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岩井 孝夫・加藤 三智子

情報システムを実際に使う,利用部門に向けた研修は極めて重要である。この認識は情報システム部に定着しているが,実際の研修を見ると相変わらずパソコンの操作方法やシステムの機能を教えている場合が多い。そうではなく,「システムを使ったほうが自分にとって便利だ」と利用部門に実感させるような内容の研修にしなければならない。情報システム部がこうした工夫を怠ると,せっかくのシステムが使われなくなる危険がある。


 情報システム部にとって,開発したシステムを使う利用部門に向けた研修を企画・実施することは,非常に重大な任務である。しかし,利用部門が「本当に役立った」と喜ぶ研修を実施することはそう簡単ではない。

システム研修の明暗(1)
メーカー任せで大失敗

 中堅化学品メーカーのA社は,生産管理を中心とした製造部門の情報システムを全面再構築する方針を決めた。原材料・資材の購買から生産計画,出荷・配送管理,在庫管理,原価管理に至る,すべての関連業務をシステム化する構想である。

 A社はシステムの構築にあたってコンピュータ・ベンダー数社から提案を募った。そのどれもが流行のERPパッケージ(統合業務パッケージ)を使ったものであった。A社は将来の拡張性も考え,思い切ってERPパッケージを導入することにした。システムの仕様をできる限り,パッケージに合わせる形で開発を進める方針を固め,社内で合意もとった。

 A社は情報システム部を持っているが部員は5名しかいない。5人は日々のシステム・サポートで手一杯で,おまけにERPパッケージについての知識も乏しかった。そこでA社は新システムの開発を発注したメーカーにほとんどの作業を一任した。

 システムの開発が進み,画面や帳票がある程度まで出来上がったところで,A社は新システムの説明会を社内で開催した。新システムの導入に伴い,事務部門に1人1台,製造現場にも各セクションに1台ずつパソコンを配置し,進ちょく管理や資料作成をパソコンで行うことを決めており,説明が必要だったからだ。

 説明会には実際に日々の作業の中で,新システムを使う人たちを集めた。ERPパッケージとはどんなものか,システム上で今までとどのように処理が変わるのか,実際にはどんなデータをシステムに入力するのか,といった内容を,開発を請け負ったメーカーが用意した話の順序に従って説明した。

 しかし,この説明会は非常に不評だった。「ERPの説明をされても何がなんだか分からない」,「システムの内容は我々には直接関係ない。実際に仕事がどう変わるのかを知りたい」,「製造現場で新システムをどういうふうに生かすのか」,「専門用語が多すぎて,もらった資料は理解できないところが多い」など散々だった。

 すでに開発が進み,ほぼ完成しかかっているシステムに対して,積極的に使う姿勢とはほど遠い反応が返ってきてしまったわけだ。中には,「こんなわけの分からないシステムなら今のほうがずっとよい」と言い出す社員まで出る始末である。

 新システムはA社の将来を担う画期的なものになるはずであった。だが,現場でこれほどの拒否反応が出てしまうと,新システムが効果を出せるのかどうか,疑問に思われてきた。

 新システムの本番開始は3カ月後に迫っている。システム再構築の責任者になっている情報システム部の担当者は,どうやったら現場の社員にスムーズに新システムを受け入れてもらい,システムを効率的に動かせるか,悩んでいる。