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 以下のコラムは日経ビジネスEXPRESSにおいて、2003年7月7日に公開した。3年前のあるニュースをもとに、いいたいことを書いたものである。3年たつとさすがに変化があり、そのニュースに登場した新社長はすでに退任してしまった。しかし、固有名詞や数字を入れ替れば、今日でも通用する内容と思うので、あえて再掲する次第である。


 2003年7月1日にマイクロソフト日本法人の社長に就任したマイケル・ローディング氏の談話が、6月26日付日本経済新聞朝刊に掲載された。記事の見出しは「大型汎用機から『乗り換え』開拓」である。この記事を読んだ筆者は、「10年前にも同じような発言を聞いたなあ」という感想を抱いた。
 ローディング氏が実際にどのように話したのかは分からない。この記事を読む限りでは、「日本の法人市場はレガシー(大型汎用機主体システム)が多く残っている。ウィンドウズなどオープン系のシステムに替えればコストが大幅に減らせる」と述べている。
 「大型汎用コンピューターを切り替えればコストが下がる」というのは、今や死語となった「コンピューターのダウンサイジング」が騒がれた時から常に出てくるセールストークである。
 もう10年以上も前だろう、UNIXという基本ソフトを搭載したコンピューターを作るメーカーたちは、判を押したようにこうした発言を繰り返した。当時も新聞に大きく報道され、「大型コンピューターは時代遅れ」という雰囲気になったものである。
 そういえばマイクロソフトが企業向けの基本ソフトを初めて発売した時には、大型コンピューターはもちろん、UNIX機より安くなる、とアピールしていた。最近、Linuxという基本ソフトをかつぐベンダー各社はマイクロソフトよりも安い、と言っている。恐らくあと何年かすると、また新しい基本ソフトあるいはコンピューターが登場し、「○×はLinuxより安い」という記事が日経新聞をにぎわせるだろう。

アプリケーションソフトの切り替えにカネがかかる

 大型コンピューターをUNIX機あるいはウィンドウズを使ったコンピューターに切り替えればコストは下がる、というのは、半分くらいは真実だが半分は正しくない。
 ハードや周辺機器のリース金額だけを比較すれば、UNIX機やウィンドウズ搭載機の方が確かに安い。データを管理するソフトも大型機より安い。しかしコンピューターの上では、業務を処理するアプリケーションと呼ばれるソフトが動いている。機械だけを交換すればいいわけではなく、大型汎用コンピューター用業務ソフトをUNIXやウィンドウズで動くように書き直す必要がある。
 これにはかなりのコストがかかる。さらに、慎重にテストをしないと切り替え直後にコンピューターが止まってしまいかねない。また、最近はコンピューターを切り替える時に、アプリケーションをERP(統合基幹業務システム)パッケージという出来合いのソフトにする企業が多いが、ここでも案外、コストがかかる。
 以前本欄で書いたように、ERPパッケージの導入にかかる費用、特にコンサルティング費用は、世界中で日本が突出して高い。再リースになっている大型コンピューターをウィンドウズ搭載機に置き換えて得られるコスト削減効果など、コンサルティング費用でたちまち消え失せてしまう。

システム全体をどうするかの方が重要

 以上のようなことを書くと、「あなたは大型コンピューターに固執する守旧派ですか」と言われてしまう。無論そうではない。コンピューターをどう選ぶかより、アプリケーションを含めたシステム全体の設計をどうするか、さらにシステムの前提となる経営戦略や業務改革をどう立案して進めるかの方が、はるかに大事だと考えているのである。
 そこをなおざりにして、大型コンピューターの上にある古い業務アプリケーションを手直しして、多少安いコンピューターに移したとしても、業務改革にはつながらない。
 新しい経営戦略や業務改革を進めるためにERPパッケージが必要という結論になったら、それからおもむろにUNIXでもウィンドウズでもLinuxでも好きな基本ソフトとコンピューターを選べばよい。大型コンピューターを新たに選んでもよい。LinuxやERPパッケージが動くオープン系大型コンピューターもある。
 最後にマイクロソフトに対して、大きなお世話を書く。コンピューターの玄人の中には、「マイクロソフト製品は低品質」と批判する向きがかなりある。ただ、そうはいっても素人にとってみれば、ウィンドウズはLinuxより使いやすい面もあり、一概に断言はできない。ただし、「大型コンピューターから切り替えると安くなります」という毎度のセールストークだけでは顧客は飛びつかないだろう。

(谷島 宣之=日経コンピュータ副編集長、日経ビジネス編集委員、
ビズテックプロジェクト担当、経営とIT新潮流2006編集担当)