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 前回は,委託先を監督するという視点から地方自治体の個人情報漏えいの再発防止対策を取り上げた。

 今回は,最近発表された政府のIT新改革戦略案や統計資料などから,地方自治体財政との関係も深い,教育分野におけるIT基盤整備や個人情報保護リテラシの問題について考えてみたい。このテーマについては,以前第53回第54回で取り上げたことがあるが,その後どうなっているのだろうか。

“IT新改革戦略”で危惧される教育IT環境の整備

 2007年5月29日,政府のIT戦略本部は,“IT新改革戦略”の具体的施策として「重点計画-2007(案)」を公表し,パブリック・コメントの募集を開始した(「「重点計画-2007(案)」に関するパブリック・コメントの募集について」参照)。この案では,教育のIT活用環境整備に関連して,以下のような目標が設定されている。

・IT環境の整備(文部科学省,総務省,経済産業省)
 2010年度までに,概ね全ての小中高等学校等が,光ファイバ等による超高速インターネットに常時接続できるようにするとともに,校内LANの整備等を行うことにより,全ての教室がインターネットに接続できるようにする。
 また,2010年度までに普通教室等へのコンピュータの整備を行うことにより,教育用PC1台あたり児童・生徒3.6人の割合を達成するとともに,液晶プロジェクタ等の周辺機器の整備を促進する。

・教員のIT活用環境整備(文部科学省)
 2010年度までに,公立小中高等学校等の全ての教員に対しコンピュータを配備できるようにし,校務の情報化を促進するとともに,2007年度中に,校務の情報化に関する効果的かつ先導的な実践研究を実施し,その効果を検証する。

 他方,2007年6月12日,文部科学省は,平成18年度学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果(速報値)を発表した(「学校における教育の情報化の実態等に関する調査結果【速報値】について」参照)。政府IT戦略本部が策定した前述の目標と比較して,2007年3月時点で,学校内にLANを整備している全国の公立小中高校の割合は56.2%,パソコン1台当たりの児童・生徒数は7.3人,教員1人へのパソコン配備率は43%となっている。

 この結果を受けて,教育分野のIT新改革戦略に対する報道各社の見方は,「達成にはほど遠い現状だ」(日本経済新聞),「1年目で早くも黄信号が点滅した格好だ」(産経新聞),「いずれも現段階では,達成が困難な状況だ」(時事通信社)など,手厳しいものになっている。

情報保護リテラシで事前対策と事後対策にアンバランス

 2007年5月24日,NPO(非営利組織)の日本ネットワークセキュリティ協会は,2006年度の個人情報漏えいインシデント調査結果(速報)を発表した(「2006年度個人情報漏えいインシデントに関する調査報告」【速報Ver.2.1】参照)。2005年度は,教育・学習支援業で起きた個人情報漏えいの原因の約8割が「盗難」と「紛失・置忘れ」であり,他の業種よりもこれらを原因とする漏えいの比率が高いことが特徴となっていた。

 これに対して2006年度は,個人情報漏えいのインシデント件数が多い反面,1件あたりの漏えい人数が少なく,小規模のインシデントでも積極的に公表するようになったことが挙げられている。同じ傾向は,他の公務分野でも見られる。

 教育分野における個人情報保護リテラシの観点から見ると,対外公表など,いったん個人情報漏えいが発覚した後の事業者の対応は変わっているようだ。しかし,教員の過半数が日常業務を個人所有パソコンに依存している状態は相変わらずだ。学校にCIO(最高情報責任者)制度を導入しても,OSやアプリケーションのセキュリティ・プログラム更新,ウイルス対策ソフトの定義ファイル更新など,個人情報管理上で必要不可欠な事前対策を教員のポケットマネーと自助努力に委ねていたら,ITガバナンスが効くはずはない。

 例えば,お隣の韓国は教育分野でのIT活用環境を整備するとともに,医療分野の大規模臨床試験におけるITの利活用では日本をすでに抜き去っている。社会的,国家的責任投資の観点から教育ITを見直さなければ,世界をリードする製造業などの将来も危うい。

 次回も,教育とITの観点から情報保護を考えてみたい。


→「個人情報漏えい事件を斬る」の記事一覧へ

■笹原 英司 (ささはら えいじ)

【略歴】
IDC Japan ITスペンディングリサーチマネージャー。中堅中小企業(SMB)から大企業,公共部門まで,国内のIT市場動向全般をテーマとして取り組んでいる。

【関連URL】
IDC JapanのWebサイトhttp://www.idcjapan.co.jp/