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 本サイトに『再考 二〇〇七年問題』というコーナーを設けた。前回に続き、この『経営の情識』コーナーにおいても、2007年問題に関するコラムを掲載する。今回紹介する「UFJ銀と三井住友銀の共同開発は『西暦2007年問題』対策」は、2003年5月19日付で日経ビジネスEXPRESSにて公開された。

 2003年5月15日付日本経済新聞の朝刊1面に、「UFJ銀行と三井住友銀行が口座振替システムを共同開発することで基本合意した」という記事が出た。両行の試みは、情報システムにおける西暦2007年問題の解決策の1つと言える。
 西暦2007年問題とは、長年企業の基幹系システムを開発・保守してきたベテランが引退し、彼らのノウハウが継承されず、基幹系システムの維持が困難になる、というものである。2007年は、団塊の世代の中心である1947年生まれの方々が引退する時期を指すが、それに先だって2007年問題は既に表面化している。その典型例が、UFJ銀とみずほ銀行が2002年に起こした口座振替システムにおけるトラブルであった。筆者の調べによれば、両行ともベテランというより、若手中心のメンバーを登用し、口座振替システムの統合作業を進めた。
 口座振替は昔からある業務で、処理量は非常に多いが処理そのものはそれほど複雑ではない。だが、口座振替データの書式が完全に標準化されておらず、銀行は電力会社や自治体の要求に合わせた個別処理をしている部分が多い。このため、口座振替システムには例外的な処理がたくさんあり、長年保守を手がけ、例外を熟知しているベテランでないと、システムを修正できない状態にある。
 UFJ銀と三井住友銀は口座振替システムを両行で再構築することによって、口座振替のノウハウを若いシステム担当者に伝承しようと考えたのであろう。今、再構築しないと、ますますベテランがいなくなってしまう。
 開発には、日立製作所と日本総合研究所が参加する。システム開発と運用をUFJ銀が日立製作所に、三井住友銀が日本総合研究所にそれぞれ委託しているからである。ただし実際には、日立はさらにUFJ銀の関連システム会社に仕事を委託し、日本総合研究所には三井住友銀の行員が出向している。つまり、両行の関係者が開発することになる。

最新技術の使いこなしが技術者の腕の見せどころ

 ただし両行は、ノウハウ継承が目的とは言っていない。再構築により、口座振替の処理能力を拡充するとともに、最新技術を採用し柔軟に変更できるシステムを作ることが狙いという。また、両行で開発すれば、開発費負担を抑えられる。
 新聞記事の後半では、オープンシステム技術を使う利点が強調されている。日本のメディアの多くは、大型汎用機は古くて閉鎖的で高額で柔軟性がなく、これに対して小型サーバーによるオープンシステムは新しくオープンで安くて柔軟性があると思い込んでいる。
 しかし、情報システム全体の設計の中で、どのコンピューターを使うかは重要な要素であるが、あくまでも1つの要素でしかない。むしろソフトの設計・開発手法の方が、価格や柔軟性に大きな影響を与える。大型汎用機を使ってオープンで柔軟なシステムを作ることもできるし、小型サーバーを使ったオープンシステムにもかかわらずシステム全体としては柔軟性がないものになってしまうこともある。
 今回、両行はJavaと呼ぶ開発言語を使って、システムを作る。銀行の中核業務のシステムをJavaで開発するのは、恐らく初めてではなかろうか。新しい技術を使って、口座振替の大量データをいかにうまくさばくか、両行の技術者たちの腕の見せどころとなる。
 もっとも、実際の口座を管理している勘定系システムは両行とも全く異なるので、恐らく電力会社や自治体の決済データを整理し、口座振替データを作るところまでを共同のシステムで処理すると思われる。例外処理が多い口座振替の仕組みを異なる2行でどう整理するのか。ここも課題と言える。
 西暦2007年問題は銀行に限ったことではない。「最新技術による共同再構築」がこの問題の処方箋になるかどうか。両行の頑張りに期待したい。

 両行はその後、口座振替システムの開発に成功した。このシステムをさらに他行に販売していくという。なお、このコラムを書いた後、片方の銀行のキーパーソンから連絡を頂戴した。「発表文には盛り込みませんでしたが、ご指摘の通り、人を育てることは、大きな狙いの一つです」とのことであった。

(谷島 宣之=日経コンピュータ副編集長、日経ビジネス編集委員、
ビズテックプロジェクト担当、経営とIT新潮流2006編集担当)