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 以下のコラムは、2004年11月4日に、日経ビジネスEXPRESSにて公開したものである。今日においても、似た趣旨の報道がされること少なくないので、あえて再掲する。


 流行語が出ては消えるIT(情報技術)の世界にあって、長生きしている言葉に「オープンシステム」がある。1980年代からこの言葉はあったから、もう20年近く使われているだろう。長寿の理由は、この言葉が明るい印象を与えることと、定義が曖昧であることだ。
 明るいとは変な話だが、オープンなシステムという言葉は確かに開放的な印象を与える。反対語は「クローズドシステム」(閉じたシステム)あるいは「プロプライエタリーシステム」(独自仕様のシステム)であり、どちらも何だか感じが悪い。
 しかも定義があるようでないので、様々な人が自分の都合のいいように、オープンシステムという言葉を使っている。全く異なる意味で使われていることすらある。語感はいいし、勝手に使える。従って長持ちしている、というわけだ。
 新聞は、UNIXあるいはLinuxと呼ばれる基本ソフトを採用したシステムか、マイクロソフトのWindowsを採用したシステムをオープンと呼ぶことが多い。米IBMや富士通、日立製作所、NECといった大手メーカーが開発している大型コンピューター(メーンフレームと呼ぶ)を使ったシステムはオープンとは呼ばない。ただしこの定義も変わりつつある。

日本IBMはスルガ銀から何を受注したのか

 2004年10月19日付の日本経済新聞に「日本IBMがスルガ銀行から次世代基幹システムを受注した」という記事が出ていた。特徴は「オープンシステムを採用したこと」となっている。
 スルガ銀は現在、メーンフレームを使っている。それをUNIXかWindowsを採用したコンピューターに切り替えるという記事かと最初は思った。それならさほどニュースではない。本欄に何回か書いたことだが、メーンフレームを使い続けるか、オープンシステムと呼ばれるコンピューターに切り替えるか、といったことは大した話ではないからだ。
 企業にとって重要なのは、そうしたコンピューターの上で動くアプリケーション(業務)ソフトをどう用意するか、そして時代の変化に合わせてそのアプリケーションをどのように修整していくか、という点である。
 新聞の見出しを読んでこんなことを考えたが、ひょっとしたら何か新しい事実が書いてあるかもしれないと思い、記事をよく読んだ。すると発見があった。この記事におけるオープンシステムの定義は今までと少し違っていたのである。新聞は次のように定義していた。

 「市販のコンピューター部品や基本ソフト、業務ソフトなどを集めて構成したシステム」

 つまり「業務ソフト」まで含んでいる。記事本文にも「預金や住宅ローンなど商品ごとに市販のソフトを組み合わせて設計するオープンシステムを採用した」とある。もっとも市販のコンピューターや基本ソフトで動く、預金や住宅ローンの市販ソフトが日本にそれほどあるとは思えないので、日本IBMが用意したソフト部品を組み上げる手法を採用するのであろう。
 新聞記事が出た翌日の10月20日、日本IBMはスルガ銀の案件を「ご参考資料」として発表した。それを読んで面白かったのは、スルガ銀はIBMメーンフレームを採用すると書いてあったことである。従来の定義であったら、新聞は、スルガ銀の事例をオープンシステムとは書かなかっただろう。

結局、オープンとは何か

 大事なことは、ユーザー、つまりコンピューターを買う顧客にとっての利便性の観点からオープンを定義することである。大抵のユーザーは複数のシステムを持っている。あるシステムがオープンかどうかは大きく言って次の2点で決まる。
 1つはアプリケーションソフトをシステム間で移動できること。あるシステムの上で動かしていたアプリケーションを別のシステムの上で動かすことができれば何かと便利である。
 もう1つは、あるシステムと別のシステムとの間で簡単に会話ができること。会話とは曖昧な表現だが、あるシステムのデータを別のシステムに送信したり、あるシステムに入っているデータを別のシステムから利用できることを指す。
 この2つが実現できれば、ユーザーにとって利便性が高まる。大昔、異なるコンピューターメーカーのメーンフレームでシステムを作ってしまうと、システム同士でアプリケーションを移動できなかったし、会話をさせるだけでも一苦労であった。
 こう見てくると、オープンかどうかは、ほかのシステムとの関係で決まるわけで、1つのコンピューターをつかまえて「これはオープンだ」「いや違う」というものではない。例えばメーンフレームの上でLinuxという基本ソフトを動かし、ほかのLinux搭載コンピューター上のソフトを移動できたり、Linuxを通じてお互いに会話ができれば、そのメーンフレームはオープンということになる。
 コンピューターを売り込みにやってきた営業担当者が「うちの提案はオープンシステムだからいいですよ」と言った時は、何がオープンなのか、何がメリットなのか、よくよく聞いた方がいい。もし「オープンシステムだから安くなります」と言ったとすると、それはオープンだからではなく、そもそも提案自体が安いのである。

(谷島 宣之=日経コンピュータ副編集長、日経ビジネス編集委員、
ビズテックプロジェクト担当、経営とIT 編集責任者)