PR

 IP電話の音声パケットの中身は,短く区切った音声データだ。話したままの音声を相手に伝えるには,音声パケットを一定間隔で確実に相手に届ける必要がある。

 しかし,もともとIPネットワークは,パケットを確実に相手に届けるようにはできていない。このため,「帯域に余裕があるからといって対策なしにIP電話を導入すると,トラブルに巻き込まれるケースがある」(NEC UNIVERGEシステム本部の秋田 邦彦共通システム部長)。電話がかからなくなるわけではないが,使い勝手を確保するために可能な範囲で対策をとるべきだろう。

遅延,揺らぎ,損失を押さえ込む

 IPネットワークの音声パケットの扱いで問題になるのは,(1)パケット転送の遅れ(遅延),(2)受信側での到着間隔のばらつき(揺らぎ),(3)転送中のパケットの損失(ロス)──の三つだ(図4-1)。遅延が大きいと相手と会話しづらくなる。揺らぎやロスは音声の途切れなどの原因になる。IP電話システムでは,この三つの要素を一定の水準内に収める必要がある。

図4-1●IP電話のパケットは特別扱いしないと不具合が起こる
図4-1●IP電話のパケットは特別扱いしないと不具合が起こる
IP電話の音声パケットは,相手に届くのが大きく遅れたり,途中でなくなったりするとすぐに音質に響く。上位プロトコルでリカバリする音声以外のパケットと大きく違う。
[画像のクリックで拡大表示]

 遅れや揺らぎ,ロスが発生するのは,IP電話の音声パケットの転送をほかのパケットが邪魔をするからだ。

 LAN内では,パソコンが通信相手を探したり,自分の存在をサーバーに知らせるときに使うブロードキャストが,音声パケットの通信の障害になる(図4-1のA)。

 WANへ出る部分にあるルーターやLANの中核にあるLANスイッチでは,ファイル転送などのアプリケーションが音声パケットの邪魔をする(同B)。WAN回線につながるルーターなどにパケットが溜まり,送り出すのに時間がかかったり,最悪の場合は溜めきれずにパケットを捨てたりするからだ。IP電話の同時通話が増えると,音声パケット同士が妨害し合うこともある。

制限し,区別し,優先する

 音声パケットがスムーズに流れるようにするには,音声パケットを十分転送できる帯域を備えたIP電話専用のネットワークを作ればいい。これは,IP電話サービスを提供する事業者の多くが採用している方法だ。企業でも,「信頼性を重視する大企業では,LAN,WANの両方ともIP電話専用のネットワークを整備するケースがある」(沖電気工業 IPシステムカンパニーIPシステム本部の丸井 武士IPソリューション部長)という。

 ただし,ネットワークを分離するには費用がかかる。そこでベンダーやインテグレータが勧めるのは,(1)帯域に合わせてIP電話の音声チャネルを絞り,(2)VLANでIP電話のLANを論理的に分け,(3)優先制御で音声パケットを優先的に処理する──という三つの対策を併用することだ(図4-2)。

図4-2●音声パケットがスムーズに流れるように工夫する
図4-2●音声パケットがスムーズに流れるように工夫する
音声以外にじゃまされないようにすれば,音の途切れや音質の低下といったトラブルは減らせる。WANでは同時通話数を制限して帯域を食いつぶさないようにする。
[画像のクリックで拡大表示]

 (1)の音声チャネルを絞るという対策は,帯域が狭いWANをまたがる通話の音声パケットを守るのに特に有効である。「帯域が狭いADSL回線であっても,音声を1チャネルに制限すれば問題はあまり発生しなくなる」(沖電気の丸井部長)。

 チャネルを絞る簡単な方法は,設置するIP電話機の台数を制限すること。例えばIP電話機を1台しか置かなければ,音声チャネルは1チャネルに制限される。しかし,大きな拠点だとこの手は使えない。その場合は,「WANの帯域に合わせて同時通話を制限するようSIPサーバーを設定する」(日本アバイアの佐野 龍也システムエンジニアリング部長)。

VLANと優先制御でIP電話を区別

 (2)のVLANを使う方法は,パソコンからのブロードキャスト・パケットがIP電話機に届いて,音声パケットの転送の邪魔になるのを防ぐ。パソコンでソフト・フォンを使っていない限り,パソコンとIP電話機が通信することはないので,VLANを分ければ影響を受けずに済む

 IP電話のパケットとそれ以外のパケットが混在するLANのバックボーンやWANでは,できる限り(3)の優先制御を使って,IP電話のパケットを先に送り出すようLANスイッチやルーターを設定しよう。WANでもIP-VPNや広域イーサネットであれば,オプションで優先制御機能が提供されていることが多い。IP電話機の中には,LANスイッチ機能を内蔵してパソコンをつなぐようになっているものがある。このタイプのIP電話機を使うときも優先制御機能を活用するとよい。

 ただし,すべての区間で優先制御が使えるとは限らない。例えばWANで優先制御機能が提供されない場合もある。こうしたケースでは,IP電話の同時通話数を調整しながら様子を見るのが現実的だろう。問題が発生するなら,帯域管理機能を持った製品を導入して,IP電話以外の通信量を制限するといった対策を考えればよい。