PR
岩井 孝夫・佐藤 三智子

情報化を推進する際の基本精神は,「ギブ&テイク」である。情報化プロジェクトの目的を達成するために,従来は入力していなかったデータを現場の担当者に入力してもらうなど,現場部門に負担を負わせるケースがある。この場合は必ず現場になんらかのメリットを与えなければならない。「全社のために大局的に考えてほしい」と言って,現場に犠牲だけを強いるような情報化は長続きしない。


 情報化プロジェクトは従来は得られなかった大きなメリットを獲得しようとして始めるものだ。しかし,情報化の目的として掲げたメリットは,全社・全員に行きわたるものとは限らない。情報化の結果,デメリットを享受する部署や社員も必ず存在する。例えば,情報化に伴って,「業務処理の時間帯の枠が以前より窮屈になった」,「現場の業務負荷が増加した」ということが十分に起こり得る。

 それでも企業全体で見てメリットがデメリットを大幅に上回っていれば,情報化を実行すべきである。ただし,情報化に踏み切った時に,デメリットを受ける部署へ,彼らが納得するメリットを与えることを忘れてはならない。

ギブ&テイクに失敗(1)
データの精度が上がらず

 製造業のA社は,コスト削減と顧客サービスの向上のために1年前から物流システムの再構築を始め,今年の春から新しい物流システムの運用を開始した。

 新システムは,物流を委託している配送会社からA社に送られてきた納品伝票をすべて入力する。この納品情報があれば配送会社から最終的に送られてくる請求書の内容をチェックできるし,配送ルート別のコストまで把握できる。従来は配送会社から来る請求書しか把握できなかった。

 ところが,実際にシステムの運用を開始してみると,物流の状況を把握するための管理表に出てくるデータの精度がどうも疑わしい。A社は当初,プログラムの不具合ではないかと考えてチェックしたが特に問題はない。運用体制まで広げてトラブルの原因を調べた結果,データを入力する時にミスが多いことが原因と判明した。

 新システムへ納品伝票を入力する作業は,配送会社のドライバと直接接触している出荷現場の社員が担当することになっていた。だが,出荷現場にはキーボードの入力に不慣れな社員ばかりで,しばしば入力ミスが起こった。さらに,出荷現場は夕方の繁忙時や作業のピーク日になると,納品伝票を即時にシステムへ入力できるような時間的なゆとりがまったくなかった。このため,データ入力は翌日にまわされたり,ひどい時には3日後にようやく入力する始末だった。

 原因が判明したのでA社の情報システム部は出荷現場に対し,「データ入力のミスが多い」,「データ入力の時期も遅い」と指摘,改善をうながした。ところが,その後も一向にデータ入力の問題は改善されない。情報システム部は再び調査した。

 出荷現場の当事者に「忌たんのない意見を言ってくれ」と依頼したところ,次のような回答だった。「今回の新システムを構築する段階で再三申し上げたが,新システムはただでさえ要員不足の出荷現場にさらなる作業増を招くものだ。現場としては不慣れな入力作業を一方的に押し付けられた格好になっている」。

 「もちろん管理職として,作業にミスが多かったり,データ入力遅れが発生すると本社の管理部署が困る,と口を酸っぱくして指導している。だが,現場の当事者はたとえミスがあっても自分たちの業務にはなんの支障もないことを知っている。だから,データの精度の改善に今ひとつ真剣になれない」。

 情報システム部はいまさら,出荷現場の要員を増やすわけにもいかず,といってデータ入力を容易にするような機器もない,と思案に暮れている。