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Q 自分が期待した反応が相手から出てこないと,相手を強く非難したい気持ちや怒りの気持ちが湧いてきます。こうした気持ちになることが嫌で,直接人と話すのを避けるようになりました。仕事はきちんとやっており特に問題はないのですが,このままでいいのか心配です。 (31歳,男,システム・エンジニア)

 人付き合いが苦手,というITエンジニアは多いようです。その1つのパターンが質問者のように「怒りの感情」が押さえられない,というものです。この「怒りの感情」はどうして生まれるのでしょうか?

 実は人の感情は,心理学的には「期待との関係」で生まれています。例えば「不安」は,期待していることが実現できないのではないかと思った時の,「悲しみ」は期待していたことを完全に失ってしまいもう戻らなくなった時の感情です。そして「怒り」は,当然期待していることが手に入らなかった時の感情です。怒りっぽい人の心の中には,「当然だろう」とか「常識だろう」といった思惑が隠されているのです。

 期待には「相手に向けるもの」と,「自分に向けるもの」の2種類があります。もし,あなたが開発のアイディアがどんどん湧き,仕事をスピーディにできるタイプなら,「相手の発想が貧困でぐずぐずしている」と考えて,相手に対して怒りの感情が生まれてくるでしょう。あなたの心の中には,「このくらいできて当たり前だ」という期待があるからです。

 逆にあなた自身が自分に対して「このくらいできて当然じゃないか」といった期待を持ち,それが達成されない時は,自分自身に対して怒り,あるいは焦りの感情が生まれてきます。そして自分に向けた怒りや焦りは,気付かぬうちに,人に向けてしまうことが多いものです。

 本来,感情そのものは危険なものではありません。ところが,これを抑圧すると形を変えてエネルギーが増していきます。

 とりわけ,怒りの感情はやっかいです。無理に押し殺すと,他の感情も閉じこめてしまい,人とのコミュニケーションがぎこちなくなります。そして必ずと言っていいほど,何かの形で「キレ」てしまいます。怒りを相手にぶつければ当然,関係は悪くなってしまいます。あなたもそれを心配しているのではないでしょうか。

 感情は抑制せずに,自分で認めた上で,うまく表現することが大切です。相手を傷付けずに自分の気持ちを素直に表現するコミュニケーションのことを,心理学用語でアサーション(assertion)と呼びます。

 アサーションを実現するには,まず自分の気持ちに気付く必要があります。自分の気持ちに気付いたら,それを素直に表現します。その場合,「おまえは何でちゃんとやらないのか」,「君は何でもっと早くできないのか!」と相手を主語にしてはいけません。そして,怒りの感情の背後にある相手への自分の期待を見付ける工夫をします。そのためには,主語として「私は」とはっきり言うことです。「私は,本当はあなたにこうして欲しい」,「私は,明日までにこれをやって欲しい」といった調子です。自分の気持ちをはっきり言うことで,相手を非難したり,傷つけたりすることがなくなります。あなたも,こうしたことを心掛けながら,人とのコミュニケーションに努めてみてください。

武藤清栄 東京メンタルヘルスアカデミー所長
1974年東洋大学社会学部卒,76年国立公衆衛生院(現国立保健医療科学院)衛生教育学科卒。民間相談機関の「心とからだの相談センター」主任カウンセラー,サンシャイン医学教育研究所,秋元病院精神科カウンセラーを経て,現在に至る。関東心理相談員会会長。日本精神保健社会学会副会長。著書に「雑談力」,「号泣力」(いずれも明日香出版社),「本音力」(ロゼッタストーン)など