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秋山 進
ジュリアーニ・コンプライアンス・ジャパン
マネージングディレクター

 内部統制の強化は、いろんな新しいリスクを生み出します。教科書通りに内部統制を徹底した結果、自社のコア・コンピタンスを弱めてしまったケースを紹介したいと思います。

 ウェブサイトの制作を手がけるベンチャー企業A社での出来事でした。A社は、実績はさほどなくても見込みのあるフリーランスの若手ウェブデザイナーやコピーライターをうまく活用し、クオリティの高いウェブサイトを仕上げることで定評があります。

 A社が仕事を発注する若いクリエイター達は、才能があって将来有望な人でも、現在は大した収入がなく今月の家賃や打ち合わせに来る際の交通費にも事欠く、という人が少なくありません。そこでA社は、これらの人たちの才能と生活状況を勘案し、必要と思えば、社長に申請し了承をもらった上で、かなりの額の「制作費の前払い」をしてきました。

 最近、A社は未来の上場に備え、大手企業に長年勤務していた熟練の経理担当者を経理部長として迎え入れました。新しい経理部長は、制作費の前払い慣行を改めました。「支払いは、成果物が納品されて検収し、さらに他のセクションがチェックした上で、相手から請求書を受領してから行う」という、「正しい」やり方になったのです。

 さらに、若いクリエイターが納品せず逃げてしまった場合のリスクを他社に転嫁するために、ほとんどの支払いを別のB社を通して行う形にしました。B社は当然リスク負担の対価を要求しますから、クリエイターに支払われる実質的な対価は、従来の8割程度に減額されてしまいました。要するに、A社は内部統制を強化するために、前払いを止め、さらに支払いを2割減らしたのです。
 
 教科書的には、経理部長の判断は間違いなく正しいのです。しかし、経営を大局的に見ると、この変更は大きな問題をはらんでいました。クリエイター達のA社に対するマインドシェアが大幅に落ちてしまったのです。

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