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本記事は日経コンピュータの連載をほぼそのまま再掲したものです。初出から数年が経過しており現在とは状況が異なりますが、この記事で焦点を当てたITマネジメントの本質は今でも変わりません。

「プロジェクトの進め方を革新するプロジェクト」に取り組む大手製造業系システム・インテグレータA社は具体的な改革案の策定に入った。過去のプロジェクトの実態調査などから,問題点を6点に整理。これらの問題点を解決する改革案の骨子として,「プロジェクト定義の精度向上」,「管理作業の透過性を増す」,「知識やノウハウの共有」,「機能別組織への移行」,「運用業務の明確化と合理化」という五つをまとめた。

林 衛(はやし まもる)
アイ・ティ・イノベーション 代表取締役

 「プロジェクトの実態調査の結果は,事前にプロジェクト革新検討会で抽出しておいた問題点とほぼ一緒でしたね。ただし,ある程度予想はしていたとはいえ,プロジェクトの上流工程にこれほど問題が集中していたとは,やはり驚きでした」。

 「問題点は人や組織に関するものばかりで,マネジメントの問題に尽きるという感じです。我々は技術面に気をとられがちですが,いくら技術を追求しても,マネジメント力を高めない限り,プロジェクトをうまく進められないと実感しました。しかし,マネジメント力の改善となるとこれまた大きなテーマでどこから手を付けていくべきか悩ましいところです」。

 これらは,「プロジェクトの進め方を革新するプロジェクト」を実施しているシステム・インテグレータA社のプロジェクト革新検討会の参加メンバーの間でかわされたやり取りである。

 本連載で筆者は,プロジェクトをうまくこなせる企業に脱皮するには,過去のプロジェクトを調査し,改善策を考えるプロジェクトを実施すべき」と繰り返し提唱している。その具体例として,第3回からA社のケーススタディを報告してきた。

 A社で改革意欲を持つ有志が集まってプロジェクト革新検討会を結成。参加メンバーがフリー・ディスカッションをして,プロジェクトの進め方の問題点を洗い出した(第3回を参照)。さらに,過去のプロジェクトの担当者にアンケート用紙を渡し,プロジェクトの問題点を書き出してもらうやり方で,プロジェクトの実態調査を実施した(第4回を参照)。

 こうしたやり方をとった理由の一つは,革新検討会に参加しているメンバーに加え,A社の開発現場全体にも,問題意識を強く持ってもらうためであった。一部のメンバーで議論した内容を基に,トップダウンで「こうしろ」と命令しても,現場が納得して動かない限り,プロジェクトのやり方を改革することはできない。

 もともと,開発現場もプロジェクトの進め方について,「このままではいけない」という問題意識は必ず抱いている。ただ,現場の仕事に追われていて,そこからもう一歩踏み出すには至らないだけなのである。実態調査結果を見せることで,A社の現場の問題意識は以前より鋭くなったはずだ。

問題点を6点に集約

 プロジェクト革新検討会がまとめたプロジェクトの課題と,実態調査結果を踏まえて,いよいよA社はプロジェクト革新のための改革案をまとめることになった。

 まず,A社は自社のプロジェクトの問題点を図1のように整理した。図1に示した六つの問題点のうち,五つはプロジェクト革新検討会がまとめたものである。プロジェクトの実態調査でこの五つが裏付けられた。

図1●システム・インテグレータA社におけるプロジェクト推進上の問題点
図1●システム・インテグレータA社におけるプロジェクト推進上の問題点

 例えば,実態調査で問題が起こった原因を調べた結果は,「必要な知識やスキルを持った要員がいなかった」という要員管理の問題が多かった。開発標準やプロジェクト管理標準といったドキュメント,要員や協力ソフト会社の管理者など,「プロジェクト管理を支援する機能」が未整備な面があることが再認識された。

 さらに,実態調査を受けて,「プロジェクトの定義と準備段階の作業が足りない」という六つ目の問題点を追加した。実態調査の結果,「プロジェクトの定義と準備段階」に問題が集中していたからである。

 六つの問題点を整理すると,すべての根底に,「組織の責任範囲が明確でない」という問題が横たわっていることが分かる。責任範囲が不明確である以上,プロジェクト管理支援の組織も作れないし,どの組織でどんな役割をしている要員が不足しているのかもよく分からないわけである。

 組織の問題にもう少し突っ込んでおくために,A社のプロジェクト革新検討会は,役職と管理体制の分析やアンケートによる組織風土の評価も実施した。その結果,予想通り,A社では役職と管理範囲があまり一致していなかった。係長クラスで権限がないにもかかわらず,実質的な責任者としてプロジェクトを進めているケースや,ある権限が特定の人物に集中していることもあった。総じて,特定の業務が特定の個人に固定化している傾向が強かった。

 組織風土調査では,A社の従業員は責任感が強く,自分の責任範囲にある仕事を完成させる努力を惜しまない,という結果が出た。しかし,自分の責任外の仕事については,隣の席にいる同僚に対してすら,ほとんど口を出さない,という社風であることも分かった。「責任感は強いが,縦割りである」という日本の大企業に多い文化と言える。これはプロジェクトの推進にあたっては,大きな障害となる。