PR
岩井 孝夫・佐藤 三智子

情報化に伴い,新たな情報システムを開発し運用を始めてみると,情報化プロジェクトの計画段階で想定していなかった,さまざまな障害がとりわけ業務面で発生する。計画時に配慮が足りなかった点もあれば,運用の結果,新たに発生した問題もある。一連の障害に素早く対処し,問題を解決することが,新システムを現場に定着させ,当初の目論見通りの改善効果を上げるうえで非常に重要な点である。


 情報システムの構築にあたって通常は,計画段階で新システムの稼働後に生じるであろう,さまざまな障害を想定し,その対策を講じておく。システムの利用者が新システムにつつがなく移行し,情報化の本来の目的である業務改善に取り組めるようにするためである。しかし,それでも稼働後に必ず問題は発生する。

稼働後に問題が発生(1)
目玉の営業情報が活用されず

 不動産業のA社は半年前,営業活動支援システムを構築した。営業担当者全員にモバイル・パソコンを持たせて,電子メールによる連絡はもちろんのこと,毎日のように更新される物件情報や顧客情報を検索できるようにした。さらに営業担当者が書いた営業日報もシステムに入力・蓄積して,営業情報として部内で自由に閲覧可能にした。

 A社で営業企画を担当しているBさんは営業活動の成否は情報の活用次第という持論であり,今回の営業支援システムの計画が出てきた時から,その趣旨に大いに賛成してきた。システム開発にもBさんは積極的に協力した。

 営業支援システムが実際に運用に入ってからは,Bさんは営業担当者たちの指導に取り組んだ。ワープロに不慣れな営業担当者や,コンピュータ・アレルギを持つ営業担当者はともすれば面倒な営業日報の入力をさぼろうとする。そこでBさんは営業部長の協力を仰いで,彼らを叱咤激励し日報を毎日欠かさず入力させるよう指導していった。その結果,システム稼働後3カ月ほどで日報を入力する習慣は定着し,6カ月を経た現在は営業担当者のほぼ全員が日報を翌日午前中までにコンピュータに入力するところまで来た。

 しかし,せっかく入力したこの貴重な営業情報が営業担当者の間で活用されている気配が,Bさんにはあまり感じられない。そこで情報システム部に依頼して営業情報の利用状況を調査してみた。すると,物件情報は活発に検索されており,電子メールもそこそこ利用されていた。
 だが,営業日報はBさんが感じたように,実際はほとんど検索されていないことが判明した。今回の営業支援システムの眼目の一つは,営業情報を現場で共有し,組織的かつ効率的な営業活動を展開することにあった。ここが実現できないようでは,当初のシステムの目論見の半分程度しか実現できていないことになる。意気込んでいただけにBさんはショックを受けた。

 営業情報が利用されない状況について情報システム部は,「営業日報はほぼ全員が毎日入力しており,日報データベースも構築されている。営業情報の検索システムの使いやすさに関しても特に問題はない。したがって利用が少ないのは,営業部の中で情報を活用しようという意識が乏しいからだ」と見解を述べた。

 Bさんはこの現状を営業部長に報告し,なぜこのような事態になっているのか,その原因はどこにあるのかを営業担当者に聞いて回った。その結果,次のような事情が判明してきた。

 従来の営業日報にはさまざまな情報が記入されていた。その中には共有してもかまわない情報のほか,例えば営業部内のみとか,営業部の管理職のみといった,利用者の範囲を限定した情報も入っていた。ところが現状の仕組みでは,投入した情報は無差別にだれでも見られる。勢い,日報の入力内容はだれに見られてもよい無難な内容になってしまった。これでは情報共有は進まない。

 また検索システムの操作それ自体は分かりやすかったものの,営業日報を検索するための,検索条件をどう設定するかという点は営業担当者にとって難しかった。このため,目的の情報がなかなか得られず,実際の営業担当者に直接問い合わせたほうが適確で速いと考える営業担当者が多かった。

 逆に,物件情報の検索のように,紙情報をあたるより,システムを使ったほうが速く正確な場合は,営業担当者も積極的に利用する。この場合はコンピュータに不慣れだとか,キーボードの操作に熟達していない,といったことは障害にはならない。

 こうした事実をふまえて,Bさんは問題解決に向けて,情報システム部と協力して対策を講じつつある。