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 2006年末から続けてきた本連載も,今回で最終回を迎える。過去の内容を踏まえた上で,今回は締めくくりとして中堅・中小企業の業務アプリケーションの利用実態を総括したい。

 さて,“2007年問題”で一斉にリタイアする団塊世代の就労者数は,約300万人と言われている。この問題をITに置き換えて,レガシーシステムの構築・運営に携わってきたベテランの大量リタイアによるナレッジの喪失が指摘されている。

 弊社の別調査でも,SMB(中堅・中小企業)の中で比較的規模の大きい年商50億円以上300億円未満の中堅企業において,基幹業務システムの約半数(49.0%)が,オフコンやメインフレームを使っているという事実が判明している()。Linux/UNIX,Windowsといったオープンシステム系のシステムがデファクトと言われている現在,SMBの基幹システムにおける旧態依然とした状況は,「アプリケーション普及のまだらな進み具合」を反映している結果と言えよう。

図●中堅企業における基幹系業務システムのハードウエア構成<BR>(年商50億円以上300億円未満の企業を対象に2006年7月に実施。Nは有効回答数)
図●中堅企業における基幹系業務システムのハードウエア構成
(年商50億円以上300億円未満の企業を対象に2006年7月に実施。Nは有効回答数)

 本連載は毎年定点的な調査として弊社が実施している「中堅・中小企業のITアプリケーション利用実態調査」をもとに執筆しているが,なんとも「動きが鈍い」と言わざるを得ない。逆説的な言い方だが,この「劇的な変化のなさ」がSMB市場の「最大の特徴」ということでもある。

 もちろん,一部には変化も見られる。ウイルス対策やファイアウォールなどのセキュリティ関連機能は,インフラの一部という強い認識のもとで導入が進んでいる。グループウエアも,ネットワーク活用の実践例として着実に普及しつつある。しかし,もっと期待されていたはずのCRM(カスタマ・リレーショナル・マネジメント),DWH(データ・ウエアハウス),ナレッジマネジメント,CTI(コンピュータ・テレフォニー・インテグレーション)など,戦略系ITの利用率は10%前後でここ数年変わらない。

 ハードウエア性能の着実かつ圧倒的な進歩に比べると,アプリケーションの伸びや展開速度は鈍い。しかもアプリケーションに対する需要の主体は,いまやセキュリティなどの「企業の守りや見直し/統合」になっている。結果として,戦略系のアプリケーション導入は後回しになっている。

 守りの代表例には,「内部統制(J-SOX法,コンプライアンスなども含む)」がある。2007年6月現在,極端な話,すべてのキーワードが「内部統制」抜きでは語ることができないような状況だ。金融商品取引法案は既に国会を通過し,実定法として存在している。さらに,その実施基準に「ITの利用」(またそのIT環境を統制すること)というフレームが盛り込まれている。この法律を遵守するためのIT化に取り組まなければ,企業の信用問題にかかわるだろう。

企業を押し上げるアプリケーションが求められる

 日本企業のIT化は,会計をはじめとする事務処理の省エネ化やコスト削減から始まった。だが,今後は経営戦略的にも活用されなくてはならない。そのためには,売上アップ,新規顧客獲得,既存顧客の囲い込み,新製品・サービスの立ち上げなどでも,ITの有効活用を実現しなければならない。しかし,残念ながら現状のアプリケーションで,これら戦略系の支援機能はいまだ確立できていない。

 内部統制/コンプライアンスに代表される「守り/内向きのベクトル」の重要性は,もちろん否定できない。だが,戦略系のアプリケーションが後回しになった理由には,今まで戦略系でのIT活用に本気で取り組んでこなかったベンダーやユーザー企業自身の問題がある。今や「企業を押し上げるためのベクトルをもつアプリケーション」こそが本当に求められている。

 企業戦略的なアプリケーションの本格導入がブレークする時期はいつになるのか。正確に予想することは難しいが,おそらく現在の“内部統制ブーム”が収まる来年以降となるのではないだろうか。

 なお回答企業プロフィールなどの調査概要については,こちらをご覧ください。

■伊嶋 謙二 (いしま けんじ)

【略歴】
ノークリサーチ代表。大手市場調査会社を経て98年に独立し,ノークリサーチを設立。IT市場に特化した調査,コンサルティングを展開。特に中堅・中小企業市場の分析を得意としている。