PR

「オフショアは安い」と考えるだけで、安易に海外発注しても成功しない。最近は、海外に技術やノウハウが流出し、日本の企業体力が低下する恐れもある。オフショア開発はグロ-バルなIT市場の中で、自社がどう勝ち残るかの戦略にほかならない。何を海外に求めるかの計画が必要だ。

 オフショア開発で問題が発生すると、多くは発注先の選定に問題があると指摘される。だが実際には、次のようなプロセスで問題が発生する。

 企業のトップがオフショア開発さえすれば容易にコスト低減できると考え、複数の海外ソフト会社とコンタクトする。そのプレゼンテーションに感銘し、詳細を吟味することなく発注先を決定。そして語学スキルが高く海外対応できるという理由で責任者を選定し、オフショア開発のパイロットテーマを走らせる。様々な問題が発生するが責任者自身が何とかパイロットをやり切る。そこで、次なる拡大を考えるが「現状で海外に出せるのはせいぜい、パイロットのテーマくらい」という結論に終わり、オフショア開発を拡大できない。

海外は本来、変化やリスクが多い

 こうした問題の本質は、もともとオフショアへの調達計画がないか、計画自体に問題があることだ。行き当たりばったりでオフショア開発を進めるため、人材が育たず、プロセスも完備せず、積み重ねもできない。結局、責任者が疲労し、やる気を失い当初の狙いから外れていく。ユーラシア大陸は大きく、様々な課題があるのは事実なだけに、投入の方向を誤ると、いくら投資しても効果が出ない泥沼に陥る危険性がある。もともと変化やリスクが多い海外では計画どおりには進まない。変化にうまく対応するには、事前に目標達成のための課題と対策を検討しておく必要がある(図1)。

図1●調達マネジメントの範囲
図1●調達マネジメントの範囲

 調達計画は、次のような手順で立案する。
(1)リソース確保か、コスト削減か、グローバル対応か、などの目標を設定する。
(2)目標に従い、何をアウトソースするか、そして何を自社に確保するかを決める
(3)オンサイトかオフショアか、日本語でやるのか英語などを使うのかの対応方法を決める
(4)委託量と時期を決める
(5)目標達成に向けたドメイン知識の移転や教育などの計画を立てる。
(6)回収のメドやどこまで投資できるかを検討する

 これらの中で、海外発注先とのやり取りを日本語にするか英語などにするかの方針決定は重要だ。英語ベースで進めれば、最初は手間が掛かるが海外調達のマネジメントノウハウを獲得できる。特定の国に限定されず、アジア全域や、将来は東欧地域など幅広く委託先を探せるようになる。日本語処理が多いアプリケーション開発では日本語ベースとし、中国などのソフト会社を活用するほうが効果的だ。しかし、少なくともビジネスプロセスは英語で対応し、人材や仕組みを自社内に確保するほうが長期的な展望が持てるはずだ。

 委託量も大事な要素になる。1人や数人で数カ月程度の小さな案件なら、小規模な委託先が適する。小規模で技術力があり、トップがしっかりしている企業を探す。だが、小規模な案件でよい成果が得られたとしても安心はできない。中国やアジア諸国では売り上げを毎年30~50%も拡大する企業が多い。日本側からの発注が、その成長度に合わなかったり事業量が減少したりすると対応や品質が悪くなることがある。

 こうした計画立案後、発注先を選定する。海外側は仕事をとりたいため、プレゼンテーションが上手い。相手の土俵に乗って考えず、日本での経験を元に評価・判断することが肝要だ。特に海千山千の相手の場合、裏を見通せるだけの長年の経験が必要になる。詳細検討のため海外の候補企業を訪問したり、海外から打ち合わせに来てもらったりして実態を探る。

企業の成長速度のギャップが継続性を損なう

 発注先選定の際の尺度としては(1)企業およびトップのマネジメント、(2)保有技術や得意技術、(3)開発品質、(4)品質・納期の意識、緊急対応、(5)人件費、委託費などのコスト、(6)カントリーリスクなど、がある。これらの尺度を使って、調達計画に最適な発注先を選ぶ。例えば、狙いが短期的なら必要な技術を保有し即戦力として使え、かつ育成に手間がかからない企業がよい。

 海外の大手ソフト会社は、数十人で数カ月~1年以上といった大きな案件に積極的に取り組む。そのため小規模案件を受けることに難色を示したり、開発終了後に発生する数日~数人月の小さな修正に対しては極端にレスポンスが悪くなったりすることが少なくない。だが、実際のソフト開発のテーマとしては、小さな案件の固まりが多いので、これらをうまく大規模に見せる仕組みを確立することが重要になる。

 一方で、特定の技術分野に特化し、量的拡大に走らないソフト会社もある。同じ技術分野であれば長期の関係構築が比較的容易だ。相手の経営方針、経営トップの人柄をよく知り、適切な取引先を選定することが大切だ。長期のパートナーと短期のパートナーなどに分けて対応することも必要になる(図2)。例えば、オフショア開発したソフトを日本で保守する場合は大きな問題にならないが、海外側に保守させる場合、ある日突然、海外の技術者が離職することもあるので、対応策を検討しておく必要がある。

図2●オフショアに出す範囲と、その効果
図2●オフショアに出す範囲と、その効果

 海外のソフト会社の中には、数年の内に上場しストックオプションなどで利益を得ようと考えている企業もある。発注先の成長や変化が大きい場合、成長が遅くなっている日本企業が活用できる期間は限られる。こうした会社をうまく使うには、例えば自社からの委託量が減っても関連会社を含めて一定の事業量を確保し、信頼関係を構築することも大事だ。

岡崎 邦明氏 米グローバルブリッジインク社長
日本のハイテクメーカーで海外事業展開と、インドや中国などでのオフショア開発を指揮。2002年に独立し、グローバル展開に向けた海外オフショア開発に挑む日本企業を支援している。