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秋山 進
ジュリアーニ・コンプライアンス・ジャパン
マネージングディレクター

 90年代、アメリカにおいてはSPC(特別目的会社)などを使った経営手法が次々と生み出され、自分たちに都合よく会計ルールを適用することで、株式市場などで実体をはるかに超える評価を得ることに成功した企業群がありました(日本も同様です)。

 しかしこれらの企業が、膨れ上がった評価を維持・発展させるために、問題のある行動に手を染め始めるようになると、局面は大きく転換し、21世紀にはいるとSOX法をはじめ企業を厳しく統制する枠組みが整備されてきました。またそれに伴って、監査ビジネスもまた大きく成長しました。
口の悪い人に言わせれば、「アメリカの監査ビジネスは、エンロンやワールドコムを担当していたアーサーアンダーセン(AA)1社を犠牲にしたかわりに、巨額の商機を作り出した。しかも、AAは消滅しても、AAで働いていた人は他の会社に移り、皆、特需の恩恵を受けている」ということになります。

 しかしながら、今度はSOX法などが要求する監査の業務が重くなりすぎ、これまでアメリカの新興企業に向かって流れていた資本の流入が阻害されるような兆しが見えるや否や、すかさず攻撃側(産業界)の反撃が行われ、ある程度の規制緩和が行われています。

 しばらく攻撃側が世の中を席巻したかと思うと、今度は防御の方法が生み出される。防御が行き過ぎると攻撃側が反撃する。歴史の流れを巨視的に見れば、この両者の攻防のダイナミズムによって、アメリカ産業はバランスを保った形で成長してきたし、今後も成長していくのだと思われます。

会社経営における攻めと守り…リスクアプローチ

 しかし、攻撃と守備を分業しぶつけ合わせていくようなアメリカ産業界の論理を、社会レベルではなくミクロレベルの会社の経営に適用することはよい結果を生むのでしょうか?
アメリカのスポーツの代表である野球やフットボールに見られるように、攻撃と守備が分業で別れると、関わる人数がどうしても大掛かりになってしまい、それはとりもなおさずコストアップの要因となります。

 守備側の例を挙げると、日本企業にとっても喫緊の課題である内部監査室の増員があります。米国の巨大企業では、監査部門だけで数百人の規模を誇るところが少なくありません。彼らの業務は、会計監査や業務監査にとどまらず、場合によっては、一人ひとりのメールの検閲なども行っています。一方、日本の多くの会社では、内部監査室といっても実質的には稟議書の形式チェックなどといった有名無実な会社も多く、それはそれで大きな問題です。

 だからといって監査室の人員をあまり多く増やすのも疑問です。業態にもよりますが、数百億円の規模の企業であれば、それなりの経験を積んだやる気のあるメンバーが3人もいて、必要なときに外部の力を借りることができれば、かなりのことができます。トップの協力を取り付け、ラインの人に自ら業務をコントロールしてもらう体制をつくることで、会社全体のリスクの洗い出しと対応策の決定から、リスクのある部署の会計監査、コンプライアンス的な問題の解決、従業員教育などまで幅広くカバーすることが可能です。米国のように守備専門の人間を多数配置せずとも、現場の人たちに一部の守備の仕事をやってもらえばよいのです。

 これまで内部監査室が機能しなかった最大の原因は、もっぱら社内における重要性の認識の低さと、そこに配属される人員への期待感の低さでした。トップの認識が変わり、やる気のある人が配属されるだけで大きく事態を変えることができます。また、これまでなにもやっていない企業であれば、リスクの発見と予防ができるだけで、3人分の人件費をはるかに上回るメリットを享受することができます。