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 日経ビジネスEXPRESS(現・日経ビジネスオンライン)というサイトに、2006年2月10日に掲載した、『情報システム担当エンジニアを認知して下さいますようお願い申し上げます』を再掲する。


 企業や団体が利用しているコンピューターシステムの背後には、多数のエンジニアがおり、昼夜を問わず働いている。システム全体の構造を設計するエンジニア、コンピューターを利用する顧客の希望を聞きシステムで処理すべき事項を整理するエンジニア、コンピューターに指示を与えるプログラムを開発するエンジニア、コンピューターを動かすオペレーション業務を担当するエンジニア、といった具合である。

 彼ら彼女らはかつてシステムズエンジニア(SE)と呼ばれた。筆者は今でもこの名称が、実際の仕事の内容を的確に表現していると思っている。しかし、SEという言葉はだんだん流行らなくなり、ついにはこの言葉を作った米IBMですら、社内からSEという職制をなくしてしまった。

 SEの代わりに現在は、IT(情報技術)プロフェッショナルあるいはITエンジニアといった呼び名が使われるようになった。正直言って、この呼び名はいま一つと思う。システムという一番重要な概念が抜け落ちているからだ。エンジニアである以上、専門性は不可欠だが、個別技術の専門家だけではシステムを作れない。

マスメディアはSEの存在を知っているのか?

 名称はともかくとして、昔から変わらないことが1つある。コンピューターシステムを支えているエンジニアの仕事が社会的にほとんど認知されていない、ということだ。もっと厳しく言うと、コンピューターにかかわるエンジニアの存在自体が認知されていない。

 その証左の一例はマスメディアの報道である。東京証券取引所のコンピューターシステムを巡るトラブルについて、テレビ、新聞、週刊誌は連日書き立てている。この原稿を書いている2006年2月8日の夜、筆者はある週刊誌を買って読んだ。この週刊誌は3ページを費やして、東証のコンピューターシステムはダメな代物だと指弾していた。新聞もテレビも、おおよそこれと同じ論調である。

 確かに、2005年11月から今年にかけて、東証はコンピューターシステムに関する大きな問題を3回起こした。今、証券会社各社に聞くと、「以前から処理速度をはじめ、改善要求を東証に出していたが、聞き入れてもらえなかった」と回答する。これでは「東証のシステムはどうなっているのか」と疑問視されても仕方がない。

 しかし2005年11月より以前のことを思い出してみると、東証のシステムがしょっちゅう故障していたわけではない。マスメディアが酷評するほどダメなシステムであれば、取引停止をもっと多く起こしていただろう。マスメディアはニューヨーク証券取引所のシステムを褒め称えているが、そのシステムも時には止まる。一概に「東証のシステムはダメ」と決めつけることはできない。

 あれだけ東証のシステムについて報道されていながら、テレビも新聞も週刊誌も、コンピューターシステムを担当するエンジニアたちの存在には触れない。恐らく、企業や団体を支えるシステムの背後に膨大なエンジニアが働いていることを知らないのだろう。コンピューターシステムは富士通や日立製作所といった大メーカーの工場で作られ、それが東証に納品されている、といった具合に考えているのではないか。