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ソフト開発の海外委託は、中国やインドに加えベトナムなどが急浮上するなど、選択肢が広がる一方だ。だが、ソフト開発という知的労働のマネジメントは難しい。ソフト工学的なプロジェクトマネジメントにとどまらず、ビジネスプロセス全体をマネジメントしなければ失敗する。

 ソフト開発の海外委託の動きは、1990年代後半はインドへの委託が顕著だったが、2000年頃より中国および東南アジアへの委託が活発化している。最近では大手ITサービス会社のみならず中堅・中小の海外委託活用が増えている。委託するソフト分野もオープン系から組み込み系まで領域が広がっている。

責任者への依存度が高すぎるオフショア開発

 海外委託の狙いは大きく(1)質の高いソフト開発リソースの活用、(2)開発コストの低減、(3)グローバル化への対応、の3つだ。海外活用の効果は、オフショア開発(技術者が海外にいて国内案件を開発する)のほうが、オンサイト開発(技術者が来日し開発する)より大きく、最近はオフショア開発への動きが高まっている。

 だが、オンサイトでは大きな問題が発生しにくいのに対し、オフショアでは品質・コスト問題が発生するケースが多い。多くのオフショア開発プロジェクトでは、日本側の責任者が海外の現場で発生する問題に必死に対応しているのが現状だ。プロジェクトの成否が、責任者がどれだけ海外活用の経験やノウハウを持っているか、目標達成に向けて努力できるかなど個人に委ねられている(図1)。

図1●オフショア開発の現状と課題
図1●オフショア開発の現状と課題

 過去、オフショア開発で失敗した事例には共通点がある。日本側が抱える問題点は以下だ。
(1)要求ドキュメントを出す際に「これぐらいで分かるはずと」考える
(2)発注後、任せ切りになり納品時に品質問題に気づく
(3)海外委託費自体は安いが、日本側のフォローコストが増加する
(4)委託先の背景や理解度が分からず意図を的確に伝えられない
(5)委託事業量が減少しテーマを継続できず、せっかく育成したメンバーを手放してしまう

一方、委託先の問題点には次のようなものがある。
(1)日本市場での経験不足から要求される品質や納期の意味が分からない
(2)担当者が離職しプロジェクトが継続できない
(3)仕様が不明確な場合、勝手な解釈で実装し大きな設計手戻りを発生させる
(4)プロジェクト管理能力不足から、納期直前に進ちょく遅れが発覚する

 こうした問題点から分かるのは、オフショア開発の成否が純粋にソフト開発の問題にとどまらず、海外とのビジネスプロセスや活用プロセスの問題に大きく左右されるということだ。海外活用で問題が発生するとすぐにコミュニケーションの問題だとか、文化・ビジネス習慣の問題だと一言で片付ける例が多いが、問題の本質はそこではない。

 委託開発の問題点は、日本国内であっても見えてこないことが多い。ただ国内に閉じれば一体感をもって仕事ができるので比較的早めに問題を認識し、経験を基に早期に対策を実施できる。それが言語や文化、ビジネス習慣が異なる海外への委託開発になると状況が見えにくくなり“読めないリスク”が増大する。

 そもそも、例えば東京のソフト会社が札幌や沖縄のソフト会社にうまく開発を委託できているわけではない。札幌や沖縄のソフト会社はわざわざ東京にオフィスを開き、オンサイトで開発しているのが実態だ。国内でも遠隔地との分散開発に成功していないのに、一気に海外のオフショア開発で成功を狙っても無理がある。遠隔地を結ぶ開発を成功させるためのプロセスを確立したうえで、オフショア開発を成功させるための対策をさらに講じる必要がある。

これからの企業戦略として不可避の課題に

 昨今、製造業や流通業、金融業、サービス業など種々の産業でグローバル化が著しく進み、特に中国市場への進出が目立っている。当初は、日本国内で開発し、生産のみを海外に移し現地で販売展開してきた。それが最近は、日本国内で企画し、国内と海外の部隊が連携して開発、現地で生産と販売を展開するケースが増えている。効果的に現地リソースを活用し開発コストを削減することが業績を向上させる。限られた経験・ノウハウや人材に依存するだけでなく、海外リソースを効果的にマネジメントし成果を出さなければならない。

 このことは、ソリューションビジネスを展開するITサービス会社にも当てはまる。顧客企業の海外進出に伴い、海外の市場でソリューションを提供することが求められ始めている。ボーダーレス時代には、日本に進出してくる海外企業も増えているだけに、日本企業も海外市場が自らの市場ととらえグローバルに事業展開する必要が高まっている。

 ただ、経験が乏しい海外市場で一気に優れたサービスを提供することは難しい。だからこそ、現地リソースをうまく活用し、そのノウハウを身に付けることが海外市場展開のベース作りにつながる。オフショア開発はソリューションプロバイダの企業戦略としても重要な施策であり、積極的に取り組まざるを得ない。

 オフショア開発のプロセスは、海外委託先とのヒト・モノ・カネのビジネスプロセス、ソフト自体の開発プロセス、海外の人材活用やリスクに関する支援プロセスに大別できる。そこでのマネジメント要素は(1)調達、(2)契約、(3)開発、(4)ヒューマンリソース、(5)リスク、の5つに分解できる(図2)。本連載では、これら5つのオフショア開発マネジメントについて、現実的な方法やヒントを筆者の経験に基づいて紹介する。

図2●オフショア開発に必要なマネジメント
図2●オフショア開発に必要なマネジメント

岡崎 邦明氏 米グローバルブリッジインク社長
日本のハイテクメーカーで海外事業展開と、インドや中国などでのオフショア開発を指揮。2002年に独立し、グローバル展開に向けた海外オフショア開発に挑む日本企業を支援している。