはボランティアの方々だが、ネットワークを介してやり取りするだけで、まだお目にかかっていない人もいる」と発言していた。
 京都大学の美濃導彦総合情報メディアセンター教授も、「米国の大学とブロードバンドで結んで共同授業をしている。その後、学生たちを米国に連れていくと、ブロードバンドの画像で顔見知りになった学生たちがあっという間に交流していた。コミュニケーションの幅を広げる効果がある」と指摘した。

(谷島 宣之=日経コンピュータ副編集長、日経ビジネス編集委員、
ビズテックプロジェクト担当、経営とIT 編集責任者)