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 今回もまた、ITproサイトの読者から送られてきたご意見を紹介し、筆者の応答文を付記する。


ノウハウの棚卸し
   企業の情報システムの中には企業のノウハウが詰まっている。特に日本の企業の情報システムはお手製のシステムが多く、それぞれに企業運営のノウハウがまとまっていることが多い。ただし、こうしたノウハウの大半は、情報化を機会に現場から消えてしまう傾向にあるのではないだろうか?
 だから、塩漬けになっているホストコンピュータの中には、何億円分もの企業の財産が詰まっている。これは、こういったシステムを構築できなかった欧米にはない特徴であるし、うまく使えれば、日本の強みになるだろう。
 一度、各企業で経済性を棚上げにして、そういったノウハウをリバースエンジニアリングで棚卸をしたらどうだろうか。その上で、新時代に即した新しい企業インフラを構築していけば良い。その方が、安易なパッケージ・ソフトの導入より余程、企業活力に磨きがかかるように私は思う。

 確かに、企業が長年にわたって構築し、運用してきた情報システムには、仕事のやり方や手順、業務規則が反映されている。既存の情報システムの中身を引き出してみることは意義深い。問題は、経営者から「棚卸しをしてどうなるのか」と問われた時に、どう答えるかである。

 読者が指摘している通り、「経済性を棚上げ」にできればいいが、なかなかそうはいかない。情報システムを全面刷新するプロジェクトの一環として、棚卸しをすることはできようが、こうしたプロジェクトはリスクが大きく、実施に向けた経営判断がなかなかできない。


無責任SEの排除
   コード(プログラム)を書いているのではなく、業務を作っているのだと言う責任感と緊張感が、分業化された今の世代には足りない。新システムを動かす時に、業務が止まってしまうトラブルに見舞われていても、顧客のコンピュータールームで笑って作業ができるような危機感のないSE(システムズ・エンジニア)が多い。実は今、そうした状況に直面しており、リアルタイムで本意見を書いて送っている。西暦2007年問題は、こういう種類の人間を減らす努力をすればよいだけだ。

 この読者の方が、IT産業の顧客となるいわゆるユーザー企業に所属しているのか、IT産業側に所属しているのか、はっきりとは分からないが、「顧客の」と書いておられるので、IT産業側の方である可能性が大きい。

 かつては、情報システムを構築することにより、人員削減など明確な省力効果を上げられた。このため、システムを作ることは、新しい業務を作ることであった。また、当時はシステムの適用範囲はそれほど広くなく、開発プロジェクト全体を見渡し、要件定義から設計、コーディング、テスト、データ整備といった全作業を一人のSEが受け持つことができた。その後のシステム大規模化に伴い、プロジェクトを分割したり、作業を分担するようになり、一人が担当する仕事の専門性は高まった反面、範囲は狭くなってしまった。

 「こういう種類の人間を減らす努力をすればよいだけ」とある。「コード(プログラム)を書いている」だけではなく、「業務を作っている」という責任感と緊張感を持ってもらうにはどうすればよいか。鶏が先か卵が先かという話になるが、顧客であるユーザー企業がまず責任感と緊張感を持ち、こうしたSEたちに「業務を作って欲しい」と頼むことではないだろうか。これは経営者の仕事である。


ベテランの価値
  1957 年生まれのSE(システムズ・エンジニア)です。2007年に退職する事を決めています。私が所属している企業においては、50歳を過ぎると減給になります。それなりのノウハウを持っている人材に対するそうした仕打ちを見ていると、とても60歳までは勤務できません。情報システム構築は、職人仕事的な要素が大きいと思っていますが、そういう価値を認めないのが昨今の傾向ではないでしょうか。個人のノウハウをどの様に後の世代に伝えるか、と真剣に考えるのもあほらしくなります。ヒューマンリソースマネジメント(HRM)が脚光を浴びているようですし、そう心配する必要は無いでしょう。

 少し前に、ドラッカーのIT経営論の中で、ピーター・ドラッカー氏の「ベテランを追い出してはいけない」という意見を紹介した。残念ながら、この読者が勤務されているような、人事政策をとっているIT企業は案外、業績がよかったりする。

 今のIT産業界には、ノウハウに基づく成果物に対価を支払う商慣行がない。顧客は、作業時間に時間単価を積算して対価を支払う。IT企業としては、人件費が安い若者を常時、顧客の開発現場に送り込み、社員の稼働率を高めることばかりに注力するのである。


(応答文:谷島 宣之=日経コンピュータ副編集長、日経ビジネス編集委員、
ビズテックプロジェクト担当、経営とIT 編集責任者)