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 イメージシティ事件とは,イメージシティ株式会社が社団法人日本音楽著作権協会(以下「JASRAC」)に対して,「著作権侵害差止請求権不存在確認請求」の訴えを提起したというものです。

 事件の簡単な経緯は,以下の通りです。イメージシティは,ユーザーがCDなどから作成した楽曲データを同社のサーバーに保存して,携帯電話から聴くことのできるサービスを提供しようと,2005年11月に無料の試験サービスを開始しました。これに対し,JASRACは2006年2月,本件サービスの中止と権利者の許諾が必要だとする文書をイメージシティに送付。両者の間で著作権侵害の有無についてのやり取りがあり,イメージシティは本件サービスを2006年4月に終了し,続く2006年5月,著作権侵害の有無を明確にするために上記の訴訟を起こしました。

 そして,東京地方裁判所は2007年5月25日の判決で,イメージシティからの「著作権侵害差止請求権不存在確認請求」を棄却したのです。

複製と公衆送信の主体が誰になるかが争点に

 イメージシティのサービスは「MYUTA」という名称で,パソコンと携帯電話のインターネット接続環境を有するユーザー(注1)を対象とするものでした。

 本件サービスでは,まずユーザーがユーザー自身のパソコンにおいて,イメージシティが提供するユーザー用ソフト「MUSIC UPLOADER」を利用して,CDなどからMP3ファイルまたはWMA形式のファイルを作成し,さらにそれらのファイル形式からAVIファイルを経由して,3G2ファイル(注2)を作成します。そして,この3G2ファイルを同じく「MUSIC UPLOADER」を使って,イメージシティが管理するストレージ・サーバーに保存します。

 ユーザーは,自分の携帯電話からMYUTAサイトにアクセスし,ダウンロードする楽曲を選択します。もちろん,ユーザーごとに認証があり,他のユーザーがサーバーに保存した楽曲データはダウンロードできない仕組みとなっています(サービスの概要,構成については,判決文の別紙をご覧ください)。

 このような仕組みを持った試験サービスの開始に対し,JASRACは本件サービスの中止と権利者の許諾が必要だとする文書をイメージシティに送付しました。

 著作権という観点からすると,ユーザーがMP3ファイル等から3G2ファイルを作成し,ストレージ・サーバーへ送信することが複製権侵害に当たるのか,特に複製しているのが誰なのかが1つの争点になります。もう1つの争点は,サーバーからの楽曲データの配信が公衆送信権の侵害に当たるのか,というものです。こちらも,公衆送信の主体が誰になるかが問題となります。

 2007年5月25日の東京地裁判決(判決文はこちら)で,裁判所は原告(イメージシティ)の「著作権侵害差止請求権不存在確認請求」を棄却しました。判決は本件サービスの提供により,JASRACの管理著作物の複製権,自動公衆送信権を侵害するおそれがあると認定したのです。

ストレージ・サービスでの著作権侵害を懸念する声も

 ネットでは本事件の判決について,様々な角度から批判があるようです。

 まず,複製権侵害については「一個人が複製をしているだけで,私的利用による複製(著作権法30条)として認められるのではないか」という疑問が出ているようです。この点について判決は,複製の主体はユーザーでなく,原告(イメージシティ)が複製の主体であると認定しています。

 これと関連して,本件サービスが自動公衆送信権侵害に当たるのであれば,一般的なストレージ・サービスも同じく著作権侵害となるのではないか,という懸念も広がっているようです。本件サービスを全体として見た場合,ユーザーごとにサーバーのディスク領域を与えて,ユーザーが必要に応じデータをアップロード,ダウンロードする,いわゆるストレージ・サービスと基本的に同じ仕組みのように思えるからです。

 また,自動公衆送信権侵害というのはおかしいのではないか,という批判もあるようです。

 自動公衆送信権の侵害というのは,通常,不特定または特定多数の人が閲覧可能なインターネット・サイト上に,権利者の許諾を得ずに楽曲のデータをアップロードしたような場合が典型です。これに対して,本件サービスでは,楽曲のデータ・ファイルはユーザーが個人利用できる範囲にしかコピーされません。すなわち,不特定または特定多数に対して楽曲データの送信を許さない仕組みとなっており,不特定多数に対して著作物を送信可能とする,典型的な自動公衆送信権の侵害態様とは大きく異なります。したがって,直感的には自動公衆送信権侵害にはあたらないのではないか,という批判が出ているのだと思われます。

 以上の批判や懸念はあたっているのでしょうか。次回は,まず,本判決の「著作権侵害のおそれがある」という認定に至る論理を整理してみたいと思います。

(注1)ただし,当面はKDDIのau WIN端末のユーザーのみだったようです
(注2)携帯電話用の圧縮率の高いファイル形式


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■北岡 弘章 (きたおか ひろあき)

【略歴】
 弁護士・弁理士。同志社大学法学部卒業,1997年弁護士登録,2004年弁理士登録。大阪弁護士会所属。企業法務,特にIT・知的財産権といった情報法に関連する業務を行う。最近では個人情報保護,プライバシーマーク取得のためのコンサルティング,営業秘密管理に関連する相談業務や,産学連携,技術系ベンチャーの支援も行っている。
 2001~2002年,堺市情報システムセキュリティ懇話会委員,2006年より大阪デジタルコンテンツビジネス創出協議会アドバイザー,情報ネットワーク法学会情報法研究部会「個人情報保護法研究会」所属。

【著書】
 「漏洩事件Q&Aに学ぶ 個人情報保護と対策 改訂版」(日経BP社),「人事部のための個人情報保護法」共著(労務行政研究所),「SEのための法律入門」(日経BP社)など。

【ホームページ】
 事務所のホームページ(http://www.i-law.jp/)の他に,ブログの「情報法考現学」(http://blog.i-law.jp/)も執筆中。