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■日経BPガバメントテクノロジーと東京コンサルティングが共同で実施した「第2回 自治体の情報システムに関する実態調査」(2006年11月発表)で格付け「AAA」を獲得した岩手県奥州市。2005年に実施した第1回調査でも、合併前の旧水沢市が格付けAAAを獲得している。市町村合併後も情報システムのレベルを維持できた理由は、「一番優れている自治体(水沢市)のレベルに合わせる」という“筋”を通したことにありそうだ。(本間 康裕)

各団体の推進体制を調査、新市では先進的な仕組みを採用

佐藤勝己氏
奥州市総合政策部
情報政策課
情報システム係長
佐藤 勝己氏

 奥州市は、岩手県の南部に位置する人口13万人の市である。2006年2月20日、水沢市、江刺市、前沢町、胆沢町、衣川村など2市2町1村が合併して誕生した。奥州市では、合併に当たって「電子自治体へ向けた推進体制」「電子自治体推進計画」「ホームページの開設状況(掲載内容)」「行政手続きのオンライン化等の実施状況」「情報セキュリティ対策」について、5団体それぞれの現状レベルを洗い出した。その結果、いずれも水沢市のレベルが最も高いことが分かった。

 そこで、情報化の仕組みや体制については「水沢市の水準を下回らないようにするということで意思統一が図られた」(奥州市総合政策部情報政策課の佐藤勝己情報システム係長)。単に「水沢市が大きい市だから」ということではなく、きちんと調査を実施した上で方針を決定したことで、合併前の各団体の情報政策担当者としては納得せざるを得ない形を採ったのである。

 例えば、奥州市においてシステム導入案件のチェックをする役割を果たす「情報化推進委員会」は、水沢市の制度を引き継いだものだ。情報政策課が属する総合政策部の部長が委員長で、システムの新規導入や部分刷新などの案件は、必ず委員会の承認を得る必要がある。

 現場でのLANやパソコンへのアクセス管理も、水沢市の制度を踏襲した。職員1人1人にIDとパスワードを発行しているが、情報の管理責任者に対して操作者として届け出のないIDでは、システムにアクセスできないようになっている。住民記録関係のデータにアクセスする場合は市民課長、税務関係の場合は税務課長に届け出て、許可を得る必要がある。また合併して奥州市になった際に、非接触ICカードを導入。庁内のLANにアクセスする際に、このカードでの認証が必要になり、セキュリティの強度がアップした。

 電子自治体推進の面では、住民基本台帳カード(住基カード)利用の促進策に、水沢市時代からから引き続いて熱心に取り組んでいる。奥州市では現在、住基カードで、証明書の発行などに加えて、インターネットやKIOSK端末を利用して、保健検診の結果照会、公共施設の予約、図書の検索予約、病院の再来予約などが可能だ。昨年12月には、住民基本台帳カードと静脈認証を組み合わせたシステムを使用して、小学校の登下校通知システムの実証実験を実施した。

 また市内の民間企業と提携して、45カ所の店舗やホテルで、同市で発行した住基カードの提示者に買い物代金の割引などの特典を提供する実証実験を、昨年8月5日から今年3月31日まで実施した。現在は一時休止中だが、7月にも再開の見込みだ。「これまでは水沢駅周辺の商店が中心だったが、もっと広い範囲で利用できるような形を検討している」(佐藤係長)という。

5人の首長を動かし、カスタマイズなしでパッケージ導入

 奥州市の合併協議会は、2005年1月に結成された。約1年間という超特急での情報システム統合作業となったが、綱渡りで成功させた。2005年3月にスタートしたシステム統合作業でも、水沢市の存在感は大きかった。協議会の下に情報システムの統合に専念する「情報システム統合班」を置き、リーダーは、水沢市と江刺市から1人ずつ選んだ(図1)。その下に置いた住民情報、税情報、財務会計など業務単位のプロジェクトチームでも、水沢市からは9人が参加し、唯一全チームに職員を派遣。その他江刺市から5人、前沢町、胆沢町から3人ずつ計22人が参画した(注1)

(注1)合併後の混乱を避けるために、2007年3月いっぱいまでは、この情報システム統合班の担当者が、そのシステムを利用する部署にほぼそのまま配属された。

■図1 情報システム統合のための検討組織
情報システム統合のための検討組織

 情報システム統合班は、週に何回も各役所から集まっては、統合へ向けて打ち合わせを繰り返した。短期間で導入を完了できたのは、ほとんどカスタマイズを施さずに、パッケージソフトを導入したことが大きい。カスタマイズを施さず業務の方をソフトに合わせることを、合併協議会の首長会議で承認してもらった。

 担当者レベルで構成する「情報システム統合班」で意見をまとめ、課長クラスがメンバーの「電算専門部会」が首長に働きかけて実現したものだ。「現実にカスタマイズ作業に割く時間がほとんどない点と、将来の法制度改正などに対応する費用が少なくて済むなど合併後の負担の軽減にもなる点をアピールした。統合班以外の職員の抵抗はかなりあったが、合併する5自治体の首長が承認したことで何とか押し切れた」(佐藤係長)。

 ちなみに、奥州市が採用した新システムは、富士通のWebベースのシステムである。システム構築事業者は富士通、管理は胆江農業管理センターに委託している。新システムの構築にかかった費用は17億円、帳票類の印刷費用などを含めた年間の委託コストは3億円である。

 富士通は、水沢市が合併前まで使用していたクライアント・サーバー方式のシステムを構築・運用していた。奥州市では、合併前に先進自治体として知られていた旧水沢市のシステムの機能を向上させたWeb対応版が選ばれたわけだが、それはプロポーザルを実施した結果である。合併協議会で規定した「電算システム統合基本計画書」で、合併するどちらかの団体で採用しているシステムに片寄せする集約型の採用が決まっていたので、関係しているベンダー各社に声をかけてプロポーザルを実施した。

 プロポーザルには、富士通、NEC、地元ベンダーのアイシーエスの3社が応札。「コストや機能面、メンテナンス拠点が近くにあるか、などを総合的に評価した結果、富士通のWebベースのシステムを選んだ」(佐藤係長)という。

 奥州市では、公募した民間人も参加している情報化計画策定委員会で策定作業を進め、2007年5月に「奥州市情報化計画」を策定した。光ファイバーを活用したブロードバンドサービスの提供やテレビ難視聴の解消、庁舎や各施設の電話システムのIP電話化など、意欲的な内容となっている。