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 5月25日,企業のダイバーシティ(多様性)推進を支援するNPO法人(特定非営利活動法人)「ジャパン・ウィメンズ・イノベイティブ・ネットワーク(J-Win)」が発足した。日本IBMやKDDI,みずほ証券,ソニーなど大手企業を中心とした74社の会員企業が参画。初代理事長には,この3月に定年退職するまで日本IBM取締役専務執行役員だった内永ゆか子氏が就任した。

 もともとJ-Winは,2年前の2005年3月,男女雇用機会均等法の施行から20年の節目の年に,日本IBMの呼びかけで,女性管理職の連絡会議(任意団体)として設立された。女性管理職の登用を促す制度改革などを議論し,企業経営者や国に提言していく政策提言を視野に入れながら,“女性版・経済同友会”を目指し活動を続けてきた。

 「この2年間,様々な業種の女性幹部が集まって毎月会合を開き,企業の女性活用のあり方や,女性が働きやすい社会の仕組みなどを議論してきた。今後は一層,企業や社会への働きかけを強めていこうと考え,組織力を強化するためにNPO法人化した」。会見の席で内永理事長はNPO化の経緯についてこう語った。

企業を動かし,社会を巻き込む


企業のダイバーシティー推進を支援するNPO法人「J-Win」の初代理事長に就任した元・日本IBM取締役専務執行役員の内永ゆか子氏

 企業の社会的責任(CSR)が声高に叫ばれるようになった2003年頃から,女性活用を推進する動きも活発化してきた。従業員は重要なステークホルダーであり,人材の多様化=女性の活用が,CSRの重要施策として位置づけられたからだ。実際,松下電器産業,日産自動車,東京電力,三菱東京UFJ銀行,TOTOなど,女性活用を推進する専門部署を設置した企業は枚挙にいとまがない。しかし,まだ社会全体の大きな動きとなるには至っていない。

 人間開発計画(UNDP)が発行する『人間開発報告書』によると,政治及び経済活動への女性参画を示すGEM(ジェンダー・エンパワーメント指数)において,2006年に日本の順位は世界75カ国中,42位だった。ノルウェー(1位)やスウェーデン(2位)などの北欧諸国やカナダ(11位),米国(12位)に遠く及ばないばかりか,アルゼンチンやペルーなどの南米諸国,スロバキアやハンガリーなどの東欧諸国に対しても後塵を拝した。

 日本のGEMが低いのは,算出に使う構成要素のうち,女性の国会議員比率と管理職比率が上位国に比べて著しく低いからである。2005年の総務省『労働力調査』によると,日本の女性管理職の比率は10.1%にとどまり,米国の42.5%,イギリスの34.5%,ドイツの37.3%などを大きく下回る。管理職や経営層に女性が登用されなければ,一般の女性社員のモチベーションも上がらないという悪循環に陥っているのが日本の現状なのだ。

 このように閉塞した状況を打開しようと,従来から個人レベルでは,業界団体や学会,時には業種の壁を超えて,働く女性のネットワークを作る動きが盛んだ。だが個人レベルの活動では限界がある。「女性活用をもっと大きな社会の動きにしたい」。こうした思いを温めていた内永氏は,社内の女性活用に積極的な経営トップに働きかけ,2005年にJ-Winを立ち上げた。

サバイバルした女性たちが企業を変える

 J-Winの参加主体は,個人ではなく,企業。参加者には,個人のネットワーク作りのみならず,議論した内容を企業に持ち帰り,女性活用の推進リーダーとして企業を内側から改革していく役割が求められる。さらに育児休業や保育との両立といった問題を話し合い,女性が働きやすい社会制度のあり方を行政に対して提言していくことを目指す。

 「私たちは男女雇用機会均等法の第1世代で,(男性中心の社会の中で)サバイバルしてどうにか生き残ってきた女性たち。社内に女性管理職のロールモデルも少なく,不安に思うことも多かった。それが,J-Winを通じて社外ネットワークが広がり,同じ悩みを持つ女性たちがいることを知り,とても心強く思った」と,J-Winの第1期生(2005年4月~2007年3月)で幹事長を務めた日本IBM執行役員・ゼネラル・ビジネス事業担当の鷺谷万里氏は2年間の活動を振り返る。

