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KM(ナレッジ・マネジメント)と並び,今や企業が取り組むべき最優先課題となったCRM(カスタマ・リレーションシップ・マネジメント)。米国では,単に「CRMシステムを構築して顧客との関係強化を図る」という段階から,「顧客だけでなくパートナとの関係強化を図って企業としての総合力を強化すべき」という新たな段階に突入しつつある。

太田 秀一

本記事は日経コンピュータの連載をほぼそのまま再掲したものです。初出から数年が経過しており現在とは状況が異なりますが、この記事で焦点を当てたITマネジメントの本質は今でも変わりません。

 胡椒にせよ石油にせよ,昔から多くの国家間戦争は「希少な資源」をめぐる戦いだった。また鉄道王であれ石油王であれ,希少な資源を握った企業は過去,大きな成功を収めてきた。

 今日の米国産業界では,顧客と優れた人材が希少な資源であると認知されている。彼らと良い関係を作り,関係を深めるにはどうすればいいのか。優先課題となっているのが,CRMである。

 日本の産業界も出遅れてはならない。すでにEコマースで大きく遅れてしまったが,CRMで後れを取ることは本格的なグローバル競争時代に入った今,致命的である。読者の会社では,CRMが優先課題に入り,必要なだけの予算が計上されているだろうか。CRM戦略を巡る方針は,正しいのだろうか。

 本稿では,米国で開催されたCRM関連のカンファレンスや,米国CRM協会の有識者との議論などで筆者が得た知見をもとに,最新のCRM応用動向を紹介する。

特に
(1)CRMの最新トピック“PRM”
(2)2つのCRMポータル
(3)電子メール・ボトルネックの問題
(4)業種特化に向かう今後のCRM
の4点に関して,お伝えする。いずれもCRMへの取り組みを考える企業現場の切実な課題への回答であり,またEビジネスの中核要素になるものである。なおCRMに関する基本的な事柄は割愛した。筆者のWebサイトを参照いただきたい。

ナレッジ志向を深めるPRM

 米国の産業界で現在,最も注目されているCRM関連トピックが,PRM(パートナ・リレーションシップ・マネジメント)である。PRMは,物理的な(現実の)販売・流通チャネルを破壊するEビジネス流の「中抜きモデル」とは逆に,物理チャネルを強化・活用しようと考えるアプローチである(図1)。CRMのように顧客というややあいまいな存在ではなく,身近な販売チャネルとの関係を見直すことに焦点を当てたところに新しさがある。

図1●PRM(パートナシップ・リレーション・マネジメント)の概要
図1●PRM(パートナシップ・リレーション・マネジメント)の概要

 では今なぜ,PRMに焦点が当たっているのだろうか。理由は二つある。

 第1は,現状のチャネルが非効率であるからだ。販促プログラムや引き合い,製品に関する情報などを,会議や電話,FAX,個別の電子メールで交換するムダが大きいことに異論はないだろう。例えば,新製品を発表するたびにメーカーが各地で開催する説明会やセミナーは,それなりの効果があるにせよ時間や金がかかる。

 第2に,多くの業界では非効率なチャネルを「捨てる」ことが不可能ないし不利なので,「変える」ことが唯一の解なのである。この点について補足しよう。

 例えば自動車や大型の家電製品は,商品の「重量」が大きく,それ専用の輸送手段が必要となる。これを自社でまかなうのは困難だし,仮にまかなったとしてもメーカーと消費者の間に,いくつかの中継点が必要であることは変わらない。

 洗剤など日用品は商品単価に比べ個別配送費が大きく,輸送は一括化するのが経済的だが,一方で商品の体積はそれなりに大きい。消費者の多くは,それらをまとめ買いして家で保管するより,近所のスーパーなどを中継点として保管することを好むだろう。

 輸送・保管の中継点という役割に加え,独自の販売ノウハウや人脈を持つ会社も世の中には多く,彼らを通じて販売すれば,時間や金の節約につながる可能性も高い。

 これらの「商品重量」,「商品体積」,「商品単価・対・個別配送費」,「ノウハウ」から,多くの業界でチャネルは今後も必要である。書籍のオンライン販売大手,米アマゾン・ドット・コム流の中抜きが可能なケースは例外で,通常はチャネルを「破壊」するより「強化」したほうが良いことに,多くの企業が気づいた。これがPRM急伸の理由である。

統制志向から増力志向へ

 PRMには現在のところ,(1)チャネルの統制志向,(2)チャネルの増力志向,の2路線がある。統制志向とは,例えば「このPRMソフトを使えば,どの代理店がどのキャンペーンでどれだけ売り上げを増やしたか,一目瞭然ですよ」といったふうに,「数字を数える側=管理側」を向いたもの。ソフト製品を見ても,昨年まではこれを支援するものがほとんどだった。

 しかし米国でのカンファレンスの展示会場などで,ベンダーに「米国ではチャネルの人たちは,販売などの実績値を喜んで入力してくれるのか?」と尋ねたところ,「値引き幅を増やすなど,しかるべきインセンティブは必要だ」との回答が異口同音に返ってきた。「数字を増やす側=現場」からは嫌われる考え方ともいえる。下手をすると肝心の利益を減らすことになるから,統制志向のメリットは必ずしも大きくない。

 これに対し,今年に入ってPRMはチャネルの担当者の能力を高め,パフォーマンスを上げる方向に変わりつつある(図2)。多様な情報をチャネルの担当者に提供し,活用してもらうというナレッジ・マネジメント(KM)色の強い方向である。

図2●チャネルの増力化へ向かうPRM。情報やナレッジの提供が鍵を握る
図2●チャネルの増力化へ向かうPRM。情報やナレッジの提供が鍵を握る

 2000年2月にシカゴで開催された米DCI社主催のCRMカンファレンスでは,こうしたPRM専門のパビリオンが設置され,専業ベンダー数社が出展した。今後さらに増える見通しである。「新たなPRM」を象徴するのが,この分野の専業ベンダー,米オンデマンド(ondemand)の広告文だ。

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