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(撮影:中島正之)

 日本経済新聞は4月19日、「日本郵政公社は、10月の民営化で発足する『郵便局会社』の顧客情報管理システムの開発・構築・運営を米企業に一括して外部委託する」と第一面で報じた。郵政公社は、米セールスフォース・ドットコム社のソフトウエアをネットワーク経由で“借りる”。郵政公社はソフトウエアもシステムも所有せず、顧客情報をセールスフォース社の米国コンピューターセンターに格納する。
 こうしたアプローチを、IT(情報技術)リサーチ世界最大手の米ガートナーは「SaaS(ソフトウエア・アズ・ア・サービス)」と呼ぶ。ソフトウエアを購入するのではなく、使用料を支払ってサービスとして利用するという意味だ(SaaSについては「今日の言葉」参照)。
 日本最大級のSaaS利用を決めた郵政公社のCIO(最高情報責任者)の吉本和彦理事(写真左)とガートナー日本法人の日高信彦社長(写真右)が、郵政公社の情報化戦略とビジネスモデル、ビジネスに貢献するITのあり方、CIOのあるべき姿まで語り合った。


日高:郵便局の顧客情報管理システムをSaaS方式で調達するというニュースは、大変な話題になりました。SaaSという点もさることながら、まず新しい情報システムを採用し、それを使って仕事を変え、社員の方々の意識まで変えていくアプローチとお見受けしました。

吉本:企業変革というのは本来、最初に意識改革があり、それから仕事の仕組みを変え、その仕組みに合った新しい情報システムが整備されていくという流れになるかと思います。これまで郵政公社を牽引してきた経営陣、民営化の準備を進めている日本郵政の新しい経営陣、ともに一生懸命、意識改革をやってきましたし、今もやっています。

 ただし、郵政公社には26万人の職員がおり、2万4600箇所の郵便局を擁しています。26万人の会社を変えるというのはもの凄いエネルギーが必要です。さらに「ゆうメイト」という非常勤職員が12万人おりますから、合わせると38万人、本当に大変な規模です。2007年10月の民営化に伴って4社に分割しますが、ざっと申し上げると、郵便について10万人、郵便局会社が12万人、貯金銀行が1万人、郵便保険が5000人というようになります。

 しかも郵政公社は4年間で民営化します。NTTの場合、10年間かけて民営化していったわけです。郵政公社の場合、非常に期間が短い。この中で働いている人の意識を変え、スピードのある変革をやっていかなければなりません。

システムを変え、意識を変える

 CIOであるわたしの仕事は、4社の今後を支える情報システムを整備することですが、わたしの方から提案しているのは、情報システムを先に変え、それによって仕事と人の意識を変えてしまおうということです。意識改革は重要ですが、それだけでは26万人に浸透するまでかなりの時間がかかる。そこで通常の流れとは逆に、システムから変えてしまうやり方を併用する必要があるのではないかということです。

 10月からは、民間企業として営業活動をし、お客様の情報をしっかり管理していかなければならない。営業改革が必要です。世の中には、営業担当者の活動を支援するSFA(セールスフォースオートメーション)とか、顧客情報を管理するCRM(カスタマーリレーションシップマネジメント)と呼ばれるツールがすでにありますから、これらをそっくり取り入れ、民間企業の営業を知らない人に、「ツールにそってやれば民間の営業ができる」というやり方で、意識改革と営業改革をしていくほうが手っ取り早いと思うのです。そこで今回は、米セールスフォースのSFA/CRMを採用することとなりました。

日高:SaaSの利点は、ある程度評価の定まったビジネスプロセスとソフトウエアを素早く利用できる、情報システムの運営を外部企業に任せてしまえる、といったことです。ただし、今回の場合、システムの運営も顧客情報の保管も、米国企業に委ねるわけで、その点について不安や反対意見は無かったのですか。

吉本:郵政公社の経営陣には、このアプローチが経営にもたらすメリットとリスクを両方説明しました。確かに自分のセンターにあるコンピューターを使わないことによるリスクはあります。ただ、顧客情報管理システムというものは万一、止まってしまったとしても、仕事はそのまま続けられます。システムが復旧してから顧客情報を入れればいいわけですから。つまり、ATM(現金自動預け払い機)を使う郵便貯金のシステムとは性格が異なる。ATMは止まったら顧客にご迷惑をかけますので、こうしたクリティカルなシステムはこれまで通り、自前のセンターでしっかり運用する必要があります。当然ながら、FISC(金融情報システムセンター)の安全対策基準に適合しています。