 「これから自分たちが会社を変えて行かなくては,という意欲に燃えている」と鷺谷氏は1期生の女性達の声を代弁する。職場で孤軍奮闘し,肩肘をはったり,悪戦苦闘してきた男女雇用機会均等法第1世代の女性リーダー達が,ようやく周囲を見渡せるポジションにたどり着き,結構同胞もいることに気づいた。彼女らが企業内にとどまらず,社外的な活動を繰り広げていけば,中堅・中小企業を含めた社会の隅々に至るまで女性活用の気運が高まっていくだろう。そうなることを期待したい。

女性の活用を阻む“壁”は中間管理職


「J-Win」の記者会見には,第1期の理事長を務めた日本IBM執行役員・ゼネラル・ビジネス事業担当の鷺谷万里氏(中央),ソニー 人事センター人材開発部統括部長の萩原貴子氏(右)が出席した

 企業において女性活用を進める施策として,「トップ・マネジメントを動かす」,「現場の女性リーダーを育てる」の2つがよく挙げられる。

 筆者はJ-Winの設立記者会見の席で「トップダウンとボトムアップのどちらの施策がより効果的か」と質問した。すると内永氏はこう答えた。「トップがダイバーシティに積極的で,現場の女性たちもやる気満々なのに,女性活用がうまく進まない会社をいくつも見てきた。重要なのは,トップの意思と現場のやる気を連動させ,施策の効果を高めるためのマネジメントシステムをうまく回すことだ」。

 一般に,女性活用の大きな壁になっているのが,トップと現場の間に挟まっている「中間管理職」である。トップの顔色をうかがい,女性の登用のように前例が少ない“冒険”はできるだけしたくないというのが,男性の中間管理職の本音だろう。元・内閣府男女共同参画局長で,現在は昭和女子大学副学長,ベストセラーになった『女性の品格』の著者でもある坂東眞理子氏も,この点を指摘している。

 坂東氏は朝日生命保険の社外取締役も務め,社長から女性活用の推進を熱心に託されているというが,「中間管理職の中には聞く耳を持たない人が多く,トップの号令がないと動かない」のが実態という。

 会見終了後,筆者は「トップと現場をつなぐマネジメントシステム」についてもう少し具体的に聞き出そうと内永氏に近寄って行った。

 「欧米ではうまくやっている会社もあるようですが…」と筆者。すると内永氏は,「一番効くのはね,中間管理職の人事評価に“女性活用”の項目を入れることよ」と一言。なるほど,女性をうまく活用できているかどうかが,自分の評価に影響するとしたら,中間管理職の皆さんもがんばって登用の仕方を考えるというわけである。

 女性リーダーの数だけ増やせばいいのか,女性管理職の枠を作ることは逆差別ではないか,という議論もあるだろうが,IT業界のように女性が圧倒的にマイノリティーな職場にあっては,こうした荒療治をやらない限りは何も変わらないのではないか。事実,日本IBMは女性管理職比率の数値目標を設定し,人事評価制度を活用するなどして,女性の役員と管理職を大幅に増やした。これによってダイバーシティの考え方が社内に広く浸透し,結果的に,男性にとっても働きやすい職場を作ることに成功している。

 女性技術者にとっては,百戦錬磨の先輩の話を直接聞くことが何よりの励みになる。日本女性技術者フォーラム(JWEF)では6月9日(土),東京・秋葉原において,内永氏や富士通ソーシャルサイエンスラボラトリ取締役の守屋朋子氏,リコー常務取締役の國井秀子氏などを招き,“女性エンジニアの過去,現在,未来”をテーマにパネル・シスカッションを開催する。ぜひ会場に足を運んで,今後のキャリアの指針を探ってみてはどうだろうか。