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 前回から、コンピューターを使った銀行のサービスについて書いたコラムを再掲している。経営やビジネスと情報システムの関連を議論する上で、銀行サービスは非常によい題材と考えているからだ。多くの人が使っているサービスであり、情報システムに問題が起きてサービスが提供できなくなると、多くの利用者に影響を与える。といって銀行サービスのビジネスモデルは今ひとつ明確ではない。監督官庁、利用者、IT産業といった関係者は皆、銀行の情報システムについて一家言持っている。
 日経ビジネスEXPRESS(現・日経ビジネスオンライン)というサイトで連載してきた『経営の情識』の中から今回、2002年10月21日に公開したコラム『金融当局の情報システムへの無理解ぶりは目に余る』を再掲する。4年前に書いたものなので、題材は「無利子決済用預金」とか「新証券税制」など古い。ただ、こうした単語を最新の金融業界用語に差し替えれば、2006年においても通じる記事になるのはないかと思っている。


 金融庁や財務省の幹部たちは情報システムについてもう少し勉強したほうがよいのではないか。彼らは金融の専門家であり、金融問題の解決策を考え抜けばそれでいいのだが、昨今の動きを見ていると、金融当局は情報システムのことを知らなさすぎる。
 昨今の動きとは、ペイオフ(預金などの払戻保証額を元本1000万円とその利息までとする措置)解禁と、新証券税制を巡るどたばたである。筆者は金融担当の記者ではないので、本来あるべきペイオフ解禁の時期とやり方や、理想的な証券税制がどのようなものかは分からない。ここでは、これまでの方針を相次いで見直している金融庁と財務省が、方針の変更が銀行や証券会社の情報システムに与える影響について無頓着すぎる点を指摘したい。

新預金導入は取引先も巻き込む膨大な作業に

 金融担当相が交代した結果、ペイオフの全面解禁は2005年4月に延期となった。ただし2005年4月以降も無利子の決済用預金については全額保護を続ける。この決済用預金は、この8月になって金融庁が導入の検討を始めたものだ。8月初旬に金融庁は、普通預金や当座預金とは別に、無利子の新預金を新設する方針を打ち出していた。
 勘定科目を新設し、全く新しい預金を作るとなると、情報システムの担当者にとっては、ものすごい作業量になる。これは銀行だけではなく、銀行と取引がある他の企業にも影響が及ぶ。まず、勘定系と呼ぶ預金や為替を処理する情報システムに、新しい預金を処理する仕組みをつけ加えなければならない。新しい通帳も必要になるだろう。次に、銀行間の資金決済を処理している「全国銀行データ通信システム(全銀システム)」を新預金を処理できるように修正する。ATM(現金自動預け払い機)に新預金を処理する画面を表示しなければならないから、ATM用のプログラムも直す。
 さらに預金者が公共料金などの引き落としに新預金を使う場合、電力会社などに対して口座の変更手続きを取る必要がある。これを受け、電力会社は新しい口座番号などを入力した口座引き落とし用の磁気テープを作って銀行に送る。以上の一連の修整が正しいかどうか、銀行はもちろん、電力会社など銀行の取引先を巻き込んだ入念なテストが欠かせない。
 しかも、2002年8月18日付の日本経済新聞によれば、金融庁は当初、すべての金融機関に新預金を一斉導入するよう、要請するつもりだった。すべての金融機関が以上のような新預金のシステム開発を始めたとしたら、さぞや壮観であったろう。日本はおろか、インドや中国のシステム技術者を総動員しても手が足りなかったに違いない。